認知的ウォークスルー

認知的ウォークスルーは、ユーザビリティ・インスペクション(ユーザビリティ評価)の手法の1つで、テストルームで行うユーザビリティテストなどとは異なり、実際のユーザーを使わずに専門家による分析的評価を行う方法です。

認知的ウォークスルーとは

ウォークスルーとは、芝居の立ち稽古のことで、衣装や舞台装置を使わなず普段着で台本を片手に行う稽古を指します。
認知的ウォークスルーも同じように、事前にマニュアルを読んだりトレーニングを受けたりすることなく、使いながら操作を理解していく際の認知モデルである探査学習理論に基づき、ユーザーが実行するタスクの各プロセスごとに、以下の4つの探査学習ステップをそれぞれ評価していきます。

  • 目標設定:ユーザーはいま何をするかを設定する
  • 探査:ユーザーは目の前のインターフェイスに対してどんな操作を行えばよいかを探索する
  • 選択:ユーザーは自身のタスクを進めるために、目の前のインターフェイス上で最適と思われる操作を選択、実行する
  • 評価:ユーザーはシステムからのフィードバックを解釈して、自身のタスクが間違いなく進んでいるかを評価する

例えば、ユーザーは駅の自動券売機を前にした際には、この機械で切符を購入するのだという目標を設定し、お金を投入し行き先までの切符の金額に見合ったボタンを押すのだということを探索し、実際に硬貨あるいは紙幣あるいはsuicaなどの投入口に対応するお金やカードを投入して必要な金額のボタンを押すという操作を選択し、発券口から切符、おつりの出口からつり銭あるいはカードの戻し口からカードが出てくることで切符を購入するというタスクが間違いなく完了したことを評価します。

こうしたユーザーの想定される行動をシステムのインターフェイスデザインが正しくアフォードできているかを分析するのが、認知的ウォークスルーです。

認知的ウォークルスルーは、設計者自身でもある程度客観的に評価できる手法なので、設計の初期段階でまだユーザビリティテストができるプロトタイプも用意できない段階で用いることで、単に問題発見ができるだけでなく新たな要求の開発にもつながることもある便利な手法です。

認知的ウォークスルーの準備

認知的ウォークスルーを行う際には、以下の準備を行います。

  • 想定ユーザー像をイメージする:実際に利用するユーザーの経験や技術力などを設定します。
  • 分析を行うタスクを絞り込みます:分析対象となるタスクを絞り、かつユーザーが利用する際に想定される主要なルートのみを評価の対象とします(イレギュラーなエラーは範囲外に)
  • 操作手順と画面を定義します:対象としたルートをユーザーが通る際の操作手順およびそれぞれの画面を明示します。

以上の準備ができたら、実際の分析作業に移ります。

認知的ウォークスルーの分析手順

認知的ウォークスルーでは準備した操作手順に従って、各画面ごとに先の4つの探査学習ステップに対応した以下の4つの質問にそれぞOK/NGで答えていきます。

  • ユーザーは目の前のインターフェイスで何をするかわかるか?
  • ユーザーは目の前のインターフェイスを見て、その操作方法を正しくイメージできるか?
  • ユーザーは目の前のインターフェイス上で、自身のタスクと操作手順を正しく関連付けて実行することができるか?
  • システムからのフィードバック情報を元にユーザは自身のタスクが順調に進んでいるかわかるか?

これ気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、ノーマンが『誰のためのデザイン?』で提示した「よいデザインの4原則」に基づいてるわけです。

  • 可視性:目で見ることによって、ユーザは装置の状態とそこでどんな行為をとりうるかを知ることができる。
  • よい概念モデル:デザイナーは、ユーザにとってのよい概念モデルを提供すること。そのモデルは操作とその結果の表現に整合性があり、一貫的かつ整合的なシステムイメージを生むものでなくてはならない
  • よい対応づけ:行為と結果、操作とその効果、システムの状態と目に見えるものの間の対応関係を確定することができること。
  • フィードバック:ユーザは、行為の結果に関する完全なフィードバックを常に受けることができる。

なので、認知的ということなんですね。

分析表をつくる

各画面ごとに4つの質問にOK/NGで答えていくわけですが、その理由もあわせて分析表に記述していきます。

まぁ、こんな感じですね。



このとき、ポイントは、理由を書く際には具体的なインターフェイス上の何がOK/NGの要因なのかを記述することです。

  :ユーザーにはボタンが見づらいと思うから。
  :ボタンの色と背景色のコントラストが弱くボタンの視認性が低いから。

という感じ。そうすると具体的なデザインの改善ポイントがわかります。

こんな風に認知的ウォークスルーをやっておくと、ユーザービリティテストを行う際にも観察ポイントを絞り込めたり、あらかじめ観察用のテンプレートを作成しておくことで分析の際の時間短縮が望めたりします。
あとはさっき書いたように設計の初期段階で新しい要求開発を行うための設計ツールとして利用できるという利点もあります。

なかなか使い勝手のよい手法だなと僕は思います。



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この記事へのコメント

  • アサノ

    私のところでも「認知的ウオークスルー法」はよく使います。
    プロトコル分析に入る前に、事前に問題箇所を抽出するのに役立ちますし。
    特にユーザ評価の経験が浅いチームに、訓練的に行うと教育効果もあります。

    うちでは各操作ステップごとの調査シートを使っていますよ。
    2007年07月26日 08:26
  • tanahashi

    まあ、そうなるでしょうね。
    僕のユーザビリティの知識は樽本さん直伝ですから。
    認知的ウォークスルーも樽本さんに講師をしていただいて学んでますし、上記の前半部分はそのときのテキストを参考にしていますから。

    それがノーマンの「よいデザインの4原則」とつながるのを自分で発見して「なるほど」と思ったので書いたエントリーです。
    2008年02月22日 10:57

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  • Excerpt:  ユーザビリテイ評価手法でインスペクション法の一種。分析者自身がユーザの認知的な行動軌跡を推定して問題点を抽出する方法。仕様書の段階から行えるために、ヒューリスティック評価同様にコストパフォーマンスが..
  • Weblog: 情報デザイン研究室
  • Tracked: 2007-07-26 15:54