そう思う人の大部分が、いきなり完成形のことばかりを考えたり、その完成形にたどり着くには何か1つの決まった答えがあるはずだと勘違いしていたりするのだと思います。
しかし、実際には、いきなり完成形にたどりつく方法はありません。
また、完成形にたどりつくための決まった道のりがあるわけではありません。
「失敗するための時間」というエントリーでも引用しましたが、マーク・S・ブランバーグは『本能はどこまで本能か―ヒトと動物の行動の起源』の中で、多くの人が陥りがちな「デザイン論」の誘惑について以下のように書いています。
世間では一般的に、孤独な発明家がこの世になかった新しい装置を理性とひらめきだけで創造するというロマンチックなイメージがある。しかしペトロスキーによれば、発明とはえてして試行錯誤を経て生まれるものであり、製品は機能しない部分を1つずつ取り払っていくことによって連続的に開発されていく。マーク・S・ブランバーグ『本能はどこまで本能か―ヒトと動物の行動の起源』
完成形は何か突然のひらめきだとか、これといった確実な方法をたどればできると考えるのは、まさにロマンチックすぎる幻想です。
ものづくりにしても、なにかビジネスを生み出すのにしても、標準化されたプロセスだけでどうにかなると考えたら大間違いです。
しかし、これはプロセスが標準化できるということではありません。ある問題を理解したとしても、同じ方法で次の問題も解決できるわけではありません。典型的なデザインの状況にはいつも、方法のわからないものがつきまといます。デヴィッド・ケリー「第8章 デザイナーのスタンス」
テリー・ウィノグラード編著『ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ』
標準化は効率化や生産性の向上のためには必要ですが、創造性を高めるのには役に立ちません。
創造性を向上するには、別の実践的なアプローチ-小さなアウトプットの蓄積で完成形を生み出すアプローチ-が必要だと思います。
小さなアウトプットの蓄積だけが完成形を生み出す
創造的であるためには、何より経験とアウトプットの量を増やすことこそが大事です。そして、とうぜんながらアウトプットの量を増やそうとすれば、いきなりきちっとしたものをアウトプットしようなんて考えるのは理にかなっていません。
そうでなくアウトプットの量を増やすことを重視すれば、とにかく質など度外視して頭に浮かんだアイデアを口に出す、紙に書く、絵に描いてみるということをするんです。
これは前に書いた「間違えを恐れるあまり思考のアウトプット速度を遅くしていませんか?」と同じことを言っています。そして、前に書いたことに1つ付け加えるなら、間違いはアウトプットを通じて進んで犯せということです。
成功するものはわれわれに、それらが成功したという事実以上のことはほとんど教えてくれない。失敗するものは、デザインの限界を超えたのだということの議論の余地ない証拠である。成功を競うことは失敗の危険をまねく。失敗を研究することはわれわれの成功の機会を増す。明らかに語られることのめったにない単純な原理は、もっとも成功したデザインは失敗に関する最良でもっとも完全な仮定にもとづくデザインであるということだ。ヘンリ・ペトロスキ『失敗学―デザイン工学のパラドクス』
デザインのパラドックスは、失敗だけが成功を生むということです。そして、失敗するには何かしらアウトプットをつくる必要があります。
プロトタイピングもコンセプトメイクもアウトプットの量が重要
つまり、成功したければ、完成形を生み出したければ、何が失敗なのかを僕たち自身に教えてくれる無数の小さなアウトプットをどんどん生み出していき、失敗の原因を知識として蓄積していくことが大事なのです。デザインプロセスのなかでのプロトタイピングってそういうものです。コンセプトづくりってそういうものです。プロトタイピングとか、コンセプトメイクとかいうとなんかかっこいいものを想像するかもしれませんが、そんなんじゃないんです。
プロトタイプにしても、コンセプトにしても、ようはどれだけ落書きできるか、箇条書きできるか、ラフスケッチできるかです。
何を書いたかじゃなくて、どれだけの量書いたかです。
