ドナルド・ノーマン『誰のためのデザイン?』
最近ずっとヒトとモノとのインタラクション・デザインについて考えてきたわけですけど、これほどしっくりくるデザイン観に出会ったのははじめてかも。ドナルド・ノーマンは『誰のためのデザイン?』の中で、道具はそれを使ってどのような行為を行うことができるのかがわかるようにデザインしておくこと、コンピュータによるシステムの設計もそれが何をアフォーダンスしているのかが、よく「見えるように」しておくことを提案している。一言でいえば、「物」ではなく「リアリティー」を、「形」ではなく「アフォーダンス」をデザインすべきだということである。佐々木正人『アフォーダンス-新しい認知の理論』
「物」ではなく「リアリティー」を、「形」ではなく「アフォーダンス」を。
これは本当にそのとおりだと思います。
インタラクション・デザイン
「生態学的認識論における情報と環境」でも引用しましたが、佐々木さんはこの本のなかでジェームス・ギブソンの生態学的認識論における「情報は人間の内部にではなく、人間の周囲にあると考え」、「環境は、加工されなければ意味をもたない「刺激」のあるところではなく、それ自体が意味をもつ「持続と変化」という「情報」の存在するところ」という「情報」「環境」の新しい認知科学的定義を紹介してくれています。こうした認知科学的傾向をもつヒトと「情報」のある場所である「環境」において、その「環境」の一部に新たに加わるはずのモノとのインタラクションをデザインしようとするなら、当然、それはノーマンのいうような「物」ではなく「リアリティー」を、「形」ではなく「アフォーダンス」をデザインしなくてはなりません。
アフォーダンスのデザイン
では、どうすればアフォーダンスをデザインできるのか?もちろん、アフォーダンスをデザインするために一様な方法があるわけではない。設計のアイデアは、道具やシステムが利用されるまさにその現場で発見されなければならないのだろう。佐々木正人『アフォーダンス-新しい認知の理論』
「デザインするために一様な方法があるわけではない」という見解は、「僕たち、普段、デザインしてないんじゃない?(デザイン・プロセスのデザイン2)」で紹介した、IDEOのデヴィッド・ケリーのいう、デザインにおいては「ある問題を理解したとしても、同じ方法で次の問題も解決できるわけではありません」という話と共通点をもちます。
そのエントリーでは「デザインの5つのステップ」として、「理解」「観察」「視覚化と予想」「評価と改良」「実現」をあげましたが、なぜ、普段、僕らが実際のデザインと活動と思っている「視覚化と予想」「評価と改良」「実現」以外に、「理解」や「観察」というステップが必要なのかといえば、デザイナーがデザインするのはモノそれ自体ではなく、モノを使う人々の経験、そして、その経験から人々が感じとるリアリティやアフォーダンスだからなのでしょう。
デザイナーはフィールド・ワーカーである必要がある
そして、デザイナーは、道具の要素となる「形」の専門家ではなく、まずは道具を介したときに、人々の「知覚と行為」にどのような変化が起こるのかについてしっかりと観察するフィールド・ワーカーである必要がある。リアリティを制作するためには、リアリティーに出会い、それを捕獲しなくてはいけない。佐々木正人『アフォーダンス-新しい認知の理論』
ね、再三、このブログではフィールドワークの重要性、そのためのエスノグラフィやコンテキスチュアル・インクワイアリーなどの方法を紹介してきましたが、まさにデザイナーに必要なのは、自らフィールド・ワーカーになることなんです。
そして、なぜ、それが必要かといえば、フィールドワークを行うことで新たなリアリティを発見するためです。情報が人間によってつくられるのではないように、リアリティのデザインといってもそれはデザイナーのなかで純粋につくられるというよりも、デザイナーが外部環境におけるリアリティの発見とともにつくりあげていくものだと思うのです。
オフィスのなかにユーザーはいない
前にも「ユーザーの生活や思考を知ることからデザインをはじめる」でデザイナーには「積極的にオフィスの外に出て、頭をからっぽにして馬鹿になり顧客の懐に飛び込んでいくスキルが必要なのです」と書きましたが、オフィスに閉じこもってパソコン相手ににらめっこしてたってデザインなんてできません。だって、そこにはユーザーがいないんですから。
ユーザーとモノとのインタラクションにおけるリアリティやアフォーダンスはそこにはないんですから。
それを発見したければ、フィールド・ワーカーになることです。
オフィスを飛び出し、街に出ることです。
出不精で引っ込み思案なデザイナーには、よいデザインなんてできないんじゃないでしょうか?
関連エントリー
- 生態学的認識論における情報と環境
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