エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために/ドナルド・A・ノーマン

人間中心のデザインの必要性について非常に納得いく形で紹介してくれていた『人を賢くする道具―ソフト・テクノロジーの心理学』を読んで、ノーマンがこの『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』で書いているようなエモーション(情動)とデザインの関係について書くであろうことはすごくしっくりくるはずだと予想していましたが、実際、読んでみて、やっぱりそうだよねと思いました。

中でも、ノーマンが本書で扱う3つのデザインスタイル(本能的デザイン、行動的デザイン、内省的デザイン)において、どれが人間中心のデザイン手法が必要で、どれには適用できないかという点に関しては、まさにそのとおりだと感じました。

脳機能の3つのレベルと3つのデザインスタイル

ノーマンが3つのデザインスタイルについて言するきっかけには、以下の情動に関する研究があるそうです。

ノースウェスタン大学心理学部で同僚だったアンドリュー・オートニー教授とウィリアム・リヴェール教授と共に行った情動に関する研究から、これらの人間の特性は、脳機能の3つの異なるレベルに起因することが示された。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

その3つの脳機能とは、

1つは自動的で生来的な層であり、本能レベルと呼ぶ。次が日常の行動を制御する脳の機能を含む部分で、行動レベルとして知られている。もう1つが脳の熟考する部分、すなわち、内省レベルである。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

です。

そして、ノーマンは本書で、この3つのレベルにそれぞれ別のデザインスタイルが必要であることを説明しています。

単純化すれば、3つのデザインスタイルを製品の特性に紐付けると次のようになると、ノーマンは説明しています。

  • 本能的デザイン:外観
  • 行動的デザイン:使うことの喜びと効用
  • 内省的デザイン:自己イメージ、個人的満足感、想い出

あとでもう一度、紹介しますが、ノーマンはこの3つのデザインスタイルのうち、人間中心のデザインの手法が有効なのは「行動的デザイン」だけだと言っています。

デザインについて述べた本であると同時に、ほかのノーマンの著作とくらべて非常にマーケティング、ブランドに関する言及も多い本書は、本能的デザイン、内省的デザインについても踏む込むことで、使いやすさを超えたデザインの魅力に言及しているのです。

本能的デザイン

以前、「私的インフォメーション・アーキテクチャ考:番外編:サバンナに合うように設計されたヒトの意識」というエントリーで、マット・リドレーの『やわらかな遺伝子』から「人間の意識は、都会というジャングルではなく、更新世のサバンナに合うように作られている」という言葉を引用しました。

以下のノーマンによる本能的デザインの説明は、更新世のサバンナに合うように作られた人間の意識が、いかに自然の形態から自動的に影響を受け、喜びを感じたり、危険を感じたりしているかを明瞭にとらえたものだと思います。

本能的デザインは自然が作り上げるデザインと言える。我々人間は、他の人々、動物、植物、景観、天候、他の自然現象などの環境と共存するよう進化してきた。その結果、我々は環境から強力な情動信号を受け取るように高度に調整されており、それは本能レベルで、無意識のうちに自動的に判断される。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

ノーマンは人が何かをかわいいと思うときにもその判断は本能レベルから直接くるのだと言っています。
キャラクター王国ともいえる日本でこそ、かわいいもののデザインは一般的にも受け入れられていますが、ノーマンがいうように海外ではどちらかといえば「デザインの世界では、「かわいい」は一般的に、つまらない、平凡で、深みも内容もないものとして眉をひそめられ、非難される」傾向があるのでしょう。

デザイナーは仲間から想像力に富み、独創的で、深みがあると思われたい。だから、「きれい」「かわいい」「楽しい」ものを作ると良くは受け止められない。しかし、いかに単純だとしても、それらのための場所が生活にはある。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

確かに、それらのための場所は生活にはある、特に日本では。そして、ある意味、かわいいデザインが広く受け入れられる日本においては、かわいいデザインをちゃんと自分の仕事のデザインとして考えるデザイナーは多い。
本能をデザインにおとしこむ日本のデザイン文化は、それこそ性的なものも普通に街にあふれかえっている国ならではのものなのかもしれないなと感じます。

