デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察(a.概要)

イタリアの美術家で、グラフィック・デザイナー、プロダクト・デザイナーであり、また、美術教育者であり絵本作家であるブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari、1907-1998)は、『モノからモノが生まれる』のなかで「企画するのは、そのやり方を知っていれば簡単なことである」といっています。

企画の方法とは、経験から論理的に順序づけられた、一連の必要な作業のことである。その目的は、最小の努力で、最大の成果に到達することにある。
ブルーノ・ムナーリ『モノからモノが生まれる』

ただ、この企画の方法というのを「知っている」人はあまりいないのではないかと考えます。「知っていれば簡単な」企画も知らなければ、無闇にむずかしいもののように感じられてしまうのではないでしょうか。企画がむずかしいと感じるのは、ほとんどの人が企画を簡単にする企画の方法について学んでいないからだと思います。

1つ前のエントリー「企画設計=デザインには学べば覚えられるやり方がある」で紹介した、の企画設計の方法論。
先のエントリーでは、12のプロセスをリスト化して紹介するのにとどめましたが、このエントリーにつづく連続したエントリーでは、その12のプロセスの1つ1つを順を追って考えてみることで、デザインの方法論について探っていきたいと思います。

以下では「企画」と書く場合もデザインと書くのと意味で用いています。
(僕は企画とデザインはおなじだと考えています。そのことは「企画屋さんは自分の仕事はデザインだと認識したほうがいいんだと思うよ」と「いったい誰がデザイナーなんでしょう?」という2つのエントリーを読み比べていただければわかると思います)

ブルーノ・ムナーリの企画設計の方法論

あらためてブルーノ・ムナーリの企画設計の方法論における12のプロセスを列挙してみます。
今回は、僕がムナーリさんの『モノからモノが生まれる』を参照し理解したプロセスそれぞれの要素の概要についてもあわせて記述しています。

  1. 問題:何のためにデザインをするのか。デザインの存在意義であり、何をデザインによって成し遂げるのか(解決するのか)に関する哲学やヴィジョン。詳しくは「人間中心設計もやっぱり順序よく進めることが大事」を参照。
  2. 問題の定義:明確に定義されない問題は明確な解決策=デザインを生みません。問題を定義することで、デザインの目的、目標、デザイン・チームの作業範囲が明確になります。
  3. 問題の構成要素の明示:多くの問題は小さな問題の複合的な集合によってできています。問題をその構成要素に分解することで問題をより深く理解できるようになり、いかにして問題を解決するかを考えやすくなります。複合の階層を理解することは問題の複雑さを整理するためにも役立ちます。
  4. 構成要素を研究するためのデータ収集:問題の各構成要素を解決のために理解するには、それぞれの構成要素についての情報収集が必要になります。Webサイトの問題であれば、集客の問題、利用しやすさの問題、コンテンツの利用価値の問題、機能の必要性の問題、ヴィジュアル要素の問題など、それぞれの要素が現状具体的(提供かできるものは定量的に)にどのような問題を有しているのか、それはターゲットユーザーの現実とどのように乖離しているのか、競合他社はどのような取り組みを行っているのかなどのデータを調査によって収集します。
  5. データの分析:分析を行わないならデータを集める必要はありません。データを分析することでどうデザインするかのヒントが得られます。分析は単なる論理的な作業ではなく、真にクリエイティブな作業であるはずです。
  6. 創造力:創造力は妄想ではありません。独り善がりな思い込みでもありません。充分な素材を集め吟味した上で、ひとつの問題のあらゆる側面を内包しながら、これまで存在しないものを生み出す方法です。
  7. 企画のために用いられる素材や技術のデータ収集:デザインを実現するためには必要な素材や技術に関しても十分に知っておく必要があります。そのため、素材や技術に関する調査も行わなくてはいけません。素材や技術がなくてはデザインは単なる絵に描いた餅で終わります。
  8. 素材や手段についての実験:素材や技術の調査を行ったらそれをもとにプロトタイプ作成と平行した実験を行います。ようするにこれはモノの側から企画の実現可能性を確認する作業になります。
  9. 模型作成『ファンタジア』でムナーリは、企画における能力をコンセプトを明確にするための「ファンタジア」「発明」「創造力」とそのコンセプトを視覚化するための「想像力」に分けています。模型作成=プロトタイピングは先の「素材や手段についての実験」から得られる情報・ヒントを活用しながら具体的な形をつくりあげていきます。
  10. 模型の有効性の検証:模型が問題の構成要素のそれぞれを満たしているか、個々の要素だけでなく模型が問題を総括的に解決しているのかを検証するのがここでの作業です。模型作成とその検証は反復的に行いながらデザインを完成に近づけていきます。
  11. 製図:製図はデザインを確定し、それを実装・インプリメントの段階に橋渡しするための作業です。デザインと生産は違います。プロダクトのデザインでは当然のこの区別も、Webサイトのデザインではその境界があいまいなものになっています。境界があいまいなことで生産の側面からは良い面もありますが、一方デザインの面では悪い面のほうが目立つの現状です。
  12. 解決:「デザインの問題は必要から生まれる」。であれば、問題が解決されたなら必要性は満たされ、生活(仕事)の質の向上がもたらされているはずです。もしデザイン作業を終えたいま、質の向上が見られなかったのだとしたら、ここまでのプロセスのどこかが間違っているはずです。明確なプロセスなしにデザイン作業を進めてしまったのであれば失敗の結果をどう検証したらいいか途方に暮れますが、このような明確なプロセスに従い、作業を行ったのであれば、どこで間違ったのかを把握でき、そこからやり直すことも可能になります。企画の方法を知っていれば「最小の努力で、最大の成果に到達する」ことができるのです。

以上がブルーノ・ムナーリの企画設計の方法論の12のプロセスの概要を僕なりに整理しなおしたものになります。

以下のエントリーでは、このプロセスの1つ1つ順を追って考察していきたいと思います。

デザインの方法:ブルーノ・ムナーリの12のプロセスの考察


  

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この記事へのコメント

  • hirom

    ブルーノ・ムナーリの企画設計の方法論、参考になりました。

    併せて「企画設計=デザインとは」のエントリーも拝見しましたが、まさにそういうことなのでしょうね。

    例えが少々言及のイメージ範囲をせばめているように感じましたが。。
    2007年12月14日 10:20

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