「ユーザー調査とユーザビリティ評価を混同しない」というエントリーでも指摘しましたが、前者はユーザー調査であり、後者はユーザビリティ評価です。
ユーザーの現実と現実のモノ
しかし、前回も書きましたが、どうもこの両者は実際のユーザーを呼んで調査を行うということから混同されやすかったりします。お客さんがユーザーテストをやりたいというのでお話をうかがうと、実はデザイン評価のためのテストではなく、ニーズを探るためのユーザー調査だったりということがよくあります。
どう説明したらよいかはいつも悩みどころなんですが、今日、うちの矢野さんと話していて、Contextual Inquiry法などを用いたユーザー調査はユーザーにフォーカスするもの、ユーザビリティ・テストなどによるデザイン評価はモノそのものにフォーカスするものという話になりました。
もうちょっと言い換えると、
ユーザー調査:ユーザーの現実の行動を把握する
ユーザビリティ評価:現実のモノ(のデザイン)のユーザー利用時の問題点を把握する
です。
ユーザー調査の目的は「ユーザー要求」の把握
ユーザー調査は「ユーザーの現実の行動」を把握することで、デザインに求められるユーザー要求を把握し、ペルソナ/シナリオ法などを用いて明示するためのものです。ここでユーザー要求といっているのは単にユーザー自身が顕在的に感じている要求だけを指すのではなく、ユーザー自身もわかっていないような潜在的な要求も含みます。ですので、アンケート調査法やグループインタビューなどのユーザーの意見を聞く形に調査法だけでなく、観察をメインにしたContextual Inquiry法などの調査法が必要とされるわけです(観察とデザインの関係に関しては「ユーザー行動シナリオは最初のデザイン」を参照)。ユーザー調査を行ったあと、それぞれのユーザーの個別の行動シナリオに落とし込み、それをまたKJ法などを使って統合し、ペルソナ/シナリオの元になる分析を行う過程に関しては「Contextual Inquiry調査からペルソナをつくるワークショップをやったよ」でも紹介していますので、よろしければ参照ください。
ですので、ユーザー調査は基本的にはデザイン・プロセスの初期段階に行うものです。
これからデザインするものに対するユーザーの要求事項を明示することで、何をデザインしなくてはいけないのかを知るための調査がユーザー調査になります。
ユーザビリティ評価の目的は「デザインの問題点」の把握と改善
一方のユーザビリティ評価は、現実にすでにデザインされたモノをユーザーが実際に利用したらどんな問題があるかを調べることが目的です。いまつくったこのデザインはどうですか?というのがユーザビリティ評価です。※ちなみにユーザーテストのやり方については「ユーザーテストはこうやります」を参照。
それゆえ、ユーザビリティ評価はデザインプロセスでプロトタイプをつくりはじめた段階で行うのが正解です。ユーザーテスト法などのユーザビリティ評価はあくまで、ある特定のモノのデザイン評価(使いやすさ、わかりやすさ、イライラしないかなど)を行うものであって、目的はその対象となるモノのデザインを問題点を抽出し改善することです。ですので、プロトタイプの段階でユーザーテストを行ってはじめて意味があり、すでにデザインがFIXした段階だったり、リリースした段階でユーザーテストを行っても、改善する時間はすでにないので無意味です。
そういう目的がユーザーテストにはあるので、ユーザーテストで競合製品との比較を行うのはナンセンスです。自分たちの製品のデザインの問題点を抽出するのに、競合製品のテストをやっても仕方ありません。それはむしろユーザーのニーズを把握するためのユーザー調査で行うのが懸命です。
総括的評価と形成的評価
ユーザービリティ・エンジニアの樽本徹也さんは、ユーザーテストによるユーザビリティ評価を、総括的評価ではなく形成的評価であると言っています。総括的評価とは、定量的な評価で、品質の“測定”が目的です。
一方の形成的評価とは、定性的な評価で、品質の“改善”が目的になります。
評価手法には、分析的手法と実験的手法があり、前者の代表的な手法が専門家によるヒューリスティック評価法で、後者の代表がユーザテスト法です。
樽本さんは、分析的手法は「議論を深める」ためのもので、実験的手法は「議論に終止符を打つ」ためのものだとも言っています。
ですので、デザイン評価を行う際には、まずヒューリスティック評価法によりいまのデザインをユーザーに実際に使ってもらったらどんなところに問題がありそうかということについて「議論を深め」た上で、実際のユーザーテストで「議論に終止符を打つ」という流れを経るのがベストだといえます。
いずれにしても、ユーザー調査に関しても、ユーザーテストに関しても、きちんと目的にあったシーンで実施すると、デザインを行う上でそのエッジを立てやすくするのに非常に有効です。とうぜん、エッジのたったデザインは効果も出ますので、ビジネス的にも非常に意味があるものです。
だからこそ、両者の違いをきちんと把握した上で調査を行うことをおすすめしたいと思います。
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