前者は、パッと見てわかる、ある意味での派手さやはなやかさをもったもの。
後者は、使っていくうちにじんわりと良さがわかる一見すると地味なもの。
料理でたとえると、子どもにも人気なハンバーグと、大人にならないとわからない大人な味?
別にハンバーグが嫌いになったわけじゃないんだけど、やっぱりここ何年かは大人な味にひかれてます。
そういう意味で深澤直人さんのデザインしたものやデザインへのアプローチってひかれるものがあります。
ふつう
僕が前に書いたエントリー「「ふつう」の価値」は実は深澤直人さんの『デザインの輪郭』に書かれた言葉にインスパイアされて書いたものです。僕も、かつてはふつうじゃないものをつくろうとしていたわけですね。
デザイナーというのはそういうものだと思っていたから。
特殊なものをつくろうとしたときに、
「やっぱりふつうのものがいいな」と思って、開き直った。深澤直人『デザインの輪郭』
もちろん、自分自身が同じように思っていなかったらインスパイアされてエントリーを書こうなんて思わなかったのですが、こうはっきり書いてくれる人がいるのがわかって、自分でも「ふつうがいい」って書こうと思う勇気をもらったのは確かです。
でも、ふつうにしようというのはむずかしいことです。特に深澤さんのようなデザイナーだという立場だと、ふつうにしようとすると「デザインしてない」とも言われちゃうそうです。
高級な飲食店でふつうのおひたしとか、ふつうのお味噌汁とか出されるようなものです。
でも、そのふつうがうまければいい。しかも、ハンバーグとかステーキとかラーメンとか食べ飽きた身体にすっと染み込んでくるようなものであればいい。
デザインとかも同じで、パッと見た見た目が魅力的なだけのものだと飽きてしまいます。もちろん、マーケティング的には飽きた頃に別の商品に目移りしやすいよう飽きてしまうけど、パッと見の印象が強いほうがいいのだと思います。
でも、そんなマーケティングゲーム自体に僕なんか飽き飽きしてるわけです。
だから、よけいにふつうがいい。
意識的なものを対象にしたデザインと身体的なものを対象にしたデザインがいいと思ってしまうわけです。
デザインの輪郭
デザインの輪郭は内側からの力と外側からの圧力によって決まるという深澤さんの発想も好きです。そのものの内側から出る適正な力の美を「張り」といい、そのものに外側から加わる圧力のことを「選択圧」という。深澤直人『デザインの輪郭』
ここでいうう「選択圧」とは進化論における淘汰圧のことです。
生物の身体のデザインに進化をおよぼす外側の要因としての淘汰圧。環境において優れたデザインだけを後世にも生き残ることを可能にする淘汰圧というイメージを、デザインの輪郭をつくりだす要因の1つに挙げている点も好きです。
デザインと経営
「これは、私のひとり言のようなものである」と深澤さん自身がいうこの本は基本的にはゆっくりと好きなところから読めるエッセイ的な一冊です。とても読みやすく、気軽に手に取れる一冊です。なので、何かをここから具体的なものを学び取ろうという方向けの本ではありません。
でも、そんなこの本の中にも、僕自身、非常に意識を変えさせてもらった箇所が1つあります。
多くの経営者は、構造や仕組みを改革することで企業全体を変えようとするが、たったひとつの小さなデザインがビジネスや運営の流れを大きく変えるということが、実感としてあまりわからない。私は何本ものもつれた糸を一本一本ほぐすことよりも、その中の一本でも繋がった糸筋を見せて、そこからもつれを解くきっかけを掴んでいくようにデザインしている。深澤直人『デザインの輪郭』
「たったひとつの小さなデザインが」ということを経営者にわかってもらうのはかんたんなことではないと深澤さんはいいます。
そのためには、
デザインは、製品にかたちを与えることだと思われている。しかしそれだけではない。それがかたちを成すための要因をしっかり見せることも、デザインの仕事である。深澤直人『デザインの輪郭』
という仕事をデザインに関わる人は全うしなくてはいけないのだと思います。
そして、この点がここ最近僕自身がずっと力をいれている点でもあります。
それがかたちを成すための要因をしっかり見せること。
その要因はなにも意識的なものを対象にしたものだけではないと思っています。
それだけではダメで身体的なものを対象にしたものが必要です。
「なんでヒトはコンピュータが動かないからといって文句を言ったりするの?(本当の意味での人間中心のデザイン)」でも書いたとおり、生物としてのヒトを対象にしたデザインが求められているのだと思っています。
この本については「ユーザー行動シナリオは最初のデザイン」などでも内容を紹介していますので、そちらも参考に。
関連エントリー
- 「ふつう」の価値
- デザインの生態学―新しいデザインの教科書/後藤武、 佐々木正人、深澤直人
- ユーザー行動シナリオは最初のデザイン
- なんでヒトはコンピュータが動かないからといって文句を言ったりするの?(本当の意味での人間中心のデザイン)
この記事へのコメント
noriyo
"complex simplicity"
というものなのでしょうね。
最近見かけて非常に心に残ったフレーズです。
「複雑な単純さ」と訳すと語義矛盾のようですが、
この場合の complex という単語は
「複合的な/奥の深い」といった意味に取ると
しっくりくるかなと思います。