行動的デザイン

いわゆる(狭義の)ユーザビリティといわれるのは、この行動的デザインに関するものなんでしょう。

行動的デザインは第一に使用の面にかかわっている。外観はあまり関係ない。理屈も問題ではない。性能が問題である。これはユーザビリティの実践者が焦点を当てるところである。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

そして、ノーマンはこんな風にいいます。
「良い行動的デザインの原理についてはよく知られており、しばしば語られてもいる」と。
逆に言えば、行動的デザイン以外の2つのデザインスタイルに関しては、まだ原理がよくわからないのです。

とはいえ、原理が知られた行動的デザインに関しても、

人のニーズというものは、考えるほど明確ではない。製品のカテゴリーがすでに存在しているなら、現存する製品を使っている人を観察して、どのような改善をしたらよいかを知ることができる。しかし、そもそもそのカテゴリーが存在しなかったらどうだろうか。どうしたら、誰もまだ知らないことに関するニーズを見つけることができるだろう。製品のブレークスルーがもたらされるのはここである。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

というわけで、原理はわかっていても、実践はむずかしい。
しかし、この実践をうまくやってるのがIDEOであり(参照「イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材」「発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」)、製品のブレークスルーを生み出すようなスゴイ力をもつのもこのデザイン力だと思います。

そして、その原理と実践の手法がいわゆる人間中心のデザイン手法だと思います。

内省的デザイン

デザイナーにとってもっとも手に負えないのが、内省的デザインです。

内省的デザインがカバーする領域は広い。メッセージ、文化、製品の意味やその使われ方までも関係してくる。そのモノのもつ意味、すなわち何かを連想させる個人的な想い出が問題であることもあれば、まったく違って、自己イメージや製品が伝えるメッセージが問題だったりもする。誰かの靴下の色が似合っていると思ったり、彼の服装は場にふさわしいだろうか考えたりするのは、内省的自己イメージに言及しているのである。
ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』

ようするに、内省的デザインの良し悪しは、単純なモノとヒトとの関係によって決まるのではないということです。モノとヒトとの出会いの場における文化的環境、その人自身の生い立ちやそのときの気分、友人や知人の言葉、ほかのモノとの関係など、内省的デザインの良し悪しに影響を与えるものは山ほどある。

だからこそ、マーケティングにおいてコミュニケーションが重視されるのだといえます。ようするに同じモノに対峙する際でも人はその前に与えられた情報とその受け取り方によって、モノに対する評価を変える生き物なのです。

それゆえ、内省的デザインを行おうと考えれば、デザイナーはモノをデザインするだけでなく、そのまわりのコミュニケーションまで含めてデザインしなくてはいけなくなる。しかも、コミュニケーションを完全にデザインすることは不可能なのは考えればわかる。コミュニケーションはユーザー間の口コミなどを通じて勝手に広がっていくわけですから。
デザイナーは内省的デザインに関してはお手上げとまではいかないまでも、すべてをコントロールしようなどとは考えないほうがいいのだと思います。そう考え始めた瞬間、間違った方向に進むことになるはずだから。

ロボット

本書は、人の情動とデザインの関連性を扱うだけでなく、最後のほうでは、情動をもつ機械についての考察も行われています。

情動をもつロボット。
ノーマンはロボットが情動をもつ利点として、次のようなことを述べています。気になったところを抜粋して引用します。

  • 驚きは、状況が予期していた通りではないこと、やろうとしている今の行動がもはや適切ではないこと、したがって、それをやめて再評価する必要があるということを意味している。
  • フラストレーションは、人間にとっても機械にとっても役に立つ感情である。なぜなら、ものごとが行き詰まり状況に達したときは、それをやめて何か他のことをすべきときだからである。
  • プライドがなかったらロボットは気にしないだろう。ものごとをより良く行うために学ぼう、という動機がないからだ。

このあたりは、アノ人あたりが興味を示しそうなところだと思います。
なので、このロボットに関しては、また別の機会に書ければと思います。

こんな感じのドナルド・A・ノーマンの『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』。
デザインに関わる人すべてにおすすめの一冊です。



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