自分の暮らしに興味がないんだから、人の暮らしの提案なんか、そりゃできないよなという話

最近も「Fw:フィリップ・スタルク「デザインに嫌気」、2年以内の引退を表明」や「デザイナーであると同時にスタイリストであればいいのかも」というエントリーを書いてみたり、デザインって今後ライフスタイルを提案する方向に向かわないとだめだよねー的なことを書いているわけですが、でも、いっぽうで「ちょっと待てよ」と思う自分もいたりします。
どのへんが「ちょっと待てよ」なのかというと、そういう自分自身が自分のライフスタイルってのをつくりこめてないよねーって感じるあたり。

これに関しては、『なぜデザインなのか。』のなかで原研哉さんも似たようなことを言っています。

 関東大震災のあと、西山卯三さんが2DKというのを考案した時は、結構まじめに日本の住空間の研究をやったし、同潤会アパートなんかはその延長線上にあるわけですけど、よかったのはその辺りまで。そこから先は2DKという概念が「不動産用語」になりはててしまった。だからいい教科書がないんですよ。現代をいかに住まうかという。不動産屋のチラシがそのまま教科書になって「欲望のエデュケーション」が行われてしまったので、3LDKに対する欲望はあるけれども、自分の暮らしの空間を自分で編集していくっていう欲望は、日本の場合はやや希薄ですね。

まさに希薄で、これは僕自身にもあてはまること。
住空間のみならず、暮らしを自分で編集しよう、デザインしようという欲望に欠ける。最近意識しはじめたのですこしずつマシにはなってきてる傾向はありますが。

だからこそ、よけいに「ライフスタイルを提案する方向に向かわないとだめだよねー」と思ったりもするですが、同時に、やっぱり他人に提案できるようになるためには、まずは自分からだなというほうが強かったりもします。タイミング的にはほぼ同時並行で進めていくということに実際にはなるそうですが。

原さんの引用中にあった「現代をいかに住まうかという」意味での「いい教科書がない」って話に関していえば、世の中、ビジネス書はありあまるほど出版されてるのに、生活や暮らしに関する本は女性向けのものはあっても男性向けというのはほとんどないのではないという風に思えます。もちろん、本当にないかというとそうではないはずなんですがが、それでもビジネス書にくらべればはるかに数は少ないはずだし、話題になるような本は見当たらないでしょう。

amazon.co.jpで調べてみよう

というわけで、実際に本当にビジネス書に比べて、生活や暮らしに関する本は少ないのか? イメージだけでいっててもあれなので、amazon.co.jpの「暮らし・健康・子育て」のカテゴリーに何冊の本が登録されているか、見てみた。
検索結果は160,266件。サブカテゴリー別の内訳は以下のとおり(数字は2008/4/20 21:40現在)。

  • クッキング・レシピ (13,142)
  • グルメ (3,007)
  • ワイン・お酒 (3,174)
  • 住まい・インテリア (4,670)
  • ガーデニング (10,181)
  • ペット (2,674)
  • 家事・生活の知識 (1,596)
  • 資産運用・財テク (7,314)
  • 女性と仕事 (147)
  • 家庭医学・健康 (32,646)
  • 美容・ダイエット (5,172)
  • 恋愛・結婚・離婚 (11,654)
  • 妊娠・出産・子育て (8,887)
  • 手芸・クラフト (8,019)
  • ファッション (1,257)
  • 着物 (279)
  • 習い事 (20,960)
  • 伝統芸能・日本文化 (9,544)
  • 占い (5,933)

見てわかるように、僕がイメージしてたとおりで、圧倒的に女性をターゲットにしたであろう本のカテゴリーが並んでます(「習い事」が20,960件か)。

一方で、じゃあ「ビジネス・経済・キャリア」のほうはどうかというと、こちらの検索結果は319,350件。やっぱり倍近い数字。

ちなみにamazon.co.jpには、それぞれに似たようなカテゴリーとして「投資・金融・会社経営」や「実用・スポーツ・ホビー」があるので、こちらも検索数を調べると、それぞれ、

  • 投資・金融・会社経営:94,771件
  • 実用・スポーツ・ホビー:162,148件

となっていました。

ちなみにいま挙げた4つのカテゴリーごとの「トップセラー」は以下のとおり(左から「暮らし・健康・子育て」「ビジネス・経済・キャリア」「投資・金融・会社経営」「実用・スポーツ・ホビー」の順)。

   

一目でわかるように、「ビジネス・経済・キャリア」と「投資・金融・会社経営」では完全にトップがかぶってるし、「実用・スポーツ・ホビー」の1位も、実は「ビジネス・経済・キャリア」でも2位。つまり、このあたりのカテゴリーには重複して本が登録されているわけで、先の検索結果数も複数のカテゴリーで大幅に重複があるのが想像できます。とはいえ、全部がかぶってるわけでもないことを考えると、ビジネス系・自己啓発系の書籍の数は「ビジネス・経済・キャリア」の319,350件よりもっと多く見積もってもよいかも。

自分の暮らしに興味がないんだから、人の暮らしの提案なんか、そりゃできないよな

話を戻すと、このビジネス書と暮らし・生活関連の本それぞれの出版されている本の数を考えても、世の中の男性が関心をもっているのは仕事のことばかりなんじゃないかって思えます。その反対に、自分の生活・暮らしのことはほとんど関心がないのだということもなんとなくわかります。

いわゆる「自分探し」とやらも「そもそも自分を規定する意味は社会的な理由以外にありえない」で書いたように結局、仕事の面からどう社会に結びついていくのって話になりがちで、自分の暮らしはどうあるべきか、ライフスタイルはどうしたいと思っているかという風にはなりません。
この自分の暮らしはどうあるべき、自分の生活様式をどうつくりあげるかってほうが自分探しのテーマとしてはいいんじゃないかななんて僕は思いますけど、実際はそうはならない。だって、みんな、関心がないんだもん。

じゃあ、女性のほうがそのへんを肩代わりしてやってくれているのかというと、そういうわけでもないんですよね。だって、実際、女性だってキャリアアップ系の本が売れてるでしょ。グルメやインテリアはそこそこ人気かもしれませんが、それよりも恋愛、ファッションですよね。

そうなると結局、誰も自分たちのライフスタイルをどうつくりあげていくかということにほとんど関心をもっていないことがわかる。それよりも賞味期限や3LDKや人気ランキングとか数値化された情報を頼りに、自分のほしいものを判断しちゃってる。
前にも書いたけど、だから、ライフプランっていうとライフスタイルという質的なほうに向かわず、きわめて数値的なお金のプランの話になっちゃう。質で判断する力を失って、なんでも量でしか判断できなくなっちゃってるんですかね? 数学苦手なくせに。

なんか貧しいよなーって思いません?

なので、ライフスタイルの提案が必要だなんて思うんですけど、そもそも、自分の暮らしに興味がないんだから、人の暮らしの提案なんか、そりゃできないよなという話。

   

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