物語風のシナリオを描くことでユーザーの利用状況を明確にする

フィールドワーク調査でも、コンテキスチュアル・インクワイアリーを用いたユーザー行動調査でも、調査を実施した後、すぐにユーザー行動を書き記した物語風のシナリオを作成することは非常に大事なことです。

時間を節約するつもりか、マインドマップ・ツールなどを使って、調査結果を箇条書きにまとめる人がいますが、それではダメなのです。なぜなら、箇条書きにまとめたレポートでは、後で調査の現場に立ち会っていない人が見たときに、ユーザーの利用状況がその背後のコンテキストまで含めた形できちんと伝わらないからです。

コンテキストがあっての評価

人間中心設計を行う上では、何よりユーザーの利用状況を背後のコンテキストを含めた理解することが大事です。
コンテキストが異なれば同じ人が同じものを利用する場合でも、感じ方、経験価値が異なるからです。

極端な例をあげればお腹が空いているときとそうでないときでは同じものを食べても、同じようにおいしいとは思わないのと同じことです。体調によって感じる味が異なったり、暑いときと寒いときで食べたいものが違うのも同じことです。
結局、人間は外の環境、自分自身の身体の状態、急いでいたりそうでなかったりなどの自分自身の置かれた状況により、ものに対する評価が変わるのです。

フェイシャル・エフェクト?

だからこそ、人間中心設計を行う際にユーザーの利用状況を含めて把握することが重要なのであって、「アイトラッキング:目の動きっていったい何に関係あるの?」でも指摘させていただいたように「人間は人の顔に視線を向ける傾向がある」なんてフェイシャル・エフェクトの問題を何のコンテキストもなしに言ってみても何の意味もないのです。

これに関しては、MarkeZineの矢野さんがレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」を例にこのことを実験的に示している記事(「【事例】SESHOPで実験!コンテキストで異なるユーザーの閲覧行動を探る」)が参考になると思います。

コンテキストを含めてユーザー行動シナリオを描く

だからこそ、ISO13407における人間中心設計プロセスの「利用の状況の把握と明示」の段階での、フィールドワーク調査やコンテキスチュアル・インクワイアリーを用いたユーザー行動調査でも、調査の後すぐに、調査担当者は調査の結果得られたユーザーの行動を物語風のシナリオとして描くことが必要なのです。
せっかく調査しても、重要なコンテキストが失われた箇条書きのレポートでは何の意味もないのです。

実際、自分が調査の現場に参加していない場合のレポートが、箇条書きであった場合などは、そのレポートからユーザーの利用状況を理解するのは非常に大変です。結局、調査担当者にひとつひとつ行動の背景などを訊くことになり、よけいに時間がかかることになります。

ユーザー行動シナリオを描くメリット

ユーザー行動シナリオを作成するメリットをまとめると以下になります。

  • コンテキストが再現できる
  • 状況を厳密に描写できる(誰が、何を、どうした)
  • 関係者全員が理解・利用できる


また、ユーザー行動シナリオの基本構成は次のようなものになります。

  • ユーザプロフィール(性別・年代職務・経験・教育レベルなど)
  • 利用状況(フォーカス1~フォーカスnのストーリー<通常使用と例外使用>)
  • 要望に関わるストーリー

箇条書きではダメなのです。それはフロー図のような形でも同じです。
ユーザーの行動をコンテキストとともに把握するには、物語風に描いたシナリオが、メンバー全員にユーザーの行動を伝える上では最適なツールだと思っています。

メンバー全員がユーザーの経験を体感的に共有する

そもそもユーザーの行動という繊細で目に見えにくいものを扱うのが、人間中心設計です。

実際には単にユーザー行動シナリオを物語風に描いただけではまだ足りません。描いても読まれなければ同じことですし、読んでもちゃんとユーザーの行動をイメージしなければ同じことです。いかにデザイン・チームのメンバー全員が、ユーザーの行動、そして、その経験を擬似的に体験できるかこそが重要なのです。
ユーザーエクスペリエンスをデザインしようというのに、そのユーザーの経験そのものをリアルに感じ取れない状態でどうデザインしようというのか、ということです。頭でわかったつもりになっていてもどうしようもないのが人間中心設計です。

だからこそ「コラボレーションにおける"仮設の場"の活用」や「HCDはユーザビリティを超えて・・・」でも書いているように、デザインに関わるメンバー全員が共同作業を行えるような場の創出こそが人間中心設計における一番の課題なんだと思うのです。

どっか外で技術を学んで習得すればいいなんていう部分最適化だけでどうにかなる話ではないのです。

 

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