人を育てる刺激のある環境

今日は転職後、初の調査報告会に参加。30名弱が参加しての報告会でしたが、なかなかおもしろかったです。
ユーザー調査の結果をもとにさまざまな職能・職種にある方々がデザインの可能性に関して議論を重ねた2時間。やっぱり、こうして事実ベースでデザインについて議論をするのって楽しいですね。僕も調査でユーザーの行動を観察したりユーザーの声を聞いたりした立場から話をさせてもらいましたが、それぞれが専門的な立場から考えを述べ合う場というのはいいなと思いました。こういう時間こそ今回の転職に期待していたものかなと感じ、転職してよかったなとはじめて実感できました。

刺激のある環境が人を育てる

さて、久しぶりに楽しい刺激をもらった一日でしたが、僕は人が育っていくためにはその人が多くの時間を過ごす職場が刺激ある場であるかどうかがすごく大切なことだなと感じています。

もちろん、先日、「会社の外でどれだけのことができるか?」というエントリーを書いたとおり、人が育つ場というのは必ずしも自分が所属する組織のなかとは限りません。クライアントと対面で打ち合わせを行う場だったり、まったく別の社外プロジェクトの場のほうが刺激を得ることは多いかもしれません。

ただ、決して少なくない時間を過ごすオフィスのなかですから、組織内にも自分に刺激を与えてくれる人や出来事があったほうがいいに決まってます。
毎日変わり映えしない職場よりかは、毎日変化に富む刺激がある職場の方がいい意味での緊張感を感じながら仕事ができ、常に頭と身体を動かすこともできて、人の成長にはいい環境なんじゃないかと思うのです。

人を育てる刺激のある環境をつくるための5つの条件

僕なりに「人を育てる刺激のある環境」が成立するための条件を考えてみると、次の5つが挙げられるかなと思っています。

  1. 個々人がさまざまな分野でのスペシャリスト、エバンジェリストになることを奨励する
  2. 失敗をおそれずチャレンジすることを評価する
  3. 異なる職能をもつ人同士が事実をベースに議論を交わすことができる
  4. 社外プロジェクトなどへの積極的な参加をうながす
  5. 以上のことを経営陣が率先して実践する

このリストだけじゃ何のことかわからないと思うので、1つ1つ見ていきましょう。

1.個々人がさまざまな分野でのスペシャリスト、エバンジェリストになることを奨励する

刺激のある環境をつくるための第一の条件は、まずその環境に属した個々人が他人に刺激を与えられる存在になるということだと思います。
自分が刺激を受ける側だけになろうなんてのは虫が良すぎます。むしろ、刺激がほしけりゃ、まず自分が他人に刺激を与えられる人間にならないとだめです。

ただ、組織なわけですから個々人の自主性にばかり頼っているのもおかしいと思います。きちんと上の人間がそれぞれの人間の適性を見ながら、その人がスキルや知識を磨けるよう背中を押してあげる必要があると思います。具体的なやり方はその人自身に考えさせるとして、「おまえはこの専門分野を磨け」と公式に指示してあげることが必要です。
そうした公式な指示がなければ、目の前の仕事を優先させてしまい、将来の準備に時間を割くことが表立ってやりにくくなることもあるからです。

ただ、その代わり、公式にやらせる以上は、ある程度、外からも名前が知られたスペシャリスト、エバンジェリストとして活躍できるレベルにまで達することを使命とすることも必要です。もちろん、本人に知識が溜まるだけじゃなく、得た知識をブログや公開セミナーのような形でどんどん発信させる。○○なら誰々さんという風に、外からも認められるところまで努力させるのです。

そういう人間が社内に何人かでてくれば強いですよ。しかも、ほかの人もそれに刺激を受けて負けてられないと思う人も出てくると思います。

2.失敗をおそれずチャレンジすることを評価する

さて、そういうスペシャリストやエバンジェリストを育てるためには、失敗をおそれずチャレンジできる雰囲気を組織内できちんとつくっていかなくてはいけません。
そして、チャレンジには完成度よりもスピードが大事だということもちゃんと理解してもらうことも必要です。スピードがなく、ある程度のレベルに達するまで何も出てこないようでは、必ずまわりから、あいつは、あの部署は毎日何やってるんだ?という疑問の声があがってきます。
最終到達地点に達するまでに時間がかかるのはいい。でも、そこに至る道のりは常に進捗度合いがわかるようにアウトプットさせることを常態化しないといけません。

