デザインの輪郭を決める3つの制約条件

物事の背後に存在する関係性が見えなければデザインはできない、ということについて考えたのが「関係性を問う力、構造を読み解く目がなければデザインできない」というエントリーでした。

このことを深澤直人さんは、『デザインの輪郭』のなかで次のように表現しています。

結局、僕は空間に輪郭を描いている。
デザインの輪郭とは、なんとなく、具体的なかたちの周りにあるぼあっとしたもの。
関係が見えるんです。複雑なものが、すうっと。

デザインの輪郭とは、複雑なものが描く関係性です。その輪郭が見えるか見えないかがデザイナーにとっては重要な問題です。「いったい誰がデザイナーなんでしょう?」でも書きましたが、デザインはお絵描きでもなければ、ものづくりでもありません。ふつうの人には見えない複雑な関係性を空間のなかに見出し、それを実際に形作ることのプランを描き出せる人こそがデザイナーなんだと思います。

深澤直人さんの『デザインの輪郭』

深澤直人さんは、IDEOにいたこともあってか、観察(オブザーベション)を大事にするデザイナーです。
もののかたちである輪郭は、そのものが置かれる、使われるシーンを観察することで見えてくる。そうしたデザインのあり方を「
ファウンド・オブジェクト(found object)」と呼びます。観察はデザインにとっては大事な手法なのだと思います。

そのものが収まった空間における、そのものを取り去った残りの背景がそのものの存在を示すという考え方、あるいは見方をデザイナーはあまりしない。また、受け手がそのものを背景と混ぜ合わせて知覚するという理解に欠けている。かたちを見ているのではなく姿を見ているという理解が乏しい。

ものはそのものが使われる背景とともにある。もののかたちは「そのものを取り去った残りの背景がそのものの存在を示」すことで描かれる。深澤さんがいうように、何がもののかたちを形作っているのかということを理解していないデザイナーが多いのではないかと僕も思います。

だから、「関係性を問う力、構造を読み解く目がなければデザインできない」では、関係性の見えない人には「ちゃんとした理由のあるデザインができない。描いた形に何の根拠もないし、根拠がないから平気でデザインがバラバラだったりします。統一感や一本とおった芯がなかったりするのです」と書いた。

デザインの輪郭は、そのものの内と外にある3つの制約条件によって決まってくる。デザイナーはその3つの制約条件を発見することで、ものの輪郭を見つけ出すのではないかと僕は思うのです。

デザインの輪郭を決める3つの制約条件

デザインの輪郭を決める3つの制約事項とは次のものです。

  1. ユーザー:マーケティングの視点に立っても、ユーザビリティやユーザー・エクスペリエンスの視点に立っても、デザインを考える上ではまずそれを使うユーザーのことを知ることなしにデザインはできません。「ISO13407:人間中心設計」というデザイン・プロセスが国際規格となっていますが、まずこのプロセスを基本として身につける必要があるのではないでしょうか。
  2. 企業:人間中心設計プロセスに従ってユーザーが欲しいもの、必要にするものが何かを理解できたとしても、実はそれだけではものの形を決めることはできません。なぜなら、ユーザーが欲しいもの、必要なものは複数あるからです。デザインの輪郭を絞り込むためには、企業が何を実現しようというのかという哲学、ヴィジョンもまた必要なのです。
  3. 技術:もう1つの制約条件が形を実現するための技術です。必要な形が描けたとしてもそれが技術的に実現不可能であれば形は現実のものとはなりません。必要な素材を手に入れられるか、素材を加工し組み立てることができるか。技術もまたデザインの輪郭を決める大事な制約条件だと思います。

3つの制約条件


具体的な制約条件を知るためのスキル

デザインを行う上では、この3つの制約条件そのものを理解する技術が必要です。

コンテキスチュアル・インクワイアリーなどの調査法を用いて、ユーザーの利用状況やニーズを知るスキル。クライアントの哲学やヴィジョンをヒアリングし理解するスキル。そして、技術について理解し、実際に技術を用いる職人の働きを最大限に高めるスキル。

自分たちがデザインしようとしているものの具体的な制約条件を見つけていくには、どれもこのようなスキルが必要とされます。それぞれのスキルには手法が用意されているし、スキルですから磨くことができます。にもかかわらず、そのスキルを身につけていないし、それが必要だということも理解していないデザイナーが多いような気がします。
関係性を知るということに対して無自覚であるデザイナーが多い。

デザインというものがなくても、人間は既に、環境にあるすべてのものをその状況に応じて価値に変換している。壁は空間を仕切るものであるが、からだを寄りかけるという価値も提供している。「壁とは何ですか」と訊いて、「誰かとしゃべりながらからだを寄りかけるものです」と答える人はいないように、思考の概念と、からだがものと関わっている事実とは異なるのである。

ほとんどの人が壁を空間の仕切りとしてだけでなく、「からだを寄りかけるという価値」を発見することができます。しかし、その価値発見を自覚的にできる人はいない。ほとんどの人にとっては「思考の概念と、からだがものと関わっている事実とは異なる」からです。

この異なる「思考の概念」と「からだとものが関わっている事実」のあいだにある見えないつながりを発見できる能力こそがデザイナーに必要な能力の1つなのでしょう。そこにデザインの輪郭を見出す1つの方法論がある。こうした見えないものを見出す目を磨く努力がいまひどく欠けているように感じています。

 

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