ユーザーエクスペリエンスを考える上でのおすすめの15冊

Web標準の日々のセッションでも何冊かご紹介しましたが、あらためてここでユーザーエクスペリエンスのデザインを考える上でのおすすめの本をいくつか紹介しておきます。
さっき「ユーザーエクスペリエンスとイノベーションのデザイン」なんてエントリーも書きましたが、ユーザーエクスペリエンスだとか、デザインによるイノベーションなどを考えている方は、このあたりはいちおおさえておいたほうがよいかと。

ビジネス書

まずはビジネスサイドで経験価値、ユーザーエクスペリエンスがどのように注目かを知るための3冊。

経験経済/B・J・パインII、 J・H・ギルモア
コモディティ、製品、サービスに続く第四の経済価値としての経験について取り上げたビジネス書。顧客の体験を「演劇」というメタファーを用いて説明しているあたりは経験というものを捉える上では非常にわかりやすい。
ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代/ダニエル・ピンク
左脳的な分析主体の時代から、右脳的な統合の時代を生き抜くための6つの感性として「デザイン」「物語」「全体の調和」「共感」「遊び心」「生きがい」を紹介している。
トム・ピーターズのマニフェスト(1) デザイン魂/トム・ピーターズ
この本が実はこのブログの名前、DESIGN IT! w/LOVEの発想源。相変わらずトム・ピーターズらしい熱い語り口で、デザイン、ブランド、経験について語ってます。


  

デザイン思考

このブログではよく売れてる3冊ですが、あらためてご紹介。

デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方/奥出直人
HCDプロセスをちゃんと学びなおそうと思ってた時期に何気なく本屋で手に取ったこの1冊が僕に「デザイン思考(design thinking)」の言葉を教えてくれ、デザインの可能性についてのパラダイムを変えてくれました。
イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材/トム・ケリー
IDEOのトム・ケリーの著作からは『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法/トム・ケリー』ではなく、こちらをご紹介。こちらのほうが僕個人的には好きなので。ところでアメリカではいまやIDEOにデザインしてもらったことが1つのブランドにもなっているそうです。まさにデザイン界の"intel inside"。
ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする/ジョン・S・プルーイット
ペルソナの1人歩きが一部で何かと話題になっていますが、まずはこの本を読んで、ペルソナが人間中心デザインのなかの1つの手法であることを学んでみてください。ペルソナを学ぶというよりもあくまでデザイン思考を学ぶという姿勢で読んだほうがきっとためになりますよ。


  

ノーマン、あるいは、認知科学からのアプローチ

ユーザーエクスペリエンスを考える上では、人間中心デザインのプロセス、ノーマンら認知科学からのアプローチは見逃すことは不可能です。

エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために/ドナルド・A・ノーマン
ユーザーエクスペリエンスという意味では、数あるドナルド・A・ノーマンの著作でもこの1冊になるでしょうか。「本能的デザイン」「行動的デザイン」「内省的デザイン」という区分はとてもわかりやすかった。でも、それは事前にほかのノーマンの著作を読んでいたからかな? その意味ではこの本だけでなく他のノーマンの著作もあわせて読むといいでしょう。
ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ/テリー・ウィノグラード編著
この本につまったまだ荒削りな感もある様々なデザイン・アプローチのアイデアが僕は好き。建築やグラフィックアートなど、ソフトウェア・デザインの外のデザイン・アプローチの研究からの考察されるアイデアがユーザーエクスペリエンスを考える上でもすごく刺激的。
デザインと感性/井上勝雄 編著
この本、表紙をみても地味な印象があったり僕の紹介文にいまひとつ魅力がなかったせいか、アフィリエイトではパッとしませんが、デザインの歴史、デザイン評価、そして、情報デザインを考える際には役に立つ内容がいろいろあります。ただ、この本、ここにカテゴライズしましたけど、認知科学ではなく、どちらかといえば感性工学寄りのアプローチです。


  

