もちろん、デザインそのものにおいても。
そのことは、昨夜の「富士通さんの「キッズコンテンツ作成ハンドブック」のペルソナを見て」でもすこし書きましたが、あらためてちゃんと書いておくことにします。
ペルソナを作成する目的を理解する
まず、ペルソナ/シナリオ法とは、- ユーザー中心のデザイン(人間中心設計)のアプローチにおいて、デザインの問題をより深く具体的に理解するために、ユーザーの視点からデザインに求められいる事項を把握し整理するのために使う要求分析の手法であり、
- したがって架空のユーザー像を明確にするために書かれる/描かれるペルソナ文書では、これからデザインしようとするものの形を決める上で必要なヒントとして、ユーザーの知識レベルや性格、生活や仕事の状況、生活や仕事のスタイル、対象商品(あるいはサービス)に関する利用経験やこだわり、対象商品(あるいはサービス)を利用する目的など、デザインを考えるために必要となる情報が項目として含まれていなければならず、
- また、その際には参照できるデータとして、ペルソナ作成の元となった調査データ(定量/定性のいずれも)を添えることが必要となります。
- つまり、デザインチームにとっては、ペルソナを作成する作業そのものが、ユーザーとものとのインタラクションをどうデザインするかを考え決めていくデザインの作業そのものであって、
- 単にどんな人に使ってもらいたいかということをイメージするために、調査データを適当に並べてなんとなくこんな人いそうな人物像をつくりあげればいいとものではありません。
あくまでペルソナはこれからデザインしようとしているものと一心同体の関係になくてはならず、それゆえ、一度つくったペルソナを別のものをつくる際にそのまま利用したり、別の企業が他社のペルソナをそのまま真似て商品やサービスの開発をしようと考えることは根本的に間違っています。
ペルソナにテンプレートは存在しない
したがって、デザインするものが異なれば、ペルソナをどう描けばよいかという答えも変わってくるのが必然です。それゆえに、ペルソナを表現する文書にはテンプレートというものが存在しません。デザインの形が数多く存在するようにペルソナを表現する文書の形も決して型を決めるということができないのです。
ただ、このことはペルソナを解説した書物できちんと説明されていません。下手すればペルソナを専門的にデザインの手法として用いている人が普通に「ペルソナの描きかたがいろいろあるのはどうだろう?」と考えたりしてしまいます。これはちょっと問題だなと思います。
ペルソナを作成する目的は、企画設計を行う上で問題の1つ1つにユーザー視点での回答を得ようとするためです。問題の回答をユーザーから得るために、ユーザーの代表であるペルソナに答えてもらうことが、ペルソナをつくる上での目標となります。
とうぜん、デザインの問題は個々のケースで異なるはずですから、ペルソナにお伺いをたてる内容もケースごとに違うはずです。にもかかわらず、ペルソナ文書のテンプレートを求めるのは根本的に考え方が間違っているのです。
ペルソナに含む要素
ペルソナ文書にテンプレートを求める発想は、スタイリングという意味でのデザインを考える際に既存のもののスタイリングを必要以上に参照しようという発想とおなじです。創造力の幅を広げるために、既存のもののスタイリングを知識として蓄え、そこから新たなスタイルを考え出そうとするアプローチなら正しいのですが、単に「あっ、これってかっこいいな。こういうのをつくってみたい」という物真似的発想だとしたら、それはデザインではなくコピーです。デザインをするのも、そしてデザイン作業の一部であるペルソナづくりも、すでにあるものの構成要素を参照して自分の知識を蓄えるのはいいのですが、最後の答えは自分(たち)で考えて見つけ出すものであることを忘れてはいけないと思います。答えではなく、答えを見つけ出す方法を学ばなくてはいけません。デザイン=企画設計全体においてもそうですし、ペルソナのつくり方においても同様です。
というわけで、以下で挙げるリストは、ペルソナをつくる上でのテンプレートではなく、ペルソナづくりでよく用いられる素材の一覧だと考えてください。もちろん、ここに挙げた項目がすべてではありません。素材探しも大事なデザイン作業の一部ですから、これ以外のものもデザインするそれぞれの方が探し見つけ出してください。
- 名前、愛称
- ペルソナはデザインに関わるメンバー全員がおなじユーザー像を共有するためのツールです。メンバー間でブレインストーミングする際、相談をする際にペルソナを呼びやすいように、名前や愛称をつけることは大事なことです。
- キャッチコピー、要約
- これはペルソナ文書に限ったことではありませんが、文書にはその文書全体が何を表現しているかを、はじめて見た人がすぐに理解できるようなキャッチコピーや要約を最初に置くことが大事だと思います。
