ペルソナ/シナリオ法に関するQ&A:1.シナリオには作り手の主観が入るの?

ある方からペルソナ/シナリオ法に関する質問を受けました。「ペルソナを使ったシナリオづくり」に関してです。

個別にはお答えしたのですが、その疑問はほかの方もきっと持たれるものだろうなと思ったので、たとえ話の部分などをもとの内容から変更してここでも公開しておくことにします。

Q.「ペルソナが実在するユーザーのデータをもとに作られる」ことは理解ますが、実際のペルソナのシナリオを書く場合、そのストーリーは、どのようにして作られるのでしょうか。そこには作り手の主観の部分が入ってくるのでしょうか。

おっしゃるとおり、ペルソナを使ってシナリオ作りをする際には、いま現在、ユーザーがどういう風に商品を使っているかという調査データがあるのが基本になります。シナリオを考える上での1つのベースは、この事実としての現在のユーザーの行動です。

ただし、調査データで参考にできるのは、あくまでいまの商品を使っているユーザーの行動ですので、それをどんな風に変えたいかというイメージがシナリオをつくる際には必要です。新しくデザインした商品を使ったら、ユーザーの行動がどう変わるか(あるいは、変えたいか)という点で、イメージをより詳細なものに落とし込んでいくことが、シナリオ作りの目標になります。

例:店頭プリントサービス機をシナリオを使ってデザインする

例えば、作り手側がデザインをする際のビジネス目標として「家電店などに置いてあるデジタルカメラで撮った写真のプリントサービスを利用してもらうようにする」ということを考えていたとします。戦略として「いままで使ったことがない層に使ってもらうのではなく、すでに利用している層の利用頻度を高める」という方向で、そのために必要なものとして「単純なプリント以外に、写真を使ったオリジナル商品(フォトアルバム、カレンダーなど)がつくれるサービスをわかりやすく利用が便利な形で提供する」というヴィジョンを描いたとしましょう。

調査してみると、「すでに利用している層」にも大別すると2タイプいて、1つが「単に撮った写真をプリントしているタイプ」、もう1つが「撮った写真をプリントもするが、PCやネット上で整理したり、加工して楽しんでいたりもするタイプ」だったとします。ほとんどのユーザーが頻度はともかく撮った写真のデータをPCに取り込んでいることもわかった。
その場合、どちらのタイプのユーザー層をメインのペルソナにするかにもよりますが、「単純なプリント以外に、写真を使ったオリジナル商品(フォトアルバム、カレンダーなど)がつくれるサービスをわかりやすく利用が便利な形で提供する」というヴィジョンを具体化したシナリオとして、例えば、

  • 子どものサッカーの試合のときに撮った写真をプリントしようと思って使っていた店頭のフォトサービス機で、「なんだろう?」と思って触ってみた「カレンダー作成サービス」が、自分の気に入ったフレームに自分が撮った写真のなかから合うものを探していくのが意外と楽しかった。ほかに待っている人がいて気になったので、今回はカンレンダーを作らなかったが、今度平日の昼間の空いている時間に来てカレンダーを作ってみようと思った。
  • 自分のPC上で、カレンダーのテンプレートを選んで、それに合う写真を選んだりして、編集を行ってから、それをUSBに入れて店頭に持っていった。編集用のソフトも普段仕事で使っているフォトショップのプラグインとして提供されているので、編集作業も普段の仕事とおなじ感覚でできた。あとで気がついたのだが、専用のサイトに編集したデータをアップしておけば、ログインするだけで注文が完了し、USBでデータを持っていく必要もなかったらしい。店頭で見たフォトアルバムのサンプルもよさそうなので、今度、フォトアルバムをつくるときはそうしてみようと思った。

こんな風に、調査データからわかるユーザーの現在の利用状況をベースにしつつも、作り手側のヴィジョンに従って、ユーザーとものの新たなインタラクションを物語ベースで考えていくわけです。
その際、事実にアドオンするのは作り手側の主観というか、期待です。ユーザーを完全に無視して物語を描くのではなく、こう使ってもらいたいという期待を実現するにはこういう風にデザインする必要があるだろうと考えていくわけです。その意味で主観というよりは期待を込めた仮説でしょうか。

Q.ペルソナが出来たあと、「彼ならきっとこうするだろう」ということでサービス、デザインを固めていきますが、ここでも「こうするだろう」という作り手側の推定の部分が入ってくるのでしょうか。

シナリオでのユーザーとものとのインタラクションは「主観というよりは期待を込めた仮説」として書くと先ほど書きました。ですので、こちらの質問に関しても「推定」と考えるより「期待」あるいは「仮説」というほうが適切かなと思います。

シナリオで描いた「期待」「仮説」を具体化して検証する

「彼ならきっとこうするだろう」という推定というより、「彼にこう使ってもらいたい」「こう使ってもらって楽しんでほしい」という期待と、そのためには「こうデザインする必要がある」という仮説でしょうか。ペルソナを使ったシナリオで描くのは、そういう期待を込めたユーザーの利用シーンであり、利用シーンで描かれたインタラクションを支えるもののデザインの仮説です。

シナリオができたあとの流れですが、シナリオを描くことで何を実現するかというコンセプトはできたので、次は、そこで描かれたシーンを実現するための具体的なデザインをすることになります。プロトタイプづくりですね。

「期待」がどれだけ実現できそうか、「仮説」がどれだけ現実に即したものであるかは、実際にプロトタイプをつくって具体化したうえで、ユーザーテスト法などの手法を使って確かめることになると思います。

  • シナリオに描いたとおり使ってくれるか?
  • シナリオで想定されていなかった問題点はないか?
  • シナリオで描いたような感情がユーザーに湧き上がったか?

などの点を、ユーザーテストで「期待」「仮説」を検証していくことになります。

もちろん、感情面などをどこまでテストで検証できるかという課題はありますが。

ペルソナ/シナリオ法に関するご質問を受け付けます

今回はじめて他の方の疑問にお答えするという形でペルソナ/シナリオ法について書いてみました。これはなかなかいいなと思ったので、ほかにもペルソナ/シナリオ法に関する質問を受け付けたいと思います。コメントなり、メールなりで質問いただければ、できるだけお答えしていきたいと思います。
もちろん、事例を紹介してくれとか、ペルソナつくるのにいくらかかるの?など、このブログでは回答・情報開示がむずかしいものに関しては、お答えすることを遠慮させていただくことがありますし、時間の都合ですぐに回答できない場合もあると思います。また、質問の回答は今回のようにエントリーを立てて回答していきたいと思いますので、個別の仕事の情報など、込み入った質問にはお答えできない点はあらかじめご了承ください。

では、みなさんの疑問、お待ちしております。

 

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