「自分の仕事をつくる」をつくるための5つの実践

西村佳哲さんの『自分の仕事をつくる』を読んだことをきっかけに、「デザインとこれからの時代の経営課題についての一考察」や「丁寧に時間と心がかけられた仕事をするためのワークスタイル」では、創造性を高める仕事の仕方についていろいろと考えてきました。

そんなことを考えながら普段仕事をしていて感じるのは、とにかく常に自分の外側を(企業単位なら会社の外側を)意識して、外へ外へと踏み出す試みを日々行っていなければ、自分の仕事をデザインし、つくりあげることもできないし、もちろん、その成果をデザインし生み出すこともできないなということです。

ようするに、「自分の仕事をつくる」をつくるためには、以下のような5つの実践が必要なのだろう、と考えています。

  1. 常に外部を意識し、異質なものと積極的に関わろうとすること
  2. 自分のこだわりを意識し大切にするとともに、それを自明と考えないこと
  3. 本の読み方や他人とのコミュニケーションを工夫すること
  4. 過程を楽しむことと成果物の出来をともに重視すること
  5. 誰からも与えられなくても仕事を見つけられるようになること

「実践」としているのは、仕事をデザインするというのは何より自分の身体の動きをデザインすることだと思うからで、それには日々の実践的な練習により身体を新しい仕事のスタイルに慣らしていかないといけないと思うからです(最近読んでいる『デクステリティ 巧みさとその発達』がまさに身体が生み出す「巧みさ」に焦点をあてた内容なので余計にそう思います)。

では、1つ1つポイントを考えていくことにします。

1.常に外部を意識し、異質なものと積極的に関わろうとすること

まずもっとも大事なことだと思うのが、常に自分の「あたりまえ」を疑う姿勢なのではないかと思います。
自分の外側には自分の日常とは異質の世界があり、そこでは自分の「あたりまえ」は必ずしも通用しないということを忘れないことです。

外側の世界には、ユーザーがいるし、自分とは別の仕事をしている人たちがいます。自分の専門領域とは異なる知識があるし、まだ見ぬ可能性が存在します。

例えば、「ユーザーの「わからない」という声に着目する」で書いたように、自分たちの仕事の外側にいるユーザーが抱える問題点を発見することでイノベーションにつながるヒントを得ることができたりもします。しかし、それは外側の世界に目を向けないかぎり、決して得られない発見なわけです。

すこし前のCNET Japanの記事に、「イノベーション・ジャパン2007-大学見本市」での茂木健一郎さんの講演が紹介されていました。
そこに書かれたこんな話は興味深かったし、とても納得のできるものでした。

さらに茂木氏は「我々は生き物だ。コンピュータになっては意味がない」と続ける。イノベーションにとって大切なのは脳の持つ“多様性”や“総合性”であると強調し、「イノベーションはコンビネーション。異なるものの間の結びつきを見た人がイノベーションを起こす。ひとつの専門にしか通じていない人にイノベーションはできない。大学の教養課程を減らそうなんてとんでもない」とした。また、イノベーションを生み出すもうひとつの重要なキーワードとして、“サスペナビリティー(持続可能性)”を挙げ、創造性をの基礎となる多様性を育む上で必須の要素だと語った。

外の世界に常に目を向け、積極的に関わろうとする姿勢がとれるか。
そうした姿勢をとれるかどうかで、創造性につながるセレンディピティを生み出す確率を高められるかどうかが決まってくるのではないかと思います。

例えば、以下のような試みが必要だと思います。

  • 常に新しい分野への好奇心を忘れないこと
  • 「主」と「客」、「内部」と「外部」の関係を意識すること(お客さん、別の部署の人、非顧客など)
  • 日常のルールの外側を考えること、ルールやマニュアル、ガイドラインに安住しないこと
  • 会社の外側、自分の仕事の外側を意識すること
  • 実際に旅行やフィールドワーク調査などに出かけ、普段の生活の外にでて「外部」を見てみること
  • 仲間内での仕事ばかりではなく、異質な分野の人たちのコラボレーションを積極的に試みること

とにかく、すでに出来ることばかり、普段どおりの仕事にばかりに安住していては新しいものは生まれようがありません。

まったくこういうことを考慮せず、管理のしやすさのためか、単なるエゴかなんだかわかりませんが、自社の社員を型(内側)にはめようとする企業があったりするのは正直どうなんだろう?って思います。それでこれからの時代、どうやって組織の創造性を高めていこうというのか、本当に疑問です。アホですよね。

まぁ、そういうことも多々あるでしょうけど、それでも、常に自分のいる位置から一歩踏み出してみることを日々意識的に行っていくことが必要だと思います。

2.自分のこだわりを意識し大切にするとともに、それを自明と考えないこと

自分が何を大事だと思うか、そして、それについてとことん考え、こだわりを深めることができるかということは大事なことだと思います。

自分が何にこだわりをもっているかを曖昧な状態ではなく、きわめてきめ細かい状態で把握できているかどうかで仕事の質も変わってきます。

自分自身のこだわりがあなた自身をつくりあげることがあります。
中途半端な把握ではそれは別にあなた自身でなくとも持っているかもしれませんが、人とは比べられないほどのこだわりがあれば、それは立派な個性になります。個性に希少性があればそれは価値になる。しかし、それが中途半端であればいくらでも代替物は存在するわけです。