アフォーダンス

アフォーダンス理論である生態心理学も認知科学の一部ですが、日本ではアフォーダンスとデザインを関連付けて書かれた書籍が豊富なので別立てで。

デザインの生態学―新しいデザインの教科書/後藤武、 佐々木正人、深澤直人
まずはやっぱりこの一冊。デザインとアフォーダンスの関係を知る上でもおすすめですけど、それ以上になんで人間中心デザインなの? そして、具体的にはどんな風にユーザーを観察すればよいの? それをどうデザインに落とし込めばよいの?ってあたりを考える上ではとても参考になります。
デザインの輪郭/深澤直人
最近読んだ本では実はこの1冊が僕的には一番ためになったなって思ってます。深澤さんのひとりごとが、むずかしく書かれた本よりも人間中心のデザインという手法について一番よく伝わってきます。でも、この本読んだだけじゃ、人間中心のデザインという手法については直接学ぶことはできませんけど。
アフォーダンス/佐々木正人
アフォーダンスやギブソンの生態心理学について、そもそも知りたい人におすすめなのはこの1冊。薄いのですぐ読めちゃうし、説明も平易です。


  

その他

どう分類していいかわからないけど、おすすめのなのはこれら。

デザイン言語2.0 ―インタラクションの思考法 /脇田玲、奥出直人編
原研哉、了戒公子さんも参加している、身体性と知覚のデザインとして身体の考察と外的環境としての知覚について取り上げ、インタラクションのデザインについて様々な分野からの考察を紹介した一冊。エクスペリエンスって体験です。身体のことを考えなきゃね。
やわらかな遺伝子/マット・リドレー
認知科学を知る上でも、ギブソンの生態心理学を知る上でも、そして、その先のインタラクションデザイン、ユーザーエクスペリエンスを考える上でも、その基礎的知識としてどうしても必要になってくるのが実はダーウィン的進化論だったりします。リチャード・ドーキンスの著作もおすすめですけど、ここではサイエンス・ライターであるマット・リドレーが書いたこの一冊のほうが読みやすさ、それから進化論と人の認知や行動の関係を知る上ではおすすめかな、と。
生きる場の人類学―土地と自然の認識・実践・表象過程/河合香吏 編著
ユーザーエクスペリエンスのための人間中心のデザインを実践する上で役立つのが人類学におけるフィールドワークの手法を知ることです。実際、intelやnikeなどはR&Dの基礎研究としてフィールドワークを行っていたりしますし。この本は、場と地図と暮らしの関係、土地に刻印される生活、出来事など、情報デザインやユーザーエクスペリエンスを考え直す意味でもとても示唆に富んだ研究が紹介されているのでおすすめです。


  

以上。雑多な分野の本を紹介しましたが、実際、ユーザーエクスペリエンスや人間中心のデザインを考えていく上では、こうした領域横断的な知識が必要になってきます(まぁ、前から言ってるようにT型人間の時代なわけです)。

というのも、ユーザーエクスペリエンスや人間中心のデザインへのシフトそのものが、これまでの思考のパラダイムを越えていて、既存の知識領域の区分とは異なる区分を必要とするものだからなんだと思います。とはいえ、それは既存の知識が役立たないということではなくて、先に書いたように領域横断的な知識の獲得が必要になるという意味で。

逆に、ここで紹介しなかった James Garrettの『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」―5つの段階で考えるユーザー中心デザイン』なんかは、5 Planes Modelという考え自体はよくできてますけど、ユーザー中心デザインに関しての言及はほとんどないし、その意味で読んでもユーザーエクスペリエンスが戦略的に達成できるかというとかなり怪しいと思います。中身が悪いわけではないのですが、タイトルが明らかに過剰宣伝になってると僕は思います。
むしろ、Webに関する本で、ユーザー中心デザインを知りたいと思って読むならビービットさんの『ユーザ中心ウェブサイト戦略 仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践』を読むことをおすすめします。

また、役立ちそうな本を見つけたら今後も随時、このブログで紹介していこうと思います。

おまけ

いま読もうと思ってる、あるいは、読み途中の本でユーザーエクスペリエンスに関係しそうなの本はこの3冊。

  

関連エントリー
 


この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 分けることとつなげること
  • Excerpt: 以前、武永昭光「伊勢丹だけがなぜ売れるのか」(かんき出版)という本を紹介したが、読まれた方はいますか? いないだろうな。 この本では「商品分類が全て」ということを百貨店の現場の例を引きながら強調して..
  • Weblog: 衰弱堂雑記
  • Tracked: 2007-07-21 21:43