今回は、さすが情報のデザイン、コミュニケーションのデザインを仕事にしている原さんならでは、というところをご紹介。
ある企業で聞いた話ですが、工場で働いている人たちの仕事の能率があまりに悪いので、試しに国語のテストをしたら、びっくりするくらい語彙が少なく、成績がよくなかったそうです。たしかに「うぜーな。うぜーよ。メシいこうぜ。マジっすか?」くらいの言葉で済んでしまう世界がある。(中略)それはマズいと思って、その企業は国語教育を始めたんだそうです。それで、彼らが国語が少し面白いと思い始めたあたりから、俄然仕事の効率がよくなった。原研哉/阿部雅世『なぜデザインなのか。』
これはちょっとびっくりです。語彙の少なさと仕事の能率がリンクしてるなんて。
でも、もしこれが本当ならなんとなく理由は思い当たります。
言葉を扱えることと「わかる」ということはある程度、リンクしているはずです。ある事象を自分の言葉の文脈で筋が通るように配置できると「わかった」になります。だとすれば、語彙の多さや国語的な編集能力の度合いは「わかる」ということに関係してきます。そして「わかる」ことが多いほうが少ないよりは仕事の効率もよいでしょう。
デザイナーは説明のプロにならざるを得ない職能
「わかる」ということは、自分の考えていることを説明できる能力とも関わってきます。当然、自分でわかっていないと他人に説明はできません。しかし、他人に説明するには自分でわかっているだけではダメで、それを説明する力も同時にないといけません。そして、説明する力には、語彙の豊富さや国語の能力、そして表現力や説明する自信にも関わっているでしょう。つまり、コミュニケーション能力です。
豊富なボキャブラリーと、自分の頭で考えているいいポイントを適切に説明できる能力こそ、コミュニケーションの基本だと思います。クロッキーのような身体能力に次いで、もうひとつ重要なのは言葉です。デザイナーは本来、説明のプロにならざるを得ない職能なんです。原研哉/阿部雅世『なぜデザインなのか。』
「デザイナーは本来、説明のプロにならざるを得ない職能」というのはごもっともです。
原さんはその理由をこんな風にも言っています。
デザイナーというのは、職業柄ものすごく説明しにくいことを考え付いてしまうんですよ。いまだかつて誰も思いつかなかったようなことを考えてしまって、それを「あなたの事業にこんなふうに適用するとうまくいくのではないですか」と提案するのが、デザイナーです。原研哉/阿部雅世『なぜデザインなのか。』
確かに、これは通常の説明よりはるかに骨が折れる説明です。だって、誰も考えたことのないものをイメージして納得してもらえるまでに説明をしなきゃいけないのですから。
もちろん、納得してもらえなければ、どんなにすごいことを考えてもその考えは実現にはいたりません。そうなったからといって実現できなかったのを他人のせいにしてみてもはじまらないでしょう。むしろ、自分の説明の下手さをなげくしかありません。
独創的な発想の根には独創的な言葉がある
僕らもWebという情報デザインの仕事に関わっていますが、原さんほど、情報やコミュニケーション、言葉というものに真剣に考えているでしょうか?僕もそれなりに言葉や情報、コミュニケーションについては考えてきたつもりでしたが、この本を読んでとても原さんの足下にもおよばないなとがっかりしました。
この本を読んでいてあらためて、創造力とコミュニケーションと「わかる」ということの背景としてある言葉の力を考えさせられました。
国語というと文科系といわれますが、それは絶対に違う。誰も感知し得なかった世界を、言葉で見出し、探り当てていく能力に理科系も文科系もない。理科系とか文科系という発想がずっと長いこと世界を2つにわけてきたけれど、もうそろそろそういう区分けはやめたほうがいい。領域に関係なく、独創的な発想の根には独創的な言葉がある。原研哉/阿部雅世『なぜデザインなのか。』
Webという情報、コミュニケーションをデザインする仕事を従事している以上、語彙が少なかったり、コミュニケーションの能力が乏しかったりするのはやはり致命的です。
言葉やコミュニケーションを知らずにいったい何をデザインしているのかということにもなります。もうちょっと言葉や情報、コミュニケーションということをちゃんと考えていかないといけないですね。
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