ただし、こだわりは何もそれ以外のものを否定する根拠ではありません。他の何かを否定するために自身のこだわりを利用するなら、そんなつまらないことはないと思う。外部を否定することでしか輝かせられないこだわりなら、あまり価値はないと思います。

先にも書いたとおり、外部を意識することは大事なことです。外部を認めてなお、自分に残るこだわりこそが本当に大事なものなのではないかと最近思います。

3.本の読み方や他人とのコミュニケーションを工夫すること

どうすれば外部とうまく接していけるか。
簡単に自分の外側に接する方法のひとつが自分の専門以外の本を読むことです。

ただし、自分の専門以外の本というのはなかなか読むのがむずかしかったりもします。書いてある内容がそれこそ馴染みのないことなので、何気なく読んでしまうとぜんぜん頭に入ってこなかったりします。

そういう場合は、自分の専門領域のことと比較しながら読んだりするとよいでしょう。僕は自分の専門領域以外の本を読むことのほうが多いのですが、どうやって読んでいるかと考えると、いつも本と対話するように読んでいる気がします。基本的には本に書かれた話を聞きつつも、ときおり、自分で思ったことを問いかけてみる。答えが出ることもあれば出ないこともある。でも、そうやって本の側の世界と自分の側の世界とを対話させるような形で読んでいくと、自分の専門領域以外の話もまるで関係のないことだとは思わなくなってきます。世界を比較することで関係性ができてくるんです。

表面的に比較するよりも構造的なところで比較するほうが、比較がしやすいのではないかと思います。要素はまるで異なっても要素間の関係性が意外と似ていたり、似ている分、違いもはっきりしてきて、外の世界のことがなんとなく親しめるようになってきたりします。

それと同じことが自分の専門分野とは異なる分野の人と話をする際にもあてはまります。

まず最初はとにかく相手の話にはいりこむようにする。最初から自分の側の考え方で聞いてはいけません。最初はできるだけ相手の話をひろって、わからなければ質問をする
質問をしない人がいますが、それはダメです。質問を考えてそれを口にすることにも意味がある。また、帰ってきた答えがわからなかったからといって、別にそれはいいんです。質問の答えがわからなかったからといって、すぐにあきらめたりする人がいますが、自分の外側のことがそんなに簡単にわかると思うほうがおかしいんです。

わからないことを気にするよりも、わかったことを大事にしたほうがいい。そうすることで徐々にわかることが増えてきて、自分と外側の世界に接点ができてきます。その接点が自分を変えるし、相手も変えることになる。そこから新しいものが生まれる可能性が広がるのだから。

「わからない」なんていう否定にばかり気をとられていたら何も生まれてこないと思います。

4.過程を楽しむことと成果物の出来をともに重視すること

仕事の楽しみには2つあると思います。

1つは、過程そのものを楽しむこと。もう1つは、成果を楽しむことです。
大事なのは、その両方を楽しもうとすることだと思います。

過程ばかりを重視してしまうと、気がつくと、内輪で楽しんでいるだけで何の成果を出ていないなんてことになってしまいます。
逆に、成果ばかりを気にしすぎて過程をないがしろにしていると、気づいたときにはみんな疲れ果てていたなんてことにもなりかねません。

どちらの場合も持続可能性がすくないわけです。先の茂木さんの話にもありましたよね。持続可能性=サステナビリティです。
そして、仕事をしていく上では持続可能性をいかに高めるかは常に意識していなくてはいけない課題なんだと思います。

そして、持続可能性を高く維持し続けるためには、過程と成果の両方にバランスよく楽しみを配分し続けなくてはならないのだと思います。もちろん、楽しみの資源は常に外から注入しないといけません。

5.誰からも与えられなくても仕事を見つけられるようになること

ここまで書いてきたことは単に意識してればよいという話ではなくて、どれも常に実践していかなければ身についてこないことです。
そのためには常に自分で積極的に実践の場を見つけていかなくてはいけません。新しい仕事の場、ワークスタイルの場を自ら見つけ出し、つくりあげていかないといけないのです。

そうなると、とうぜん、与えられた仕事をこなしてるだけではダメです。与えられる仕事の外側を自分で見出せるようにならなければ、新しい仕事の場は見つかりません。

それには自分がいったいどんな仕事をしているのか、その仕事は自分の外側の誰のための仕事なのかを考えてみることからはじめてみることでしょう。外側との関係で自分の仕事を見つめられるようになれば必ずそこには改善点が発見できるはずです。改善が可能な点が見つかれば、そこから与えられた仕事の外側に出ることができます。新しい仕事の場をその改善が必要な箇所のまわりにつくりあげることができます。

しかし、その改善点は仕事の内部だけ見ていたのでは見つけようがないのです。外でその仕事の成果を待っている人に目を向けない限り、価値のある発見は見出せないでしょう。
自分はその仕事についてはよく知っている、と、あなたは言うかもしれません。ですが、その「知っている」ということが新たな発見の障害になるのです。だって、新しい仕事を生み出すには、すでに「知っている」ことは何の役にも立たず、「何を知らないか」という知識こそが役に立つのですから。

こんな5つのポイントを意識して、仕事をするようにすれば、毎日すこしずつでも自分の仕事が変わってくると思います。「自分の仕事をつくる」とは結局、そういう試みの持続の成果なんだと思います。

  

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