- ペルソナの最終的な目的、ゴール
- ペルソナにとって、ある道具・サービスを利用することで成し遂げようとしているゴールは何かを明確にしなくてはいけません。ペルソナが何を必要として、あるものを使おうとしているのかを明示することは、ペルソナにとっての代替品は何かを理解し、代替品との差別化をはかるための情報としても有効です。
- 生活における役割、仕事における役割
- 最終的なゴールをより理解する上では、ペルソナが生活において、あるいは仕事において、どんな役割をもっているかについても明確にしておくとよいでしょう。例えば、ペルソナが最終的に「自分の部屋をきれいに片付ける」という目的をもっていた場合、ペルソナは生活において部屋をきれいにする役割をになっているのか、あるいは、部屋をきれいにする役割を担った別の人を支援する役割を担っているかが区別できている必要があるように。
- 知識レベル、何がわかり/わからないか
- 子供用の本と大人用の本のデザインは違います。子供と一言でいっても年齢が違えば使える漢字のレベルは違うでしょう。デザインをする上でユーザーの知識レベルを把握しておくことは大事なことです。また、その際には知識レベルを単に静的に捉えるだけでなく、学習意欲や学習速度についても理解しておいたほうがよいでしょう。あるいはユーザーが何がわかり、何がわからないかを把握することも必要です。自分の部屋探しをする際にユーザーは、住みたいエリアや賃料については説明なしでわかりますが、キッチンやバス・トイレなどは細かく違いを説明されてもピンとこないかもしれませんし、建物のセキュリティや耐震性などは説明を聞いても結局体験ができないのでこれもピンとこないということがあるでしょう。つまり、エリアも金額も設備も安全性もどれも必要以上の説明は不要で、他の訴求方法が求められるということです。
- 商品・サービスの利用経験や利用頻度
- 1つ前の「知識レベル、何がわかり/わからないか」に影響を与えるのが、過去の利用経験や現在の利用頻度です。例として挙げた自分の部屋のセキュリティも、過去に泥棒にはいられたとか怖いめにあったとかの経験が実際にあれば、他の人がピンとこないものでもわかるようになります。
- 商品・サービスの利用シーン、利用環境
- 利用シーンや環境について考えることもデザイン作業を進める上では必要です。例えば、家族がみんなでおなじものを利用する場合、個人別にカスタマイズが可能な機能を設計する際には工夫が必要でしょう。逆に家族がそれぞれおなじ商品を別々に購入して利用する場合、それぞれが自分のものがどれかを識別できるようにすることが必要です。それはどこで(静かな場所、狭い空間、陽射しが強い屋外、雨の中など)使われるか、どのような状況で(急にそれが必要なのか、)利用されるのかも理解することが大事でしょう。
ペルソナにどんな項目を含めるかは、現在進めているデザインにどんな固有な解決すべき問題があるかをきちんと把握し、問題の理解と解決のための考察にどんな情報が必要かから導き出さないといけません。もちろん、1つ前の「捨てる勇気=客観的/主観的論理性をもたないとデザインも人生も前には進まない」でも書いたとおり、すべてを考えることは不可能で、どの問題を重視しどの問題を切り捨てるかの判断を行うことはつねにデザイナーが考えるべき問題です。
問題の定義とその構成要素の把握の方法に関しては「デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察(b.問題の定義、構成要素)」でも書いていますので、こちらも参照いただければ。
デザインの方法
繰り返しになりますが最後にもう一度。ペルソナにはこれを含めておけば安心という項目も、穴埋め式で成り立つテンプレートは存在しません。
ペルソナは決まった形があるものではなく、問題を解決に向けて考えるためのフレームワークだと捉えなくてはいけません。考える方法を教えてくれるのがペルソナであり、考えずに済む答えを求める人に役立つツールではないのです。
もちろん、それはデザインの方法全般にいえることだと思います。
デザイナーとしてわれわれは、あるいはデザイン過程のデザイナーとしてわれわれは、デザイン創造の過程に何が含まれ、また創造活動が行われている間にどんなことが起こっているかということについて、かつてないほど明瞭に理解しなければならなくなった
デザインの方法について僕らはいまあらためて学ばないといけないのではないでしょうか。
ある問題に対して適切な解決策を見出す方法としてのデザインの方法を。
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