プロトタイピングとしてのワークショップ

いま会社で先日リリースしたばかりの「ユーザー行動調査・要求分析サービス」と「ペルソナ/シナリオ作成サービス」のサービス提供をスムーズに、かつ、僕以外の人でもちゃんとまわせるようにするためのワークショップを行っています。

参加者は僕を含めた中心メンバー5名に、それプラス、サブのメンバー3名の計8名。
8名のなかにはMarkeZineでユーザビリティ関連の連載をもってる矢野さんも! MarkeZineでの矢野さんの最新記事は今日公開されたばかりの「【事例】SESHOPで実験!コンテキストで異なるユーザーの閲覧行動を探る」。この記事もレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」を例に出しつつ、アイトラッキングツールを用いたユーザビリティテストの観点から、ユーザビリティのキーコンセプトであるコンテキストの重要さについて書かれているので要チェック!

「受胎告知」の作品を見てもらったときと同じように、同じページを閲覧している場合にも何か探しているものがあるときと、記事などのページ内容を読んでいる場合で違いがあり、同じUIを見る場合でも、ユーザー属性や与えたタスクやその時の気分のようなもので眼の動きが大きく変わることがわかります。

そんな8名のメンバーで、Contextual Inquiry法によるユーザー調査ペルソナ/シナリオ法によるユーザー行動シナリオ作成の実施練習を行っています。

ワークショップの目的と概要

まず、僕がこのワークショップを開こうと思った目的は、先にも書いたとおりリリースしたばかりの2つのサービスに関して、

  • ユーザー調査とペルソナ/シナリオ作成の2つのサービスの実際のサービス提供プロセスでの問題点を、ワークショップでの実施において抽出し改善すること
  • ワークショップ形式での実施練習により、僕以外にもサービス提供が可能なスタッフを増やすこと

の2点を達成するために、企画しました。

全6回を予定していて、

  1. 2つのサービスの概要説明
  2. ユーザー調査の準備としてのスタッフによるブレインストーミング形式でのユーザー行動の関する仮説の抽出、ユーザー調査の企画(調査対象者選定など)
  3. Contextual Inquiry法によるユーザー調査の実施、個別シナリオの作成
  4. 個別シナリオを元に5つのワークモデルによるユーザー行動の分析、ファクイドの抽出~データの統合・スケルトン作成
  5. ペルソナの作成
  6. ペルソナをモデルにしたユーザー行動シナリオの作成

のプロセスで、ワークショップを進めています。
いまはちょうど3番目の「Contextual Inquiry法によるユーザー調査の実施、個別シナリオの作成」まで終わったところです。
今回は練習なので、調査対象には同僚である社員の何人かに、仮説に基づくいくつかのセグメント・グループを作成した上でお願いしました。

今回は「駅前探険倶楽部」や「Googleトランジット」のような乗り換え案内サービスのユーザーの利用状況を把握・明示し、ペルソナ・シナリオ法を使って、乗り換え案内サービスのリデザインを行うというデザインのミッションを想定して進めています。

へー、Webの使い方ってこんなに違うんだってことを実感してもらう

やってよかったと思うのは、同じようにWeb業界で働き、かつ同じ会社で働く人でも、様々な使い方をしている人がいるのだということを参加している人たちで共有できたことです。
こういう調査をしてみないと、ユーザーがどう使ってるかなんて自分たちはまったくわかっていないんだということを実感してもらえた点です。

はじめにブレインストーミングで仮説出しをしていたときでも、おたがいに「へー、そんな使い方するんだ」というのがありましたが、実際にContextual Inquiry法で目の前で調査対象者にいつも使っている乗換え案内サービスで「最近、客先に行った際の検索行動」や「休みの日に遊びに行ったときの行動」を再現してもらうと、ただ、口頭で質問するだけじゃわからないユーザーの行動が見えてきます。

ようはですね、「ユーザーを知らずにWebをデザインできますか?」つー話ですよ(参考:「MarkeZine:◎ユーザーを知らずにWebをデザインできますか?~ペルソナ/シナリオ法の活用~」)。
で、もって、ユーザーを知るっていうのはその人個人の変わらぬ使い方を知るってことじゃなくて、その度ごとの目的や状況というコンテキストに応じて特定のユーザーがどうWebを利用するのかを知ることです。同じユーザーだって目的が違えばぜんぜん別の動きをするんですから。

さっきも書きましたが同じWeb業界の会社で働くスタッフ間でもぜんぜん違います。もっといえば隣同士に座っていて、同じ客先に訪問している人同士だって、使い方は違うんです。
ユーザビリティ・テストなんてやるとわかることですが、Web制作の会社で働いていない一般のユーザーなんて、もっとぜんぜん違う使い方をするんです。それは本当に予測なんてできませんし、目の前で実際にやってもらわなければいくら言葉で聞いてもわからないような行動だったりします。

こればっかりはホント、実際に自分の目の前でその利用法の多様さを自分で感じ取ってもらうしか、それを伝えるのはむずかしい。だから、このワークショップを企画してみました。

プロトタイピングとしてのサービスの実施練習

で、もう1つやってよかったと思う点は、ワークショップの目的でもあった「サービス提供における問題点の抽出」ができている点です。

製品でもサービスでも実際に目の前に形として表現してみないとわからない問題点は必ずあります。だから、僕はこのワークショップの位置づけをサービスのプロトタイピングとして位置づけました。実際の一般の被験者やクライアントを迎えてのサービス提供の前に、ちゃんとサービス提供の一連の流れにおける問題点を実施により発見し、改善しておくことは重要です。

やってみてあらためてわかったのは、以前からやっているユーザビリティ・テストとは違う問題が多々あるのだということです。しかも、それをサービス提供に関わるメンバーが同じ場を共有しながら体感できたのがよかったと思います。こういうものはなかなか口やドキュメントベースでは伝えきれないので、こうした場を共有できることは何よりの収穫です。

ワークショップはまだなかば。このあとのペルソナ/シナリオの作成のプロセスでもおもしろい発見があれば、またここでも紹介させていただこうかと思います。

P.S.(2007/07/10 19:05追記)
この話の続編「Contextual Inquiry調査からペルソナをつくるワークショップ」を書きました。

 

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