ユーザビリティに特定のルールは通用しない
ここでいうルールというのは、ドナルド・A・ノーマンがいうような「外界にある知識と頭の中にある知識の両者を利用する」だとか「対応づけを正しくする」という原則ではなくて、Webユーザビリティなどの本に書かれているようなボタンがどうたらとか、ページタイトルはどうたらとか、そういうデザインそのものを規定しようとするルールを指しています。原則はモノのユーザビリティを考える上でヒントになりますが、デザインそのものを規定しようとするルールは場合によってはむしろ障害にさえなると思います。
ユニバーサルデザインへの取り組みを考えてもわかりますが、万人が利用できる、使いやすいデザインを生み出すのは非常にむずかしいことです。ましてや、それをルールのみで実現しようと考えるのは困難です。多くの人が利用するものであっても、モノには特定の用途がありますし、それが利用される特定の環境があるでしょう。それをデザインルールに落とし込むというのは現実的ではありません。
また、公共的に多くの人が利用するものにはユニバーサルデザインが求められますが、特定の利用目的をもつ特定のユーザーだけが利用するものに関してはそもそもユニバーサルデザイン的方向性ではなく、特定の用途に特化したユーザビリティが求められます。
そして、その場合にはユーザビリティのデザインルールというのはほとんど当てはまらないと考えてよいのではないかと思います。
前にも書いたとおり、ユーザビリティにおいてはコンテキストが重要なキーワードです。それを考えても、ユーザビリティに特定のルールは通用しないと思ったほうがよいと思います。ルールはあくまでチェック項目ぐらいの扱いかな、と。
Webユーザビリティでも同様
これは話をWebユーザビリティに限ったところで同様です。Webユーザビリティのルールに従っていれば、ユーザビリティの向上を達成できると考えるのはモノ中心の発想で、すくなくともそれは人間中心のアプローチではありません。
ISO13407の人間中心設計プロセスでも、「具体的な設計による改善案の作成」のフェーズでは、プロトタイピングや認知的ウォークスルーなどの手法を用いることがすすめられますが、デザインに用いるルールやガイドラインが提供されているわけではありません。というよりも、そんなものは提供不可能なんです。用途や目的、利用者とその背景が異なれば求められるデザインなど変わってきて当然なのですから。
ある程度のところまではルールでなんとかできても、それ以上はユーザーの利用状況や目的、背景をベースに考える人間中心のアプローチを採用しなければ、高いユーザビリティを実現することはできないと思います。
標準化はの最後の手段
ドナルド・A・ノーマンも「ユーザー中心デザインの7つの原則」の最後の1つに「以上のすべてがうまくいかないときには標準化をする」という項目をあげていますが、標準化というのは「以上のすべてがうまくいかないとき」の最後の手段だと思うんですね。その前にやっぱり、いかにユーザーの利用時のコンテキスト、具体的なゴールは何かを明確にした上でなければ、そのコンテキスト&具体的なゴールに最適なデザイン解を導き出すかが大事だと思います。使いやすさや使い勝手、ユーザーエクスペリエンスって個々のユーザーの目標やその背景によって大きく影響を受けるものだと思いますから。
インタラクションのデザインにおける対話
ユーザビリティってインタラクションのデザインを行ううえで考慮すべき1つの要素です。多くのインタラクションは言葉でのやりとりだけでなく、相手の振る舞い、フィードバックの解釈も含めたモノとヒトとの対話です。人間同士の会話でも、話のコンテキストが共有できている上で、言葉や身振りや表情を含めた振る舞いを互いに解釈しながら、成り立っていきます。初対面の人との会話と普段から仲のよい同士の会話では理解のしやすさ、話し方、そして、話をする上での楽しみは異なりますし、仲のよい同士でもケンカしているときと普段のときとでは話す内容、話し方もずいぶん違うはずです。
部分情報問題への対処
こうした文脈の違いを考慮したデザインがインタラクションのデザインには求められてきます。そうでなければいまひとつ使いづらいモノができてしまう可能性もありますし、最悪の場合、使えないものができる場合がある。特に多くの複雑な構成の機能を限られたスペースに収めなくてはいけないインターフェイスのデザインでは、何をデフォルトの画面に明示し、何を下層の階層に隠しておくか、隠した要素の存在をどんなラベルや表現でほのめかすかという部分情報問題に対する最適なデザイン解が求められます。

ユーザーの現実にあわせる
全体のなかのごく一部のみを提示するしかない場合、全体の各要素をどのように分類した上で、どのようなカテゴライズを行うのかは、ユーザーに参加してもらう形でのカードソート法や、ユーザーインタビューのなかでのラダリング法などを用いて、ユーザーの現実にあわせた解を求める必要があります。UI上にデザインとして表現された構造、ラベリング、階層構造を上に下に移動していく際のインタラクション、振る舞いなども含め、いかにユーザーの現実世界に見合ったものを創造し、かつ、そのインタラクションをいかに演出するかは、人間同士の会話をいかに相手に意味の通るものとし、かつ、会話を楽しくするかという問題にも重なってくるでしょう。
人間同士の会話が特定のルールだけでは成り立たないのと同様に、あくまでデザインルールというのは参照するくらいで、あとはデザイナー自身がデザイン要素だけと対話するのではなく、画面の向こうにいるユーザーと対話しながら作業を進めていくのが正解ではないでしょうか。
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