ペルソナ/シナリオ法が何かということがわかっていれば、「どうやって使えばいいかわからない」ということはないはずなんですけどね。
そういう意味では、そもそもペルソナ/シナリオ法が何かを理解できていないんでしょうね。
ということで、あらためてペルソナ/シナリオ法とは何かをもうすこし実践的なレベルで紹介してみましょう。
ペルソナ
どうやって作るかは今回は書きません。ただ、誤解してはいけないポイントとして、ペルソナはデザイン・チームが勝手に想像した仮想のユーザー像ではなくて、適切な調査データを元にユーザーのプロフィールや行動に見られるパターンを統合した架空のユーザー像であるということは書いておきます。
ペルソナをつくるのは、デザインする上でのターゲットユーザー像を明確にすることです。知識レベル、普段の仕事内容、生活のスタイル(忙しく働いている、家にいるより外出が多い、など)、そして、何よりその人自身がその製品/Webサイトを利用する上での具体的なゴールは何かということを記述するのです。
というわけで、ペルソナにはデザインする上でのヒントが含まれていなくてはいけません。
いや、むしろ、ペルソナの人物像を明確に描いていく作業を、デザイン・チーム全員が集まって共同作業として行うことで、利用者と利用されるものとの適切なインタラクションを具体的にイメージできるようになるのです。
それゆえにペルソナを描く場合は、その人の行動が手にとるように見えるストーリー形式で描くことが大切なのです。
ペルソナの行動シナリオ
Webのように機能も多く複雑なものの場合、利用シーンも1つに絞られることはありません。この場合、ペルソナがWebを利用する際の行動シナリオは、ペルソナと切り離した形で、シーンごとに記述するほうがよいでしょう。
先に「物語風のシナリオを描くことでユーザーの利用状況を明確にする」というエントリーで、ユーザー行動調査の結果は、物語風の行動シナリオとして記録する必要があると書きました。物語風に描くことで、ユーザーの経験を体感的に感じることができるようになるからです。
ペルソナを用いた行動シナリオの元になるのは、この調査結果の個々のユーザーのシナリオです。
ペルソナを作成した場合と同じように、個々のユーザーの行動シナリオを共通パターンを見出す形で統合して、ペルソナという統合人格の行動をシナリオとして描きなおすのです。
ただし、このシナリオを書く際には、事実をそのまま描くのではなく、自分たちがこれからデザインしようとしているユーザーとWebとのインタラクションを含めた形でシナリオ化するのです。
「○○は検索画面からすぐに自分の望みにあった商品を選び出しカゴに入れた」と描くことで、デザインされる画面は少なくともユーザーが「すぐに自分の望みにあった商品を見つけられる」ことが要件になります。
このようにユーザーの行動をシナリオとして描くことで、デザインの要件を決定していく方法がユーザー行動シナリオの使い方です。
ユーザーにフォーカスする
あくまでユーザーの行動をシナリオという形で具体的に描くことで、デザインに求められる要件を明示していくこと。また、そのユーザーがどんな人で、どんな利用目的を持っているのかをペルソナという形で記述して、共有可能にすること。ペルソナ/シナリオ法は、デザイン・チーム全員がユーザーにフォーカスするためのツールだと言われる所以です。
どんな時、どんなシーンで、何を目的として使われるのかを、ペルソナと行動シナリオを用いて、デザインを行っていく。
それは単にもの自体の形を決めるのではなく、ユーザーがものを利用する際の行動をデザインし、その経験を体感的にデザインする作業です。
よくユーザー視点でデザインしましたなどといって、単なる行動フロー図みたいなものに基づいてデザインしたりすることがありますが、それでは誰がユーザーなのか、どんな時の行動フローなのか、顔も見えなければ背景も見えません。
もちろん、まったく考えないよりはずいぶんマシなんですけど、コンテキストやユーザーのターゲティングが明確でないため、結果としてできたものが、誰のために何を可能にするデザインなのかが明確にならないことが多いでしょう。
ターゲットを絞らなければデザインのエッジはたたない
ペルソナ/シナリオ法を使う利点は、デザインされたものが誰がいつどんな目的で使うのか、そのデザインがもつユニークさを明確に可視化するためのものです。それは万人に対してデザインされたものにありがちな「で、結局、何?」という印象を払拭し、「これはこういうものです」というエッジのきいた主張を明確にできるのが、ペルソナ/シナリオ法を使う利点です。よくターゲットユーザーを1人にしぼっちゃうのはどうなんだろう?という声を耳にしますが、誰にもターゲットを絞らない焦点のボケたデザインを行うより、誰かに的を絞った明確なデザインをするほうがデザイン性は明確になり、実際にはペルソナと異なるユーザーにも使いやすく、魅力的なものになるのです。
それは昔からターゲットを明確にしたマーケティングでの成功が物語っていることです。
ターゲットを絞らなければデザインのエッジはたちません。誰にも絞らないなんてことはありえないのです。
そんな余計な心配をするよりは、ターゲットを間違えないよう、きちんと調査に気を配ったほうがマシです。ましてや調査をせずに勝手なデザインをしているくらいなら、多少はユーザー像が間違えていても、デザイン性が明確になるのではるかに結果はよいはずです。
そのあたりを勘違いしている人が多いんですよね。ユーザーのことをまったく考えないより、多少は誤解があっても考えていくらかでも知っていたほうが有益だと思いますけど。
デザイン・チームがユーザーの経験を体感的に共有していく
ペルソナ・シナリオ法を活用することに限らず、人間中心のデザインを行っていく上で、デザイン・チームがユーザーの経験を体感的に共有していくことが何より大事なことだと感じています。言葉にしきれないユーザーの体感的、精神的な経験というものをいかに感じ取り、それをデザインに反映していくかがポイントだからです。
ペルソナ・シナリオをデザイン・チームが共同作業により、調査結果の個別の行動シナリオや、それを元にKJ法などでまとめたものを囲んでブレインストーミングを行いながら描くことで、デザインのコンセプトはより具体的なターゲットユーザーのほうを向いたものになり、個々のシーンのシナリオを描きこむことでそのコンセプトを具体的に肉付けしていくことが可能になるのです。
「ユーザーのことを考える」というのは、デザイン・チーム全員がこうした具体的な作業を行うことだと思います。
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