イノベーター理論とネットワーク分析 2.Web2.0の時代のネットワーク

前回の「イノベーター理論とネットワーク分析」では、ネットワーク科学(分析)の視点から見ると、イノベーター理論でいうところのイノベーター=革新的採用者からアーリー・アドプター=初期少数採用者を経て、マジョリティ層へと新商品の市場浸透が図られる16%ラインを超えられるかどうかは、VIPクラブ現象をみせる市場のネットワークが適切なハブ(コネクター)をもったネットワークとなっているかどうかであるという点を明らかにした。

その際、マルコム・グラッドウェルの『なぜあの商品は急に売れ出したのか』において、感染の臨界点(ティッピング・ポイント)を超えるための3つの法則(法則1:少数者の法則、法則2:粘りの要素、法則3:背景の力)がネットワークにおけるリンクそのものを生み出すものとして考えることができるという点も指摘しておいた。

今回はこのあたりをもうすこし詳細に考えてみたい。

さて、イノベーター理論に基づき新商品の市場浸透が図られる際の商品認知・理解のための情報伝達の流れは成長するネットワークと見ることができる。

エリック・フォン・ヒッペルの『民主化するイノベーションの時代』は、その重要性がますます高まってきているユーザー中心のイノベーションについて書かれた本であり、3Mやネスレ、ゼロックスなどが採用する実践的技法である「リード・ユーザー法」について紹介しているが、ここで語られていることは、一見、イノベーター理論を破壊するような話のように思われる。しかし、本当にそうなのだろうか?

■マス・プロダクト、マス・マーケティングの時代のネットワーク

マス・プロダクト、マス・マーケティング全盛の時代であれば、このネットワークはある意味、非常に中央集権的なネットワークで、本当に限られたハブが力任せに情報を一気に伝播することで、市場浸透が図られていたと見ていいだろう。
考えてみれば、イノベーター理論というのはまさにその時代に発見された理論であり、その時点では、1.イノベーター、2.アーリー・アドプター、3.アーリー・マジョリティ、4.レイト・マジョリティ、5.ラガードの5つのタイプからなる市場のネットワークは単に階層構造化されたネットワークであり、タイプ間のコミュニケーション以上に、0タイプともいえる企業+マス・メディアのコミュニケーションが単にそれぞれのタイプに対して別個に行われたと見るほうが正しかったのだろう。

その時代、個人のネットワークは今よりずっとクラスター化していただろう。前回の言い方を採用すれば、閾値グラフ的な閾値が確固として存在しており、しかも、同質結合傾向も今より強かったのではないかと思う。
6次の隔たりで世界は狭かったかもしれないが、今のようにSNSやインターネットも存在しない世の中ではそれを実感する場面は少なかったのではないかと想像できる。
その時代のネットワークは、いわゆるスケールフリー・ネットワークではなかったということだ。つまり、ハブとしての役割を担うノードが独占的に一部の企業やメディアに集中していて、決して民主的なネットワークではなかったといえる。

ようするに、市場のネットワークは今と昔ではずいぶん違うのではないか?ってことだ。

■Web2.0の時代のネットワーク

apan.internetの「Web は 2.0 で人工知能化する」という記事に関して」というエントリーで批判的に書いたが、Web2.0とよばれる現在は人々をつなぐネットワークが「双方向性」やら「参加型」やら「リアルタイム化」やら「検索エンジン」やらで高度に構造化された膨大な形式知のネットワークを有した時代である。
すべての人ではないせよ、ブログやSNSやソーシャルブックマークやRSSを普段使用しているWeb2.0的な人は、その気になれば、想像を超えるような多くの人とつながりをもてる。
たいていの人はそのために必要な心理的、時間的コストを考えて、適度なネットワークとどめておくのだろうが、マルコム・グラッドウェルがコネクター(媒介者)と呼んだ人たちのように、普通の人では考えられないようなネットワークをもつ人も中には存在する。
そして、これまで述べてきたように、Web2.0以外にも広範囲にグローバル化が進んだ現在のグローバル市場のネットワークは、その観点からみても、かつての市場のネットワークとは異なるはずだ。

全体的なネットワークとして、昔と現在のそれの違いを挙げるとするなら、リンクの量が劇的に増加したということではなく、その個々のリンク間の情報伝達の精度と速度が劇的に増したということのほうだろう。
人と人とのつながりは昔にくらべてあっさりしたものになったかもしれないが、現在の私たちは昔のコネクターがしていたのと同じように、ほとんど見ず知らずの人とも情報交換をブログやSNSを通じて当たり前のようにしている。そのネットワークの範囲と情報交換速度は一企業の中でせっせと研究されるイノベーションよりも、はるかに速いスピードのイノベーションを可能にする力がある。そのネットワークの力を企業が積極的に採用すれば、エリック・フォン・ヒッペルの「リード・ユーザー法」なんてことも可能になるのだろう。その場合のネットワークでは、昔のように企業が0タイプの地位を確立するのではなく、イノベーターやアーリーアドプターの中に自らを再配置する必要があるのだろう。

■Web2.0の時代のイノベーター理論とマーケティング

さて、ずいぶん、長くなってしまったので、今回はここまでにしよう。
続きは後日にして、Web2.0の時代のイノベーター理論とマーケティングについて、もうすこし具体的に考えていければと思う。

⇒ <イノベーター理論とネットワーク分析

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