おそらく、読んで「へー」と思われただけの方がほとんどで、自分なりにそれがどういう根本的な変化を現在のデザインの現場にもたらしうる可能性をもっているかに気づかれた方はそう多くはないでしょう。
でも、ちょっと考えてみてください。
<どうつくるか>よりも<どう使われるか>を第一義的に考え、優先するとどうなるか?を。
これ、結構、ラディカルな変化をデザインの現場にもたらす可能性をもった爆弾なんですよ。
つくるもの別ではなく用途別のデザインのカテゴリー
<どうつくるか>よりも<どう使われるか>のほうを優先するということは、言い換えれば、つくるもの自体よりも、それが人びとの暮らしや仕事の現場でどのように役に立つか、どんな目的・用途で使われるかを優先して考えるということです。これがどういうことかわかりますか?
つまり、これまでつくるものの種類で分けていたデザインのカテゴリー(たとえば、Webデザイン、紙もののデザイン、AV機器のデザイン、etc.)ではなく、目的または用途による分類(たとえば、辞書のデザイン、音楽試聴のためのデザイン、ものを考えるためのデザイン、etc.)が成立することになるということなのです。
たとえば、知らない言葉について調べるという用途=辞書のデザインを考えれば、書籍としての辞書も、電子辞書も、Web上の辞書をデザインする人がおなじあったほうがいいということになります。
これまでなら、それらは書籍の辞書は書籍のデザイン、電子辞書は電子機器のデザイン、Webの辞書はWebデザインという形で、<どうつくるか>によって異なる人がデザインを担当してきたと思います。
それはユーザー中心のデザインのアプローチではなく、<どうつくるか>という制作・製造に重きを置いていたためなのでしょう。
しかし、<どうつくるか>よりも<どう使われるか>に重点を移した瞬間、従来の物理的になにをつくるかによるデザインの分類は一歩退いて、どう使われるのかというユーザーの用途や目的別にデザインは専門化されたほうがよいということになるのではないでしょうか。
Webデザインではなく、辞書デザインあるいは知らない言葉を調べるためのデザイン。
<どう使われるか>をより詳しく理解する
知らない言葉を調べるためのデザイン、書くことで思考を支援するためのデザイン、情報を求める人が求める情報を効率よく探すためのデザイン。それらは<どう使われるか>を重視した場合には、ユーザーがどのようなシーンでどのように利用するかを理解するための専門的な観察・分析が必要とされるでしょう。
Webという形で実現されようと、紙という媒体で表現されようと、ユーザーのニーズという側面からみるとそう違わないのかもしれません。
もちろん、書籍・電子辞書・Webの辞書の使われ方が同様のものであると考える分類が正しいかどうかは観察調査を行った後の検証が必要です。
ただ、これまで<どうつくるか>によって分類が行われてきたデザインのカテゴリーが、実は<どう使われるか>という用途でも分類可能だということはいえそうです。
Webデザイン、グラフィックデザイン、プロダクトデザインといった業界分類的なものが絶対的なものではなくて、それは単に<どうつくるか>を重視した場合の分類でしかないのです。
ユーザーの利用とそれにともなうユーザー価値に力点を置くのであれば、いかなるシーン・用途を支援するのかでデザインのカテゴライズを行うことも可能なのです。
SIerさんのソリューション
何をわけのわからないのことを言っているのだとお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、よく考えてみてください。いわゆるSIerさんがどんな風に自社の提供するサービスを区分しているか。ソリューションという言葉をSIerさんは使って自社の提供するサービスを分類しているでしょう。
用途別ソリューション、業界別ソリューション、など。
なんでそうしているかというと、業務用に用いられるシステムの場合、業務上のルールが用途や業界別にパターン化すると、専門性が維持しやすいからだと思います。おなじ基幹システムをつくるのでも、銀行のそれと製造業のそれでは大きく違うからです。
基幹システムというもので分類するより、銀行なら銀行というおなじビジネスモデルをもった業界での分類のほうが、システムの使われ方という視点ではパターンの類似があらわれやすいからだと思います。
つまり、SIerさんはユーザーの用途に応じて、サービス分類を行っているのです。
そして、それはつくることよりも、設計=デザインすることに重点を置いているからにほかなりません。
デザイン主導のイノベーション
これを参考にすれば、いきなりプロダクトなどまで統合することはできないにしても、おなじように情報を扱う紙とWebくらいは統合したのち用途別の分類を行うことも可能なのではないでしょうか。プロダクトでもきっとモニター上でのインタラクションを通じて操作・利用を行う類いのものは、情報デザインとして統合可能なのだと思います。
ユーザーの立場を重視したデザインに身をおいた瞬間、なにをつくるかの区別はそれほど関係なくなるのだと思います。
だから、IDEOのようなデザインファームがさまざまな分野のデザインを手がけることが可能になるのでしょう。
そうなると一気にデザインの可能性は高まるはずです。
Webだとか紙だとかプロダクトだとかという区分での縛りも減り、領域横断的なソリューションのデザインも行いやすくなると思います。
IDEOなどのデザイン主導のイノベーションの考え方は、まさに<どうつくるか>よりも<どう使われるか>のほうを優先するデザインのアプローチをとることがスタートになるのでしょう。
つくる=制作・製造と、デザインすることを組織的にいったん切り離して考えることで、デザイン主導のイノベーションの発想やそれを実現するための具体的な思考や作業が行いやすくなるはずです。
このあたりはいまのユーザー中心のデザインの実践を積み重ねつつ、もっと考えを展開させていくとおもしろそうだなと感じています。
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