ニーズはない?ターゲットは存在しない?
いま社内で自分たちの伝えたいことを伝えるためのコンテンツ開発のために、社内のスタッフを対象にユーザー調査を行っています。基本的には自分たちが発信しようと考えている情報が必要かどうかを直接訊くのではなく、普段、仕事をする中でどんな楽しみを感じているか、それは具体的にどんな場面で感じるのか、また、それを感じるにいたる過程ではどんなことを考え、どんな情報に触れているか、といった仕事の流れを質問しています。
そうすると一見、自分たちが発信しようとしている情報にはニーズがないように見えてきたりします。あるいは、インタビューを行っている対象者が自分たちが情報発信しようとしているターゲットではないようにも思えてきたりもします。
でも、そうじゃないんですよね。
新しいものを生み出そうとするとき、顕在的なニーズなんて見つからない
もともと存在しないものをつくろうとしているのですから、そこに顕在的なニーズがユーザーへのインタビューから見出せるわけはないんです。新しいものを生み出そうというのですから、ニーズはあくまで潜在的にしか存在しません。その潜在的なニーズを顕在化させるには、普段、ユーザーが行っている行動のどこに突破口があるのかを見つけることが大事なんです。新しいものをつくるのだから、ニーズも同時につくるんです。ただ、それはゼロからつくるのではなく、ユーザーの行動の背後に隠れたニーズを顕在化させる、ユーザーに自覚させる形でつくってあげるんです。
モノありきで考えることの落とし穴
モノの側からユーザーを見てしまうと、まず自分たちが発信しようとする情報の形があって、それに対してユーザーが興味を示すかとかいう発想をしてしまいがちです。でも、人間中心設計の立場に立って、ユーザーの側からモノを見ようとすれば、そうはなりません。むしろ、すでにユーザーが普段触れている情報、必要としている情報のなかに、いかに自分たちが伝えたい情報をまぎれこませるかという発想になるはずです。
自分たちの側にどうユーザーをおびきよせるかではなく、自分たちがいかにユーザーの普段の生活にはいっていけるかです。
ユーザーの普段の行動を変えてまで自分たちが望む行動をユーザーに強いるより、ユーザーが普段行っている行動のなかで自分たちの考え方も聞いてもらえるようにするほうがはるかに楽です。
でも、どうもそういう発想にはなりにくいらしい。
まず自分たちの発信したい情報の形があってそれにユーザーを従わせようとしてしまいがちです。
そうじゃないと思うんです。あくまで目的は「自分たちの伝えたいことを伝える」ことなんですから、形にこだわるよりも結果にこだわるほうがいいと思うんです。だったらこちらの形にユーザーを合わせるよりは、ユーザーがすでに持っている形にこちらが合わせたほうが自然なんです。
モノベースの考え方は継続的改善には向いていますが、イノベーションの創出には向いていないと思います。
人間中心のイノベーションのヒント
ここに人間中心のイノベーションのヒントがあるように思います。自分たちの形へのこだわりを抑制して、いかにユーザーの生活の形、仕事の形に、自分たちの想いを詰め込んだ遺伝子を埋め込むこと。それによって普段のユーザーの行動の形をほんのすこしだけ変化させ、その小さな変化でユーザーの感じる経験価値をどれだけ大幅に変化させられるか。
モノから発想してしまうとどうしてもユーザーの行動にフォーカスしきれません。そうではなく先にユーザーの行動にフォーカスして、その行動の軌跡のどこにちょっとした変化を生じさせ、それによって経験価値の大幅な変化をもたらすか。それにはどんなモノが必要なのかと発想したほうがイノベーションは生まれやすいのだと感じます。
毎日のプラクティスから小さく学ぶ
IDEOなどが進めるデザイン中心のイノベーションはまさにこうした発想で行われているのだろうと今日あらためて感じました。人間中心のイノベーションの本質にあるのは、他人を変えるのではなく自分を変えることです。
それにしても、日々、どんな形でもいいからこういう調査のプラクティスをやっていくのって学ぶことが多いです。日々のプラクティスを通じたやっぱり経験の拡大は重要です。
エジソンは、「10日に1つの発明を、6ヶ月に一度は大きな発明を」というペースで生涯になんと2000を越える発明をしたという。決して大がかりな発明や発見ばかりではなく。小さなイノベーションを組み合わせる形で様々な発明をおこなった。
昨日の「小さなアウトプットの蓄積で完成形を生み出すための5つのプラクティス」でも書きましたが、とにかく小さなアウトプットを通じて失敗という発見を日々生み出すプラクティスをいかに継続的にリズムよく行っていけるかがデザイン・シンキングの根幹にあるものなんですね。最近、意識的にそうするようにしはじめて、それがよくわかります。
これを自分ひとりのリズムとしてではなく、コラボレーションの基幹としてチームのリズムをあわせ、もっと広い組織のリズムをあわせるような形にもっていけたらいいなと思います。
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