矢野さんがMarkeZineに「【事例】SESHOPで実験!コンテキストで異なるユーザーの閲覧行動を探る」を執筆

昨日も「プロトタイピングとしてのワークショップ」でちょこっと紹介しましたが、うちの会社のユーザビリティ・エンジニアの矢野さんがMarkeZineに「【事例】SESHOPで実験!コンテキストで異なるユーザーの閲覧行動を探る」という記事を書いてます。

この「受胎告知」をアイトラッキングツールを利用して見てもらった例が下図です。青い丸が被験者の視点が止まっている部分、つまり注視点になっており、作品の中のどのエリアをどういった順序で閲覧していったのか、どの部分を注視したのかがご覧いただけます。

という引用のとおり、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」を異なる条件で被験者に見てもらい、その際の視線の動きをアイトラッキングツールを用いて調べた結果なども公開しています。

なんで、そんなことをしているかというとですね・・・、

コンテキストによる視線の動きの違い

人が何かを見る際のコンテキストの違いによって、どれだけ視線の動きに違いが出るか、そして、その視線の動きやそのベースとなるユーザーの関心や目的が同じWebのインターフェイスを見る場合でもどれだけ影響を及ぼしうるのかということをわかりやすく事例を用いながら解説してくれています。

「受胎告知」の作品を見てもらったときと同じように、同じページを閲覧している場合にも何か探しているものがあるときと、記事などのページ内容を読んでいる場合で違いがあり、同じUIを見る場合でも、ユーザー属性や与えたタスクやその時の気分のようなもので眼の動きが大きく変わることがわかります。

アイトラッキングツールでわかるのは「眼の動きが大きく変わること」ですが、ようするにそれはコンテキストによってユーザーの行動が大きく違うということです
アイトラッキングツールによって可視化できる視線の動きの違いは、その行動の違いを局所的に可視化しているだけにすぎないということは忘れてはいけないと思います。

コンテキストはユーザビリティのキーコンセプト

昨日の「プロトタイピングとしてのワークショップ」で紹介したような、コンテクスチュアル・インクワイアリー法によるユーザー行動調査によりユーザーの利用状況や潜在的なニーズを観察(オブザーベション)ベースで調査したり、その調査データを元にペルソナユーザー行動シナリオを作成して、デザイン作業のベースとなるユーザーとモノとインタラクションを描いたりするのも、結局、利用の際のコンテキストというものが非常にユーザビリティにとっては重要であり、それゆえにコンテキストはユーザビリティのキーコンセプトであるといわれる所以でもあります。

僕が先日、MarkeZineに書かせてもらった「ユーザーを知らずにWebをデザインできますか?~ペルソナ/シナリオ法の活用~」という記事でも、コンテキストを無視したデザインプロセスの問題点として、実際のユーザーのコンテキストや利用状況を調査・把握しないまま、デザインチームが勝手に架空のユーザー像としてペルソナを作成してしまうという間違った利用法について指摘させていただいています。

例えば、プロトタイプを使ってユーザビリティ・テストを実施する際、同じデザインに対して同じタスクを与えても、仕事でWebデザインに関わっている被験者でテストをする場合とそれ以外の一般のユーザーでテストする場合では、2つのグループの被験者がまったく違った利用の仕方をすることがよくあります。実際にデザインした人とは別のデザイナーだったり、極端な場合、営業マンにテストしてもらっても、やはり一般の人とは違う使い方をするのです。そのためデザインチームがユーザー調査もせずに思い描いた架空のペルソナでは一般のユーザーの利用実態を反映したものにはならないのです。

これは昨日の「プロトタイピングとしてのワークショップ」で紹介したワークショップでのユーザー調査でも明確で、一般の人とWeb制作を仕事にする人で使い方が違うどころか、同じWeb制作会社で隣同士で仕事をしている人だって違うのです。

その違いをもたらすのがコンテキストです
だから、コンテキストを無視してユーザビリティを向上しようというのはかなりむずかしい作業になるといわざるをえないのです。

コンテキストがわかっていないとユーザーテストもままならない

前に「ユーザーテストはテスト設計が大事」というエントリーでも書きましたが、ユーザーの利用状況やその背後にあるコンテキストがわかっていないと、ユーザーテストに適切な被験者をアサインすることもできませんし、ユーザーテストで実際にユーザーに行ってもらうタスクの設計もできません。

例えば、クルマに興味のない人に中古車情報検索サイトのユーザーテストを行っても無駄です。そもそも与えたタスクそのものが理解できない場合もあるからです。
同じように銀行のビジネスをよく理解していない人に、いきなり定期預金を行うためのオンラインバンキングの口座を開設するための申込みをWebサイト上で行ってくださいといってみてもどうにもなりません。そもそも定期預金やオンラインバンキングそのものがよくわかってないからです。

矢野さんが先の記事で事例としてSEShopのユーザーテストの例を紹介してくれていますが、そこでの分析はユーザーのコンテキストをきちんと把握した上での分析となっています。

この被験者の場合、普段よく買い物に利用しているAmazonでの経験がEC サイトを利用する際の概念モデルとして働いてしまったと思われます。そのため、SEShopが実際に提供するモデル(「後で買う商品」への追加や「同時購入不可」のエラー表示など)には目も触れなかったのでしょう。

このテストで被験者になっているのが僕自身なので、矢野さんの指摘はそのとおりだと思うのですが、普段、Amazonとかで買いなれているので、「定期購読と通常購入がいっしょにできない」なんて気づかないし、長々としたエラーの文章なんてほんとに目に入りませんでした。
カートの中身に「通常購入」のほうの商品が入ってないなんて気づかずに、届け先の入力画面に当たり前に遷移してしまいましたから。

ここまでくるともう単に画面に記述があるとか、そういうユーザーインタフェース上の問題を超えたところにユーザビリティの問題点があるわけです。
それを捉えるにはターゲットユーザーのコンテキスト、そして、それを形づくる社会的・歴史的コンテキストも含めて理解することが必要だったりします。

大事なのは、ユーザーはいちいち考えて行動するわけじゃないということを意識しておくことでしょう。
意識せずに行っている行動はインタビューなどをやっただけじゃ把握できません。

いちいち考えて行動しているわけではないユーザーの行動や心理を把握するためには、ユーザーの置かれたコンテキストまで含めて観察できるようなコンテクスチュアル・インクワイアリー法のようなフィールドワーク的調査法が必要なわけです。

そう。ユーザビリティ・エンジニアは人類学者的スキルをもっていないといけないわけです。

 

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