モノからモノが生まれる/ブルーノ・ムナーリ

現在、「デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察」と題して、企画設計=デザインの方法についての考察を行っていますが、僕がこの考察をはじめたきっかけが、この『モノからモノが生まれる』です。

企画するのは、そのやり方を知っていれば簡単なことである。
問題の解決に至るための方法を知っていれば、どんなことも容易となる。生活のなかで出くわす問題にはきりがない。解決の方法を知らないために難しくみえる単純な問題もあれば、解決不能と思われる問題もある。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

先の「デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察(e.素材と技術)」でも書きましたが、デザインとものづくりは別物と考えるべきです。特定のものや商品カテゴリーと固く結びついているのは、ものを実現する職人やメーカーであって、デザイナー(デザインチーム)は特定のものの領域に縛られる必然性は本来ないのだと思っています。
企画のやり方、問題の解決に至るための方法を知っていれば、デザインという作業は本来どんなものにもシステムにも対応できるはずなのです。その点でこのムナーリの方法論は、ハーバート・A・サイモンが『システムの科学』で提唱した「デザイン(人工物の科学)のカリキュラムの7つの項目」にも通じるところがあるでしょう。

デザインの方法

さて、本書でムナーリは、自身でも、

企画の方法論について書かれた本書では、いくつかの小さな問題とより複雑な問題を、どのように解決するのかという観点から紹介している。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

と述べているように、オーケストラ用の譜面台やシャッター用の南京錠、12星座が描かれた小さなジュエリー、ニットのランプ、子供に本というものを知ってもらうための『本の前の本』、組み立て可能で自在に形を変更できる展示会用の陳列台、スクーターなどをどのようにデザインしたかを紹介することで、例の12のプロセスから成る企画設計の方法を読者がイメージできるようにしています。
当然ですが、ムナーリ自身によるデザインの方法の説明は、僕が「デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察」で書いているよりもずいぶんわかりやすい。僕の説明じゃいまいちピンとこない方はぜひこの本を読んで理解してみてくださいw

『本の前の本』

例えば、子供に本というものを知ってもらうための『本の前の本』のデザインに関しては、最初にこんな問題提起がなされます。

学校で、難しい本や退屈な本を読まされたからという、たったそれだけの理由で、本と呼ばれるモノにはいっさい興味を持たないと決め込んでしまった人々に、こうしたことを理解させるには、どうすればいいのだろう?
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

ムナーリは、「本はもういいや」と思っている人は、「本のおかげで、人は物事の知識を増やすことができ、起きる事柄の多くの側面を理解できるということを知らない。本は他の興味関心を目覚めさせるということを、本はよりよく生きるための糧となるということを、知らないのである」と考えて、「こうしたことを理解させる」にはどうしたらよいかという問題から、12冊の文字のない変わった本からなる『本の前の本』をデザインしました。

「3歳の子供の手のなかにも無理なく収まらなければならない」くらい小さく設計されたこの12冊の本は、スポンジでできたページごとに形の違う穴がたくさん開いた本だったり、たった3ページからなるカスタネットのように音がする木の本だったり、フェルトでできた本はページの真ん中に小さな切れ目が空いていて半分のページには切れ目と同じような大きさの白いボタンがついていたり、と、幼い子供に「視覚、触覚、音、熱、素材による」刺激を与えて、子供が本をみてたくさんの驚きが得られるようなものになっています。

子供はすべての感覚器を通じてさまざまな情報を受け取る。そして、こうしたモノは本と呼ばれるのだと知り、そこにはそれぞれ異なる情報があるということを知るのである。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

ムナーリは、本はこういうものだという既成の概念からはじめるのではなく、明確な問題からデザインをはじめることで、本というものを「本の前」まで戻し、子供に創造力を与える新たなおもちゃをつくり出したのです。

すべての感覚に働きかけるデザイン

この『本の前の本』でもデザインされているような、すべての感覚に働きかけるものの形は、ムナーリのデザインの特徴の1つです。

今日なお多くのデザイナーが、見た目ばかりを気にして設計し、美しいものだけを作ろうと腐心している。彼らは、完成品の感触が悪かったり、重すぎたり、軽すぎたりしても気にしない。触った感触が冷たくないか、解剖学的に優れたフォルムだろうか、ということには関心がないのである。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

ムナーリが大事にする、すべての感覚に働きかけるデザインは、今日的な言葉でいえばユーザーエクスペリエンスのデザインに近いものです。
だから、ムナーリのデザインの方法がISO1307:人間中心設計プロセスに重なってみえても不思議はないのです。

要するに、何かを企画設計するときに心に留めてほしいことは、人間には、まだすべての感覚がある-たとえそれが、下等といわれる動物のそれに比べれば、衰退していても-ということだ。もし、触り心地のいい何かを設計したなら、人々はその感覚に気づき、忘れていた感覚の1つを再び活用し始めるだろう。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

デザイナー(デザインチーム)の役割は、まさにこうした人間のすべての感覚への働きかけにつながるモノとヒトとのインタラクションを企画設計することにほかならないのではないでしょうか。

何度もいいますが、ものづくりとデザインは別物で、具体的なものを実際に実現する作業はものづくりを専門にした職人にまかせるべきだと思います。むしろ、デザインに携わる人、デザインをすることが仕事である人は、その手前で、どのように人間のすべての感覚に働きかけるべきなのかというデザインの問題自体に取り組まなければいけないはずです。

デザイナーの役目

ものをつくるのがデザインではないはずです。どんなものがあるべきかを考え、それを実現する方法をものづくりの専門家である職人とともに考えるのがデザイナーの役目です。

それゆえ、デザインの方法とは決してものづくりの方法ではないのです。ものを適切な形に加工する方法ではないのです。
デザインの方法とは、適切な問題を定義し、その問題の解決案を具体的に創出するための考える方法だということを誤解せずに理解する必要があるのだと思います。

考えることから逃げてはダメなのです。
データを収集し分析する作業から、自らの仮説やコンセプトを壊す検証の結果から、そして、問題を定義し解決することから逃げてはダメなのです。

デザインの方法を理解し身につけている人こそが本当の意味でデザイナーであり、デザイナーに与えられた役目を全うできるのではないでしょうか。
そして、いま、こうした考える力、問題を定義し解決する創造力こそを、組織的にも社会的にも養っていく具体的な方策が求められているのではないかと思います。
それがものづくりの技術とは異なるデザインの技術なのですから。



デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察

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