周囲とともにあるデザイン

行動の痕跡を観察しインタラクションをリデザインする」で、プロダクトデザイナーの深澤直人さんの2つのデザインアプローチを紹介しました。

  • フィールドワーク的な観察で直接得た行為とそれが利用したモノのセットを見出す方法
  • 人々の行動の痕跡が残されたものを探す方法

いずれもFound Objectというアプローチを重要視している深澤さんならではの「すでにあるものを観察により発見する」ことからデザインをはじめる方法論です。
見た目のデザインではなく、身体がそれを使うことを重視したアプローチだからこそ、身体の動きの痕跡や行為とモノがセットになったものが重視されます。深澤さんの場合、身体の動きの軌跡をほんのすこしラインを変化させてあげればデザインが生まれる。いや、身体の動きの軌跡をちょっと変えてあげるのが深澤さんのデザインの1つの方法論なのではと感じます。



周囲をみる

その深澤さんが自身の著書『デザインの輪郭』でいっているこんな言葉が印象的でした。

例えば、手のひらを描きなさいっていわれたら、ほとんどの人がこの手のひらを描くと思うのですが、その外側の風景を描いても残ったかたちが手のひらになるということを人間はあまり考えないと思います。(中略)実は、この手のかたちがこの周りの背景によって成されているということで、それがないと、これが何であるかという、存在の認識ができないのではないかと思うのです。
深澤直人『デザインの輪郭』

背景としての地がなければモノは図として浮かび上がってはきません。地の存在を忘れることによって図を認識することはできます。しかし、それは地があってはじめて可能なことです。

行動のデザインを行う場合でも同じです。行動そのものだけを見ていたのでは行動の理由が見えてきません。行動には背景がある。コンテキストがあります。そのコンテキストや背景もいっしょに行動を見ようとしなければ本当の行動は見えてこない。人は環境のアフォーダンスを行動のリソースとして用いて行動しているのですから。

そのための1つの手法として「Contextual Design:経験のデザインへの人類学的アプローチ」で紹介したコンテクスチュアル・デザインという方法があります。

周囲に溶け込むデザイン

深澤さんはかつて自分のデザインしたものの写真を撮ってもらうとき、背景をぼかしたモノがかっこよく見える写真を撮ってもらっていたそうですが、今ではデザインが周囲に溶け込んだような「ふつうに見える」写真を撮ってもらうようになったそうです。

山口:デザインが付加価値だと思われている。
深澤:付加しないことが価値なんです。
山口:付加されたものが価値だという誤解がありますね。
深澤直人『デザインの輪郭』

「付加しないことが価値」という深澤さんのスタンスは非常にいさぎよく感じます。

見た目のデザインを行う場合でも同じではないでしょうか。それは単に派手さを求めるのではなく、もっとふつうのリアリティを求めてもいいのではないかと思います。カルティエ=ブレッソンのような決定的瞬間を撮った写真ではなく、ホンマタカシのようなリアリティのある写真のように。

周囲をぼかしてモノを前面に浮き立たせるのではなく、周囲とともにあるそんなデザインのほうが贅沢な気がします。

経験重視のデザインってそういうところにヒントがあるんじゃないでしょうか。



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