誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論/ドナルド・A・ノーマン
誰のためのデザイン?
これは認知心理学者であり、ユーザビリティやユーザーエクスペリエンスの観点から数多くの著書を書いているドナルド・A・ノーマンの著書"The Psychology of Everyday Things"の邦題となっている言葉です。
「私は引いて開けるドアを押してしまったり、押して開けるドアを引いてしまったり、横に滑って開くドアに正面から突っ込んでいってしまったりする」という使い勝手の悪いドアの例をはじめとして、ノーマンはこの本で、オフィス用の電話機や照明スイッチ、ガスコンロや水道の蛇口など、日常的に使われているものデザインがいかに人間を戸惑わせているかという例をたくさん紹介しています。
また、ヒューマンエラーのせいだとされる飛行機の墜落事故や原子力発電所の事故についても、それは本当に人間のミスによるものだといえるのかと疑問を投げかけています。
ノーマンのこの本での主張は、人間が道具の使い方を間違えたり、なかなか覚えられなかったりするのは、人の記憶力がよくないせいではなく、道具のデザインのほうにあるというものです。
つまり、人が使うのははじめからわかっているのだから、たとえ人の記憶力がそれほどよくなかったとしても、その記憶力のあまりよくない人にあわせてデザイナーはデザインを行わなくてはいけないということです。
使う人にあわせてデザインを行うというアプローチを、ノーマンは「ユーザー中心のデザイン」と呼んでいます。