アウトプットの量こそが結果としてかっこよさを生むのであって、かっこいい答えを最初から探したって見つかるわけがないんです。そもそもアプローチの仕方が反対なんですね。
小さなアウトプットの蓄積で完成形を生み出すための5つのプラクティス
では、どうすれば具体的にアウトプットの量を増やせるかというプラクティス(練習)について、すこし。- 1.定義するクセをつける
- 何かをつくろうとするときは、何をつくるか、何故つくるかを定義するクセをつけるとよいです。また、何をだったり、何故の部分に出てきたキーワードに関しても定義するとよいでしょう。例えば、「○○のパフォーマンスを向上する」という目的を何故つくるかの理由として定義したとします。では、その「パフォーマンスとは具体的にどういうことなのか?」と考え、定義を考えるわけです。そうすると、自然にアウトプットは増えます。
- 2.なんでだろうって考え、それをメモする
- ものづくりをしていく過程ではいろいろな気づきがあります。それを単に気づいただけで終わらせるのではなく、なんでだろう?という問いかけを行うとよいでしょう。そして、それをメモする。1つ目のなんでだろう?の答えに対して、さらに、じゃあ、それはなんでだろう?と問いかけます。それを何度か繰り返すのです。要領としては、昨日の「ラダーリング法、評価グリッド法、パーソナル・コンストラクト理論」で紹介したラダーリング法の要領です。ラダーリング法は他人の認知構造を知るための質問法ですが、それを自分に対して行っていくわけです。そうすると意識していなかった部分が明確になり、新たな発想も生まれやすくなります。
- 3.人と話すときは可能な限り書き/描きながら話す
- これはかなりおすすめのプラクティスです。「生産的な会議の司会術」でも会議のときにホワイトボードに書くことをおすすめしましたが、会議じゃなくて誰かと2人で話す場合でも、自分の考えを口だけで説明しようとせず、ホワイトボードやコピー紙の裏紙などを使って、どんどん書いて/描いて説明するんです。そうすると、相手も口だけで説明している場合よりも質問しやすくなります。そうすると、さらに説明しなくちゃいけないことが増える。1つ前の「なんでだろう?」を自分自身でやっていたのと同じことを、他人が質問を投げかけてくるようになるわけです。この場合、アヤトゥス・カルタ(Ajatus Kartta)の手法を使ってもおもしろいかもしれませんね。
- 4.デザイン思考ノートをつくる
- それでも何をアウトプットすればよいかわからないという人には、デザイン思考ノートを毎日つけることをおすすめします。デザイン思考ノートは文字通りデザイン思考の過程を書き留めるノートです。観察、行動シナリオ、アイデア、コンセプト、プロトタイプなど。何かものをつくろうとしている過程をどんどんノートに書き留めるのです。もちろん、ノートじゃなく、ブログを使ってもいいと思います。
- 5.アウトプットの場を設ける
- ひとりだとなかなかアウトプットを増やすのはむずかしい場合もあります。自分自身のなかだけで完結しようとするとどうしてもサボりたくもなります。であれば、他人を巻き込んでアウトプットの場を設けてもよいでしょう。僕は今月から自分のチームに、月に4回のブレインストーミングをやること、同じく月に2回のワークショップをやることを義務付けました。ひとりでできないものもみんなでやればできるものです。
と、まぁ、普段、僕自身がやってるのはこんなところですが、みなさんもぜひアウトプット量を増やして、そこからいろんな気づきをえてみてください。
いかにアウトプット量を増やせるかは、とにかくプラクティスあるのみだと思います。
関連エントリー
- 失敗するための時間
- ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ/テリー・ウィノグラード編著
- 間違えを恐れるあまり思考のアウトプット速度を遅くしていませんか?
- ラダーリング法、評価グリッド法、パーソナル・コンストラクト理論
- 生産的な会議の司会術
- アヤトゥス・カルタ(Ajatus Kartta):フィンランドのマインドマップ
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