T型人間の生きる場所:組織内のプロセスをリデザインするとき

以前(「未来を切り開くスキルとしての他家受粉」「未来を切り開く力としてのチームワーク」)にT型人間が求められているという話をしました。



イノベーティブな組織には、特にT型人間が必要だと思います。

IDEOの場合、社内の最も貴重な花粉の運び手たちには「T型」の人間が多い。これは多くの分野に幅広い知識を持ちながら、同時に深く精通した専門分野も1つは持っている人のことである。(中略)結局、彼らは単純なカテゴリー化を許さないわけだが、それを不快に思う必要はない。むしろ、花粉の運び手を探しているのなら、チームに何人かT型人間を揃えるべきだ。
トム・ケリー『イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材』

例えば、既存の価値提供プロセスを革新する新しいプロセスを組織に導入する際、その新しいプロセスに関する知識を専門的にもっているだけでは、決してそのプロセスがうまく既存のプロセスに融合していくことはないと思っています。
新しいプロセスの導入を進めようとする専門家が、既存のプロセスに関する知識、関係する人々が行っている活動に関する知識をもっていなければ、プロセスの統合は決してうまく進むことはありません。

組織内のプロセスをリデザインするとき、T型人間が必要になる

例えば、こんな変革のシーンを考えてみてください。

  • ウォータフォール開発のプロセスをAgile化して開発工程のスピードアップを図ろうとする場合
  • それまでそんな発想がなかった組織にHuman Centered Design Process(人間中心のデザインのプロセス)を導入、浸透させようとする場合
  • 「つくる」ことだけに集中していた組織に、ものづくりのコンサルティング・サービスやものの効果的な活用を継続的にサポートするサービスを導入する場合

こうした場合には、とうぜん、これまでになかった専門知識を組織に組み込むことになるわけですが、ただ単に新しく導入するものを専門的に知っている人間だけを増やしてもほとんど意味はありません。

完全にスクラップアンドビルドであれば別ですが、多くの場合、いまうまくいっているプロセスを稼動させたまま、将来に向けた準備として新しいプロセスを組み込もうとするわけですから、いかに新しいものを既存のものに融合、統合させていくかが課題となるわけです。

その場合、新しいものを組み込もうとする側がそれに関する専門知識しかもっておらず、既存のプロセスに関する知識、それを動かしている人々の活動に関する知識、あるいは、また組み込もうとする新しいプロセスの前提となるインフラに関する知識を持ちえていなければ、なんの変革も起こせないはずです。
その分野の専門的知識をもっているのは当然ですが、それを現実に既存の組織に組み込もうとするなら、そのために必要になってくるはずの知識を横断的に備えたT型スキルをもっていないと、実際の変革はむずかしいはずです。

企業とは人の動く場所

企業とは人の動く場所です。組織のプロセスをリデザインするということは、単にモノをデザインするのとは別のむずかしさがあります。

新しいものを導入しようとすれば、既存のものに力を入れていた人の抵抗にあう場面は多いでしょうし、きちんと説明してあげなければ本来なら賛同してくれそうな人さえ敵にまわすことにもなりかねなません。

自分がよかれと思ってやることでも、それが他人を苦しめてしまうということもあるわけで、それには他の人のやっていることを理解した上で行動をおこさないといけないシーンは山ほどあります。
自分がやろうとしていることが将来的にまわりのみんなを助けることになるのは間違いなくても、そこはまわりの人々の現在の活動を妨げてまでやるべきことではありません。
もちろん、みんなの将来に関わる変革をやらずに遠慮する必要など、どこにもないわけですが、それでも、変革は現在への痛みをともなうものということを理解して、まわりに配慮することは絶対に必要なことだったりします。

専門性がコモディティ化するなかで

組織においては、すべてが複雑に絡み合っています。

現代において、ひとりひとりが特別なスキルをもってとんがっていき、社内外においてパーソナル・ブランディングを進めていくことは必須の条件だと僕は思っています。

しかし、それはいわゆる専門化というのとはすこし違うと思っています。ひとりひとりが専門化するということがとんがることではないと思う。

なぜなら、この情報社会において専門的な知識など、検索すればいくらでも手に入るわけです。専門的知識はいまや非常にコモディティ化しつつある。これまで専門的な知識は人に属していたわけですが、これからはそれは単純に機械の側に宿ることになるでしょう。

この2、30年ほどの間、世の中はある種の知識をもった特定の人たちのものであった。
コンピュータ・コードを操るプログラマー、巧みに契約を作り上げる弁護士、ビジネスの数字をバリバリ処理するMBA取得者などである。
だが、これからの世界で成功を収める上でカギを握る要素は変わりつつある。
未来をリードするのは、何かを創造できる人や共感できる人、パターン認識に優れた人、そして物事に意義を見出せる人である。
つまり、芸術家や発明家、デザイナー、ストーリテラー、介護従事者、カウンセラー、そして総括的に物事を考えられる人である。
ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』

専門化から総合化・統合化へ。
個々の要素を深化させていく還元主義的志向から複雑に絡み合う諸要素をうまくシンクロさせる創発主義的志向へ。
時代が要請するものは着実に変わりつつあります。

パーソナル・ブランディングでも、組織の人材教育でも

ひとりひとりが自分自身をとがらせ、パーソナル・ブランディングを進める場合でも単純に専門的知識を身につける従来のやり方では機能しなくなってくるはずです。
自分自身をとがらせる場合にもT型のスキルをもち、統合的な活動により何かを生み出す、物語る、共感により創発を導くことができるスキルでとがっていくことが大事なことだと思います。

組織において、人を育てる場合でもそこで間違うと大変なことになる。何がこれから必要なスキルなのかをきちんと捉えた上で人材の育成や組織そのものの成長を考えていかないと非常に危険だなと感じています。

 

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