マインドシェア
もちろん、そんなものいらないよというのなら話は別。でも、何かしら他人のマインドシェアをある程度、有意な程度に獲得することで、たとえば、人によい評価をうけてほめてもらったり、金銭的な意味でも精神的な意味でも実質的な利益が得られたり、誰かに好きになってもらえたりということを、それ自体が必ずしも目的ではないにせよ、すこしは望んでいるのなら、自らの行動、立ち振る舞いについてはすこし考えてみるべきだろうと思います。
多くの人にとってはマインドシェアの獲得自体が目的になることはないと思っています。むしろ、本来の目的の達成のための行動を結果に結びつけることを有利にするために、他人のマインドシェアの獲得がないよりあるほうがマシというほうが多いのかなと思います。企業にとってのブランドがそうであるように。繰り返しますけど、そんなものいらないよというのなら別にそれはそれでいいと思いますけど。
マインドシェアの獲得に必要な5つの要素
さて、他人のマインドシェアを獲得するにはそれなりの行動規範みたいなものはあるのかな、と思うから。思いつくのは、こんなところ。
- 固有の識別子(identifier)を有していること
- 他と差別化された価値を有していること
- 他人がその価値へのアクセスが可能であること
- さらにその価値を更新し続けていること
- 識別子と価値を結びつける仕組みをもっていること
この5つの要素が主に他人のマインドシェアを獲得し、あるレベルのブランド力を獲得・維持するために必要な要素かなって思います。
1.固有の識別子(identifier)を有していること
自分の牛を他人の牛と取り違えないように押していた「焼き印」がブランドの起源といわれています。他人のマインドシェアを獲得しても、それが他との識別が可能でなければあんまり自分にとってのメリットにはなりません。他のものとの識別可能な「焼き印」がマインドシェアに刻まれていないと、それがあなたのものだと気づいてもらえません。
さっきネット上での匿名性についてちょっと書きましたが、匿名であろうと実名であろうとそれ自体はどちらでもよいことだと思います。実名であろうとそれが他との識別子として機能していないケースなど山ほどあるはずですから。反対に匿名でもそれが識別子として機能するケースも山ほどある。
ようするに名前だけの問題じゃなくて、名前が他と識別可能となっていること、それには名前そのものではなくそれが特定の価値、特定の場所(あるいは身体)と結びついていることが大事だと思います。
名前。それはひとつの身体=場所だと思います。
2.他と差別化された価値を有していること
名前だけが識別可能であっても、その名前がはりついた身体、商品、あるいはブログのような特定の場所がほかと識別可能な価値、差別化された価値を有していなければ、その名前が記憶に残ることはないのではないでしょうか。人の記憶なんていい加減ですから、自分が体験したすべて、認識したすべてを記憶するわけではありません。人が記憶する多くのものは正負いずれの意味でも他のくらべて有意な差があるものだけでしょう。人の長期記憶に残るのはその人にとって有意な価値をもっているものだけ。有意な価値をもつものだけがその固有名=固有の身体、場所を経験した価値とともに記憶されるのではないかと思います。
3.他人がその価値へのアクセスが可能であること
どんなに価値を有していようとも、その価値のある場所=身体にアクセスできなければ、他の人がその価値を享受することはできません。そして、もうひとつ付け加えるなら、マインドシェアの獲得にいたるには複数回でもそこにアクセスできることも必要です。また行きたい。また食べたい。また会いたい。
単に価値を有しているだけでなく、そこへのアクセスが可能になっていることも大事です。それには先の名前=身体=場所といった識別子があることがさらに重要視されてきます。
固有のURL、固有の場所、固有のメールアドレスや電話番号、そして、固有の名前。再びアクセスしたいと思ったときに思い出すことができ、かつ、実際にアクセスする手段が提供されていることがマインドシェアを獲得するために必要な要素だと思います。
4.さらにその価値を更新し続けていること
どんな素晴らしい価値をもったものでも人はそれに飽きることができます。価値が固定されていたら、人はあっという間に飽きてしまいます。他人に飽きられずにするためには価値そのものが更新され続けることが必要です。まったく別の価値にするというより、同種の価値を常に違った形で提供し続けること。たとえば、ブログで毎日違ったエントリーを提供し続けるように。それは内容は違っても、伝えているものはそんなに大きく違わない。大きく違えば、その固有の意味が認識しづらくなります。内容は異なりつつも、常に同じような価値を、いつも新鮮な形で伝え続けることで、マインドシェアの形成につながるような価値につながるのではないでしょうか。
継続は力なり、といいますが、それは同じことの繰り返しを続けることが必要という意味ではありません。同じ価値を常に新鮮な形で提供し続けることで、飽きられることなくマインドシェアを獲得・維持することが力になるという意味だと思います。
5.識別子と価値を結びつける仕組みをもっていること
これは1.の要素と3.の要素がうまく連動することで可能になる要素だといえます。固有の名前を覚えることで、その言葉で検索すればいつでもその価値にアクセスできる。ある特定の場所にいけば必ず欲している価値を手に入れられる。あの人に相談すれば何かしらの意味のあるアドバイスがもらえるなど。
識別子と価値を結びつける仕組みこそがブランドの現実的な基盤となります。
Webブランディングが成功の可能性をもっているのは、まさにWebという仕組みそのものが固有のURLや検索による特定のページやサイトへのアクセスを可能にするからではないでしょうか。
それは個人のパーソナル・ブランディングにおいてもブログを書き続けることが有効に働く場合があることの背景にもなっていると思います。
また、識別子と価値を結びつける仕組みがなければ、口コミなど外部の評判による価値の伝播も起こりにくいことも付け加えておいたほうがよいかもしれません。
最後にもう1回繰り返しますけど、匿名か実名か自体は問題じゃないと思っています。匿名だろうと実名だろうとそれが再アクセスがいつでも可能な身体=場所をもちあわせているかのほうが重要です。企業ブランドだって有名人だって必ずしも実名ではありませんしね。ネット上で匿名を使うか、実名を使うかよりも、どこどこに行けばその人にアクセスできる、なにか言うことができる固有の場所をもっているかどうかのほうが大事なんじゃないかと思います。それがブログであれ、固有のメールアドレスであれ。
まぁ、それも信頼なり、親しみなり、そのほか何らかの評価なりの他人の心のマインドシェアを自分に蓄積したいと思った場合に限ってのことですけど。
相手からアクセスしようとした際にそれを受け入れる口があるかどうかは信頼につながる問題です。文句を言われて、文句を言い返したい場合に相手のところに再アクセスできるかどうかです。どちらかが一方的にしか相手にアクセスできないなら、それは信頼にはむすびつきにくいでしょう。
この5つの要素を意識することで、個人でも、企業でも、より多くの人の心のマインドシェアを高めることができるようになるのではないかと思います。
関連エントリー
- ブランドの肌触り
- 間違っても人様の会社のブランドをつくることができるなどと勘違いしないこと
- 苦情対応システムがブランドをつくる
- Webブランディングの企画のためのフレームワークを図にしてみた
- ブランドのつくりかた:1.シックスシグマを使う
- 記録と記憶:あるいはブログを書き続けるということ
この記事へのコメント