これまでもユーザビリティ評価法としてのユーザーテストや、ユーザー要求の把握段階でのコンテキスチュアル・インクワイアリーなどを紹介しきてきましたが、全体像が見えないかなと思いましたので、あらためてそのあたりを整理してみようか、と。
人間中心設計で使う主な手法
前にもすでに紹介していますが、ISO13407:"Human-centred design processes for interactive systems"(インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)で国際規格化されている5つのプロセスをあらためて。- 人間中心設計の必要性の特定
- 利用の状況の把握と明示
- ユーザーと組織の要求事項の明示
- 設計による解決案の作成
- 要求事項に対する設計の評価
このうち、最初の「人間中心設計の必要性の特定」のプロセスに関しては、人間中心設計を行うデザイン・プロジェクトそのものを定義(「何を人間中心設計でデザインするのか」「誰のために人間中心設計するのか」「なぜ人間中心設計が必要だと思うか」「必要な人員は」など)するプロセスなので、人間中心設計に特別な手法を用いるというよりは多くのプロジェクトのキックオフ時点と同様のプロジェクト・マネジメント手法で行われることが多いと思います。
それ以外の4つのプロセスで用いるデザイン手法を整理すると、基本的にはこんな感じになります。
- 利用の状況の把握と明示:フィールドワーク(観察法)、コンテキスチュアル・インクワイアリー、ワークモデル分析
- ユーザーと組織の要求事項の明示:ペルソナ/シナリオ法、その他のユーザーシナリオ法
- 設計による解決案の作成:プロトタイピング、カードソート、認知的ウォークスルー
- 要求事項に対する設計の評価:ユーザビリティテスト(プロトコル分析、パフォーマンス測定)、ヒューリスティック評価
もちろん、これ以外にも対象ユーザーのセグメンテーションを明確にする場合、定量的な仮説検証を行うためにアンケート調査法を使うこともありますし、既存のWebサイトのユーザー行動を把握するためのアクセスログ解析なども利用します。ですので、ここでは代表的と思える手法のみを整理していると考えていただければ。
人間中心設計の3つのポイント
各手法についてはすでに紹介しているものが多いので、そちらを参照していただくとして、ここでは人間中心設計プロセスに従ってデザインを行っていく際の3つのポイントについて述べておきたいと思います。3つのポイントとは以下です。
- ユーザーの声を聞くのではなく行動を観察することで、利用時のコンテキストとともにユーザーの利用行動を把握し、その背後にある潜在的なニーズを発見すること
- あくまで人間中心ですので、改善あるいは新たにつくりだすべき最終形は人間の経験そのものです。ですので、モノをデザインするのではなく仕事をデザインするという意識が必要です
- プロトタイプをいくつもつくり、ユーザーテストを繰り返し、ゴールにむかって「つくりながら考える」反復的な改善をベースにすること
人間中心設計を行うには、「エクスペリエンスデザイン」というエントリーでも書きましたが、これまでのように「モノを通してヒトを見る」アプローチとは逆の「ヒトを通してモノを見る」というアプローチに、デザインの視点そのものを変更しなくてはなりません。
この製品をもっと使いやすくするにはどうしたらいいか、この製品のユーザーエクスペリエンスを高めるにはどうしたらいいか、というのが「モノを通してヒトを見る」アプローチ。
そうではなく、
「ヒトを通してモノを見る」アプローチでは、日常の人々の特定の行動をもっと豊かに便利にするにはどういうモノの形、動き、インタラクションをデザインすればよいかという思考や作業のアプローチが必要になります。
人間中心設計は、この「ヒトを通してモノを見る」アプローチを基本に、上に紹介したような手法を各プロセスの目的に応じて用いながら、人間の側からモノのデザインを考察することで、ユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンス、しいては新しいビジネスを生み出すイノベーションをアウトプットとして創出することを目指すものだと思います。
関連エントリー
- 人間中心のデザイン(Human Centered Design):人間の性質にあわせるデザインのアプローチ
- ユーザー調査とユーザビリティ評価の違い
- ユーザーテストはこうやります
- コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問)がむずかしい対象
- Contextual Design:経験のデザインへの人類学的アプローチ
- ペルソナ:誰のために何をデザインするかを明示する手法
- プロトタイピングとしてのワークショップ
- 認知的ウォークスルー
- エクスペリエンスデザイン
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