みんなで手を動かしながら考えるということを図にしてみました。

昨夜、「ユーザー中心のデザインは「みんなで手を動かしながら考え」なきゃ進まない」というエントリーを書きましたが、どうしてユーザー中心のデザインで「みんなで手を動かしながら考える」ことが必要なのか?という点を、いまひとつ自分でもうまく説明しきれていないと思ったので、あらためて図なども使いながら整理してみようと思います。

まず、「どうして?」に対する「なぜならば」の答え。

それは、人びとの生活をよりよいものにすることを目的(デザイン問題)とする、ユーザー中心のデザインでは、単にものをデザインするのではなく利用者の経験価値や暮らしそのものがデザインの対象となるため、直接的にはものやサービスのデザインをするにしても、そのデザインに関わるチーム全員がユーザーの行動やそれにともなう心理的経験そのものを身体に叩き込むことが大事だからです。

みんなで手を動かしながら考えることが必要な3つの理由

みんなで手を動かしながら考えなくてはならない理由をもうすこし細分化すると、次の3点になります。

  • デザインの対象は、利用者の行動やそれにともなう経験という目に見えないものであり、ドキュメントベースではなく、経験としての共有が必要となる(ドキュメントだけでは表現しきれないし、表現するとなるとそのドキュメント化の負荷はおそろしく高い)
  • 利用者の経験価値の向上、利用者のおもてなしを考えるには、その目に見えにくい行動や経験を可視化することで、ユーザー視点で問題を構造化して捉え、さらにその問題を理解したうえで具体的なデザインを行う必要がある
  • 設計者や評価者全員がいつでも具体的なユーザー視点(=ペルソナ)で設計および評価できることが必要で、なおかつユーザーの視点はメンバー間で共有できていなくてはならない

この3点を満たそうとすると、厳密な分業体制でそれぞれ専門スキルをもった担当者「1人が考え、ドキュメントベースで共有する」というこれまでのプロジェクトの進め方では、ユーザーの経験を共有したうえで、ユーザーの視点で設計あるいは設計物の評価を行うという作業のコミュニケーション・ロスが膨大に発生してしまいます。

ペルソナ/シナリオ法をつかう場合でも

いくらペルソナ/シナリオ法という、ユーザー像やユーザーとものとのインタラクションを描き、それをメンバー間で共有するのに最適なデザイン方法があるといっても、誰かがひとりがドキュメントを作成するやり方ではうまくいきません。

実際にWebや製品、サービスのデザインを行うためには、さまざまなシーンにおけるペルソナとものとのインタラクションを考える必要があります。
それをつくる作業に参加せずに、あとから膨大なドキュメントだけを見ただけでは、それが本当にユーザーの経験を反映しているのかを疑問に感じるでしょうし、かつその疑問を払拭するための説明までドキュメントに含めるとなると、それだけでドキュメントの量は倍にも3倍にもなるでしょう。
もし、そうなったらドキュメントを読み込むだけで大変です。仮に全部を読んだとしてもユーザーの経験が身体にしみこみかどうかはわかりません。
その状態で、具体的なものの視覚化、プロトタイプ作成の際にユーザー視点から作業が進められるかというと、かなりむずかしいはずです。

ドキュメントベースのコミュニケーションでは負荷が高すぎる

「1人が考え、ドキュメントベースで共有する」というこれまでのデザインの進め方では、とてもじゃありませんが、ユーザー中心のデザインを進めることはできません。
ドキュメントベースのコミュニケーションでは負荷が高すぎるのです。

では、何をコミュニケーションのベースに据えればよいかといえば、それこそメンバーがいっしょになって行う作業の経験の共有を中心に据えるしかないと思います。だからこそ、「みんなで、手を動かしながら考える」なのです。
おなじ時間、おなじ空間、おなじ問題を解くための議論や作業の場の共有。その全体を体験として共有する以外に、目に見えず、かつ、きわめて高度な構造化が求められる作業を、メンバーがおなじものを見ながら進めるということはむずかしいはずです。

だからこそ、「みんなで、手を動かしながら考える」ということを具体的に実現する方法としてワークショップを中心にプロジェクトの進め方をデザインする必要があるでしょう。



ワークショップ:みんなで手を動かしながら考える

では、そのワークショップの実施を通じて、デザイン作業を進めるためには、何が必要なのでしょう。

  1. ワークショップでの作業=思考のゴール
  2. ゴール到達に必要なタスクの抽出
  3. 抽出したタスクをワークショップ参加者に役割分担する

というワークショップそのものを事前にデザインしておく必要があるはずです。

また、上記でどんな役割分担が必要かという視点で、一般的な役割を抽出すれば、

  • 各タスクの作業者:具体的な作業の成果物-プロトタイプやワークモデル-をつくる人
  • 素材提供者:たとえばユーザー行動調査後のユーザー行動分析のためのセッションであれば、調査を担当したインタビューアや記録担当者
  • 司会者:ワークショップがゴールに向かって進むようモデレートしたり、作業の成果物のチェックをする役割
  • 記録係:大きなモニターやプロジェクターを使ってみんなで見えるように議事録を作成する人

