漢字―生い立ちとその背景/白川静
本当に人間について知りたければフィルードワークだけでは足りません。だって、フィールドワークできない場所でも人間は生きていたのだから。そう、もはや僕らが足を踏み入れられない過ぎ去った過去にも。
過ぎ去った過去における人間を知る(特に人間中心のデザインの観点から)という意味では、例えば、『デザインの生態学―新しいデザインの教科書』で紹介されている深澤直人さんの「アクティブ・メモリー」という用語がおもしろいです。
アクティブ・メモリーとは、特定の個人における経験的な記憶を指すのではなくて、誰もが共通に知っているものの形を通じて身体に意識されないような形で残っている記憶を指します。例として出されるのは、毎日触っている電車のつり革の形は意識としてはよく覚えてはいなくても、ある日その形が微妙に変化したらきっと握った感触から、あれ?と感じるだろうというようなことが含まれます。
アフォーダンス理論とも関連するこのアクティブ・メモリーという外部環境と身体的記憶との関係性は、外部環境から人間の身体側へと記憶が書き込まれるという方向だけでなく、人間の身体行為が外部環境に及ぼす行為の痕跡としても現れたりもします。先の本では、バス停の前のガードレールが何人もの人が座った影響で曲がっている写真などが紹介されています。
この人間が外部環境に残す痕跡にも大きく分けて2つのものがあります。
1つはガードレールの湾曲のように人間が無意識のうちに残してしまう痕跡。もう1つは言うまでもなく、人が意図して残すデザイン…
