デザインの新しい基礎理論

1つ前の「学問・職能領域のリデザイン」というエントリーで、「そろそろ本格的に仕事のしくみにしても学問のしくみにしても近代以降のリデザインをはじめてもよいのではないか」というようなことを書きました。

そんな問題意識をここしばらくずっと抱いているわけですが、それを考えるうえで打ってつけの一冊を運良く手に入れられました。
クラウス・クリッペンドルフという人の『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』という本です。

デザインとは物の意味を与えることである。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』



初版発行が2009年4月1日となってますので、出たばかりの本ですね。
僕自身、まだ読み始めたばかりですが、すこし紹介。

デザイナーはその職としての腕前を失ってしまった

なぜ僕がこの本を気に入ったかというと、クリッペンドルフの次のような問題意識が、まさに僕がここしばらく抱えている問題意識に合致するからです。

急激に衰退する工業時代の基準で市場向けに製品を忙しく造り出すことによって、技術的変化の潮流になすすべもなく漂うことによって、あるいは現れつつあるディスコースを習得し、未来的な知識の流行モデルのように振る舞う人々の後を追いかけることによって、デザイナーは現代社会においてその職としての腕前を失ってしまったのだ。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

クリッペンドルフはこれに続けて「本書は、デザインがもはやその踏みならされた道を歩み続けることができないことを認めている」と書いています。

僕もまさにそのとおりだと考えます。
デザインに関わる人びとはいま自分たちが何をデザインしているのかを見つめ直さなくてはいけない時期に差し掛かっていることを認識し、自分たちがデザインしようとしているものは何かということ自体をリデザインしなくてはいけないのだろう、と。
それが先の「学問・職能領域のリデザイン」にもリンクする問題意識です。

デザインのギアチェンジ

近代が問題とみなし、機械化によってそれを解決した時代とは明らかに現在の問題は異なるのですから、おなじ方法=デザインで問題を解決できるとみなすのが誤りです。問題が解決され、さらにその解決策が別の問題を引き起こしているというのに、惰性的に何も変わらない問題解決=デザインをしているというのはどうかしています。
そこをきちんと理解したうえで、現在の問題を定義し、その解決策としてのデザイン、そしてデザインの方法のリデザインをしていく必要があるはずです。

デザインは、工業設備の下で生産される機械的な製品の外見を形作ることからギアを切り替えて、物質的なものであれ社会的なものであれ、ユーザーにとって何らかの意味を持つ可能性のある人工物、より大きなコミュニティーを支援し、前例のない方向に記録的なスピードで自らを再構築する過程にある社会を支える人工物を概念化する必要がある。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

そう。いま立ち現れつつある情報社会を支えるには何が必要かということそのものをデザインすることが、いまデザインには求められているのだと僕も思います。

意味の考察への転回

クリッペンドルフはポスト工業化社会におけるデザインの再活性化のためには「意味の考察への転回(セミオティックターン)」が必要であるとし、人工物の意味についての考察を展開しています。

そのなかで僕が興味をもったのは下記のくだり。

意味論的転回の提供する概念、方法、基準は産業の利益に役立つばかりではなく、多様な社会的文化的伝統を尊重し、固有の開発の形態を支援するからである。工業化された西欧社会において支配的な普遍主義は、文化的多様性を未開の記号として、あるいは合理性の欠如として伝統的に見下してきた。工業的人工物の多様な文化的意味の新たな受容は、デザインを文化的な開発プロジェクトの中心へと移行させた。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

「多様な社会的文化的伝統を尊重し、固有の開発の形態を支援する」というのはよいな、と。なぜなら、それが現代における全世界的課題であると思うから。人類の祖先が数千年(いや、場合によっては1万年以上?)かけて積み上げてきた文化的多様性を破壊ないしは消尽してきたのが、ここ数十年の動きなわけだから、これは一刻も早く見直さないといけないと思っています。まったくどっちが未開か、非合理化って話。このヤバさに気づいていないというヤバさはどうにかしないと。

デザイナーは西洋の工業理念を拡大させ、異なる文化的な伝統を各所で置き換えるというコンテキストにおいて、自らの役割を自省することなしに仕事をしてきた。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

「モダンデザインの歴史をざっと概観する 」という連載エントリーで同様の問題を指摘していた僕にとっては、これには共感以上のものを感じます。

そして、

他人の意見を聞くことなしに自分で行う孤高の才能あるデザイナーは急速に過去の人となりつつある。
クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』

というあたりは「グループワーク」などで書いている方向性が間違っていないなと思わせてくれます。

これは良い本に出会えたな、と。

ちなみに日本語版の序文を武蔵野美術大学・基礎デザイン学科の創設者である向井周太郎さんが書いています。著者と向井さんはバウハウスの後継ともいえるウルム造形大学でともに学んだ仲だそうです。

これは読んでおくべき一冊だと思いますよ。



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