といった役割が必要になります(もちろん、ワークショップでどんな作業を協働で行うかにより、必要な役割は増えるでしょう)。



ワークショップを中心に据えたプロジェクト全体のデザインが必要

こうしたワークショップをうまく行うには、先のワークショップそのもののデザインのほかに、

  • 場の演出:事前の演出、その場の演出、事後の演出
  • タイムマネジメント:必要な参加者が全員参加できる時間設定、決められた時間内に作業を終了するためのマネジメント
  • 呼吸=リズムをあわせる:定期的な朝のブレインストーミングの実施、メンバー間の交流イベントなどによる呼吸やリズムの調整

ができている必要があります。
「おなじ時間、おなじ空間、おなじ問題を解くための議論や作業の場」を共有するのですから、とうぜん、この3つがワークショップの実施の可否、そして、成功の確率を高めるカギとなります。

また、デザインプロセス全体では、ワークショップによる作業を行う必要は何度もあるでしょう。
そうした複数のワークショップの場を設けるためには、最初にしっかりとプロジェクト全体のデザインが行われていなくてはなりません。そうでないとプロジェクトの期間中に、必要なワークショップの回数をこなすことはできません。

  • プロジェクト定義(目的/ゴール/スコープ)
  • デザイン作業の具体的な進め方・タスク抽出⇒スケジュール
  • 体制づくり、役割分担、メンバー間のコミュニケーション方法
  • ブレインストーミング、ワークショップの計画

などを事前にメンバー全員で議論し、プロジェクトそのものを計画・定義しておかなくては、「みんなで手を動かしながら考える」=ワークショップを中心にしたデザイン作業を実際に行うことはできません。

このプロジェクトを定義し全体の計画を行うという最初の作業にこそもっともデザイン・スキルが求められるし、ここをしっかりデザインしないとプロジェクトそのものがうまくいきません。
自分たちがユーザー中心のデザインをしようというのに、そもそも自分たち自身がユーザーとなるプロジェクトの仕組みそのものが自分たち向けにデザインできないようでは、とうてい、ユーザー中心のデザインを行うことはできません。



ユーザー中心のデザインのための3つの役割

ちなみに、ユーザー中心のデザインを行うプロジェクトの体制づくりを行う際には、どんなメンバーを集めればよいか(逆にいえば、ユーザー中心のデザインを行うためにはメンバーにはどういうスキルが求められるか)というと、ISO13407:人間中心設計プロセスに、以下のような3つの活動が示されていて、それを参考にすることができます。



  • リクワイアメントエンジニアリング(RE)活動:ユーザーの利用状況の分析、ユーザー要求仕様の立案などを行う活動
  • ユーザビリティーエンジニアリング(UE)活動:ユーザー要求仕様をベースにユーザビリティーを配慮したプロトタイプを開発する活動
  • ユーザビリティーアセスメント(UA)活動:ユーザビリティー評価基準を作成しユーザー要求に沿っているかを評価する活動

基本的に、プロジェクトメンバーにはこの3つの活動のいずれか、あるいは複数の活動の具体的な作業を行えるスキル・ノウハウが必要になるといってよいと思います。

ようするに、僕はWebディレクターだから、ビジュアル・デザイナーだから、ユーザー中心のデザインの方法なんか知らなくていいなんてことにはならないということです。
ペルソナ/シナリオ法なんて関係ないなんて考えてるメンバーが混ざっていると、ワークショップでその人に担当してもらう作業がなくなってしまいます。
そして、それでは「みんなで手を動かしながら考える」という進め方ができなくなり、その人に説明するためのドキュメントや口頭での説明の手間が増えてしまうのです。

UEの活動を「ユーザー要求仕様をベースにユーザビリティーを配慮したプロトタイプを開発する活動」などと簡単に説明してますけど、この「ユーザー要求仕様」をどうベースにするかを考えた場合、ドキュメントベースでやるのと、メンバーで共通した体験をベースに進めるのとでは、必要なコミュニケーション・コストの差はとてつもなく大きいのです。

みんなで手を動かしながら考えるということが必要な理由をまとめた図

さて、ここまで書いてきたことを1枚の図にすると、こんな風になるのかなと思います。



どうでしょう? すこしはイメージできたでしょうか。

同時に、この図では「「創造的な仕事」に求められる7つの作法」で書いた図のうち、1~5までの作法が含まれていることにも気づいてもらえると幸い。

  

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