佐治 あなたは宇宙のことをよく理解していらっしゃるんでしょうけれど、僕から言わせていただくと、宇宙のことを知るということは、宇宙のことをあなたが勉強して知ることによって、あなたの人生がどう変わったかということをもって、知る、ということなのです。あなたは生徒に、授業を通して彼らの人生をどのように変えられるかということを念頭において、地学の講義をしていますか?養老孟司、佐治晴夫『「わかる」ことは「かわる」こと』
単に勉強して知識を得るだけじゃだめだということです。かわらなきゃ、です。
これは高校で理科の教師をしている人向けの研修会で、佐治晴夫さんがある1人の先生に言ったことだそうです。
単に知識を得るのが勉強じゃない、知識を教えるのが教育じゃないということですね。
それこそ知識を蓄えるだけなら、図書館やコンピュータのほうが向いています。知識が必要なら随時そこにアクセスすればよい。じゃあ、知識へのアクセスがきわめて容易になったら勉強とか教育とか必要ないかというとそういうことにはならないでしょう。
じゃあ、勉強・教育は何のために人間にとって必要なものかといえば、佐治晴夫さんは、「わかる」ことは「かわる」こと、というわけです。
これはよくわかる。
「かわる」つもりがなきゃ「わかる」こともない
人間は図書館じゃない。ましてや、ファイルサーバーでもない。知識を、情報を、ただ蓄えればいいというわけではない。前に「「わかる」ためには引き出しを増やさないと」というエントリーを書いたように、確かに「わかる」ためには知識・情報は必要です。でも、それは必要条件であって十分条件ではありません。
自分が「かわる」気がないと、「かわる」覚悟、「かわろう」とする意欲がないと、本当に「わかる」ことはないんだろうと思います。「かわる」つもりがなきゃ「わかる」こともないんだろうと。
「わかる」というのは積極的に以前の自分を壊していくこと
「自分は自分だ」なんてことに納得してるあいだはなにも「わかる」ことはないでしょう。なぜなら、わかるための土台がなってないから。そんな状態ではなにかが不意にわかってしまうと戸惑い、おどおどしてしまうかもしれません。未知の場に踏み出すのがこわいのは自分が変わるのをおそれてかもしれません。「わかる」というのは積極的に以前の自分を壊していくことです。自分のそれまでの考え方を「わかる」ことで更新する。その際にはそれまでわかっていた知識が書き変わったり、削除されたりすることもあると思います。それゆえ、単なる知識の蓄積とは違います。
変わることをおそれていたら、学ぶことはできないんですね。
僕なんて「わかる」ためなら自分の仕事上の肩書きもどんどん「かわる」ことを厭わないですしw
そのくらい貪欲にいかないと「わかる」ことなんて、なかなかできないもんですよ。自分の命や健康は賭けないけど、アイデンティティや「らしさ」みたいなものはどんどん賭けますね。そのへんの身銭はきっていきます。生物としての自分は維持、人格としての自分は捨て銭といったイメージでしょうかw
知識詰め込み型の教育・勉強ってどうよ?
このことは「「自分っていったい何なんだろう?」っていう問いの立て方自体が間違ってる?」で書いたことにも通じます。「自分は自分だ」と固定してしまう発想は、勉強とか教育とかを根本的に否定してしまってる感があります。だって、人間が変わらないんだとしたら、勉強する意味も、教育する意味もあまりない。単なる知識の詰め込みが勉強や教育じゃなくて、むしろ、人間形成そのものじゃないんでしょうか? 教育や勉強の価値って。
もちろん、その場合の「人間形成」って決して直線的に、連続的に、人間が成長するって意味ではありません。むしろ、さっきから言ってるように前の状態から更新される、自分が変わる(他人を変える)ということなんだと思います。
変わるのが楽しいって思えるように
だから、最初の引用にもあったように「あなたの人生がどう変わったかということをもって、知る」とか、「授業を通して彼らの人生をどのように変えられるか」とかいう話になります。勉強で自分をつくり、教育を通して他人の「自分形成」をサポートする。それはまったく知識の詰め込みとは次元の違う話だと感じます。なのに、いまの勉強とか、教育とかって、人間を小型の図書館か容量のたかが知れたファイルサーバーくらいにしか考えられてないんじゃないかなーって思ってしまいます。
もっと変わるのが楽しいって感じられるような勉強をしなきゃだめだし、そう思えるような教育にならないとだめですよね。
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