ユーザーの「わからない」という声に着目する

風邪をひいたり、仕事でユーザー調査が立て込んでいたりで、めずらしく3日ほどブログの更新を休んでしまいました。

もともとユーザー調査というのは、見ず知らずの人を相手に1時間から1時間半ほど、話を聞いたり行動を観察したりでものすごく集中力もいるし常に頭を働かせていないといけないので、とても疲れます。おまけに今回は風邪をひいていて体調も悪かったので、この3日間は家に帰るとぐったりでブログも書かずに寝てしまったり、普段の行き帰りでやってるようには本も読めずに過ごした3日間でした。

と、そんな感じで調査に集中していたおかげで1つ気づきがありました。

それが、ユーザーの「わからない」という声に着目する、ということです。

コンテキスチュアル・インクワイアリーによるユーザー調査

僕らのユーザー調査のアプローチは、対象となるユーザーを調査会場に呼んで、そのユーザーが普段やっているとおりに、Webサイトでの情報収集を行ってもらったり、普段読んでる雑誌や新聞記事、テレビなどについての話を聞いたりしながら、普段のユーザー行動とその背景となる文脈を明らかにしていくコンテキスチュアル・インクワイアリーという手法を用いたものです。

例えば、旅行によく行くユーザーが、

  • どのようにして旅行先の候補を決めているのか、
  • いくつかあがった候補からどうやって旅行先を絞り込むか、
  • 宿や航空券・電車のチケットなどの選択や予約はどのようにして行っているか、

などをインタビューや実際に使った情報ソースを見せてもらいながら調査します。そうした調査方法を実施することで、ユーザーがどんな情報をどんなときに必要とし、また、どんな情報の見せ方を好むかなどを理解していくのです。

コンテキスチュアル・インクワイアリー法の利点

それは自分たちがデザインしようとしているWebサイトを見てもらって、その評価をしてもらう調査法とは明らかに違うメリットがあります。

コンテキスチュアル・インクワイアリーによる調査では、ユーザー自身が普段選んで使っている、つまり、ユーザーに役立っている情報がどんなものなのかを知ることもできますし、ユーザー自身が情報収集活動を行っている中で役に立った情報と役に立たなかった情報の差異などにも触れることが可能なのです。
「何が必要ですか?」と答えてもユーザーは本当に必要なものを答えてくれません(いや、実際には答えられないのですが)。しかし、実際に普段利用していて「役立っている」ものを目の前で使って見せてもらえば、わざわざユーザーに「何が必要ですか?」などと答えようのない質問をしなくても済むのです。

もちろん、ユーザー調査でのユーザーの話は実際に行ったとおりに話してもらえるわけではありませんし、ユーザーの話そのものだけでは隠れたユーザーの行動心理や行動の理由を理解することはできませんので、前回「ユーザー行動を構造的に分析するための5つのワークモデル」で書いたようなワークモデリングを調査データを元に実施することも大切です。

ユーザーの「わからない」に着目する

そうしたユーザー調査を行っていく中で、ときおり、あるWeb画面を見ながらユーザーが「これはよくわからなかったので・・・」とか「見たけどわかりませんでした」という発言をすることがあります。

コンテキスチュアル・インクワイアリーによる調査を行う場合、ユーザーのこの「わからない」発言がどういうことなのかを明確にすることが大事なポイントの1つだと思っています。

そして、ユーザーがある画面を「わからない」と感じたことは、調査する僕らの側もとりあえずわかった、と。ここでその「わからない」をやり過ごしたら調査者失格です。ここで大事なのは、調査している僕らにわからないのは、ユーザーが何が「わからない」かということだということを自覚することです。
たびたび書いていますが、問題解決の作業であるデザインを行ううえでは、自分たちが何がわからないことを知ることは何よりも大事なことです。ですから、ユーザーが「わからない」といった画面について、僕らはまず「ユーザーはどうしてわからないと感じたのか」ということが自分たちにはわかっていないのだということを自覚しないといけません。

自覚しない限り、なぜユーザーが「わからない」と感じたかを調べることはできませんし、「わからない」理由がわからなければ「わかる」ようにデザインすることはできません
繰り返しますが、デザインとは問題解決の手段の1つでもあるのですから、「わからない」という問題が解決できないのであれば、それはデザインとしてはちょっと失敗だと思います。

ユーザーの「わからない」理由を明確にする3つの方法

では、調査を行うなかで、どうすればユーザーが「わからない」と感じたわけを知ることができるのか?

それには3つの手段があります。

  • 実際に「わからなかった」画面をみながら、どこがわからなかったのかをユーザーに尋ねる(ラダーリング法などを利用)
  • 同じ問題を解決した別の画面をユーザーに教えてもらう(良いデザイン例をユーザーに示してもらう)
  • ユーザーの別の行動から「わからなかった」理由を類推する

1つ目の「ユーザーに尋ねる」というのは、とりあえずやってみるべき方法です。でも、たいていはこれだけじゃわかりません。
ユーザー自身も「わからない」理由はわからないことが多く、「うーん」「なんとなく」などといったあいまいな答えが返ってくる場合が多いです。それでもラダーリング法などをうまく使うと、ユーザーが答えてくれる場合もあるし、こちらでなんとなくの理由は察することができたりします。

2つ目の「別の画面をユーザーに教えてもらう」というのがもっとも有効です。
ユーザーは何か目的があって行動をしていますので、ある画面がわからなくてあきらめても、別の画面で同じ目的を達成していることがよくあります。その画面を教えてもらい、なぜその画面は「わかった」のか、具体的にどういうところが役立ったのかを聞くのです。そうすると、「わからなかった」画面と「わかった」画面の違いが明確になります。画面のどの要素が「わかる」ことに役立ち、どういう要素が「わからない」原因となっているかが見えてきます。
これが自分たちでデザインを起こす際にも一番ヒントになる情報だと思います。

偶然、イノベーションのヒントの発見につながることも

2つ目のやり方ができない場合。つまり、ユーザーが別のところでも問題解決ができなかった場合には、ユーザーが「わからない」と感じた理由を直接的に知る術はありません。

どういう状況下というと、ユーザーの問題を解決する手段が世の中に存在しないか、すくなくとも、ユーザー自身はその手段に接していないということです。

その場合には、ユーザーが妥協したり苦労しながらもどのように問題解決を行ったかということや、他の問題を解決する際にユーザーがどんな情報をどんな風に利用する傾向があるのかを知ることで、ユーザーが「わからない」と感じた理由を推論していくことになります。
そして、その推論から、もし調査を行う僕らがこれならユーザーが求めるものに近いのではないかというものが思い当たったら、その画面をユーザーに示してもいいでしょう。もしかしたら、それを見てユーザーが「あっ、これは使いやすいですね」といってくれるかもしれません。

しかし、そういうものさえ思い浮かばない場合もあります。でも、そんなに悲観的になることはありません。むしろ、ある意味ではすごい発見をしたのかもと喜ぶべきかもしれません。
だって、世の中の人が困っていることを解決する手段が1つもない可能性があり、仮にそれを解決する手段をデザインできれば、とても重宝される(つもり評価される)可能性があるのですから。
ようするにそれはイノベーションのヒントを発見したことになるのです。
そういう意味でも、ユーザーの「わからない」という声に着目することは非常に大事だと感じます。

はじめに書いたとおり、ユーザー調査はすごく疲れる作業ですが、そういう発見に出会えるところがとにかくおもしろい。それがユーザー調査の楽しいところだったりします。

  

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