これは特にR&Dの部門などには口を酸っぱくして何度もいう必要があります。ただでさえ日々の業務をこなす現場とR&Dの部門ではスピード感が違います。ほっといたら1年経っても何の具体的な成果も出てこないなんてこともザラでしょう。それではダメです。
別に完成品がみたいわけじゃないのです。ちゃんと考えて作業をしているということをまわりは知りたいのです。そういうことに刺激を受けたいのです。
それができずに、いつまで経っても中間成果物さえでてこないのなら、本当に考えたの? それは「考えた」と言わないよねとなります。

逆にR&Dの部門がすごいスピードでアウトプットを次々出せるようになると、現場にはものすごい刺激になります。また、現場に対しては、R&Dの部門だけが研究開発を行っていればいいわけじゃないことをきちんと理解させるべきです。現場こそ、日々の業務のなかに研究開発のヒントにたくさん出会ってるはずですから。それにちゃんと気づくことができる目を現場の人間には植え付けていくべきです。

3.異なる職能をもつ人同士が事実をベースに議論を交わすことができる

3つ目の条件は、まさに今日僕自身が体験してきたことですね。異なる職能をもった人たちが話す機会がそもそもない組織もあるでしょうし、機会はあってもおたがい関心事があまりに違いすぎて共通の話題が見つけられないということはあるでしょう。

しかし、今日の報告会のように特定の事実ベースを話す機会があれば、視点はバラバラでもフォーカスが事実データから極端に離れてしまうことはありませんので、会話が成り立ちやすくなります。また違う職能の意見でもおなじ事実をみて言っていることであれば理解しやすく、ああ、そんな見方もできるのかと刺激になります。おなじものを見ながらそれぞれの専門的な知識をもった人々がさまざまな角度から事実の分析を行うことほど有意義なことはないかもしれません。

そうではなく事実を見ずに、おたがい自分の領域でばかり話すから異なる職能間での議論が成り立ちにくいのです。異なる職能によるコラボレーションには話題のフォーカスとなる事実データが欠かせないのだと思います。
事実のリサーチから、多方面からの視点による共同での分析作業、そして解決策の検討へ。この流れをつくるためにリサーチを大事にする企業文化がつくれれば社内に活気が生まれやすくなるのではないかと思います。

4.社外プロジェクトなどへの積極的な参加をうながす

異なる職能をもった人と関わるという意味では、組織の枠を超えた社外プロジェクトに積極的に参加するのもひとつの手です。これはまさに先日書いた「会社の外でどれだけのことができるか?」のとおりですね。しかも、最初の条件である「1.個々人がさまざまな分野でのスペシャリスト、エバンジェリストになることを奨励する」という点と絡めても、社外プロジェクトへの参加というのは、スペシャリストやエバンジェリストのスキル・能力をさらに高めることにつながると思います。

外の世界では、組織のなかとはまったく異なる刺激が得られます。その刺激から得たものをもう一度、社内に持ち帰ってきてもらえばいい。そうすれば、社内にも新たな刺激が生まれます。そういうサイクルをうまく作り出せれば、組織はほっといても刺激に満ちてくることになります。

5.以上のことを経営陣が率先して実践する

さて最後ですが、何より大事なのは上記のような文化を組織内に浸透させていくためには、経営陣が以上のことを率先して実践して見本を見せるということだと思います。経営陣がいくら口酸っぱくいっても、口でいうだけじゃだめです。そんなに言うならまず自分がやってみせろよと誰もが思います。それができないようじゃ、上記のような条件を満たしていくことは困難です。ここで経営陣には、マネージャーというよりもリーダーとしての役目が求められます。

とはいえ、大きな組織で経営陣の動きが現場レベルまで広く浸透させるのがむずかしい場合には、もうすこし現場に近いところに見本となる人材をつくることが必要になるかもしれません。しかし、その場合にも経営陣にはそういう見本を育てることを自ら責任をもって行うことが必要だと思います。とにかく自ら積極的に行動を起こし、社内に刺激を与えることができないような経営陣では、組織を刺激に満ちた環境につくりあげることはできないのではないかと思います。
経営層から現場レベルまでそれぞれが互いを刺激し合える存在になってこそ、社内が刺激にあふれ人を育ちやすくなる環境になると思いますから。

  

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