2冊の本を読んでIDEOの創造の手法には憧れさえ感じましたが、やっぱりお兄ちゃん(デヴィッド・ケリー)、弟以上にすごいことをさらっと言い切ってくれます。
デザインのプロセス
プロセスを学習すること、注意を払うことを止めるのは不可能です。企業は、いい結果を手にしたいのなら、デザインのプロセスを理解し、改良するために努力をし続けなければならないのです。デヴィッド・ケリー「第8章 デザイナーのスタンス」
テリー・ウィノグラード『ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ』
最近、デザインについての本をいろいろ読み進めながら、デザインって何だろう?って考えているのですが、考えれば考えるほど、「僕たち、普段、デザインしてないんじゃない?」っていう疑問がわいてきています。
「デザイン・プロセスのデザイン」というエントリーでは、「個々の能力を生かすためにも、デザイン・プロセスを固定せず、各プロジェクトごとの要求に応じて、デザイン・プロセスそのものをデザインしていくことが必要になるのではないか」と書きましたが、先の引用に続く箇所でお兄ちゃんもやっぱりそのことに言及しています。
しかし、これはプロセスが標準化できるということではありません。ある問題を理解したとしても、同じ方法で次の問題も解決できるわけではありません。典型的なデザインの状況にはいつも、方法のわからないものがつきまといます。デヴィッド・ケリー「第8章 デザイナーのスタンス」
テリー・ウィノグラード『ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ』
デザインのプロセスを固定化し、そのプロセスにどんな問題でも押し込めようとしてしまうのは、デザインではなく、エンジニアリングの手法です。
問題解決としてのエンジニアリング、モノをクリエイトするデザイン
デヴィッド・ケリーはこのインタビューの中で、「問題解決としてのエンジニアリングとモノをクリエイトするデザイン」を明確に分けて語っています。「技術で戦うということの脆弱性」でも「エンジニアリングというのは、あるレベルの確実性をもったルールの集合により、問題を分析的に解決していく手法」と書きましたが、一方でデザインとはデヴィッド・ケリーが語るように、
デザイナーは混乱や不明確さに対処することができ、また本能を信じようとします。基本的に、デザインは本能に関わっているのです。デヴィッド・ケリー「第8章 デザイナーのスタンス」
テリー・ウィノグラード『ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ』
もちろん、これはエンジニアがクリエイティブでないということを意味しません。エンジニアだってデヴィッド・ケリーがいうような意味でデザインをする人はします。
その反対にデザイナーがエンジニアと代わらぬ方法=問題解決的にしか動かない場合だって多いでしょう。
例えば、僕が仕事でお客さんのところに駆り出される場合、ほとんどお客さんの目的や要望があいまいで、まず、そのあたりを整理しに行くことが多い。ヒアリングや現状の市場環境の調査などを行いながら、視野を拡げたりせばめたりしながら、何をデザインすればよいか、どうデザインすればよいかを整理していく。
それをある程度、整理して、何をつくればよいのか、まとまったあたりで制作ディレクターに仕事を渡すというのが僕の役割だったりします。
さっき思ったのは、実はこれが本来、デザインなんじゃないの?ってことです。
これこそがデザイナーの本来の仕事なんじゃないだろうか?って感じたんです。
デザインの5つのステップ
デヴィッド・ケリーはこんな風に言います。ある企業がやってきて、「新しいトースターをデザインしてもらいたい」と言ったとします。私は「パンがどうカリカリになっていくかを研究しましょう」と答えるでしょう。相手は「いや、トースターのデザインをお願いしているんです。さあ、始めて下さい」とくる。トースターが何であり得るかという彼らの想像の世界は、狭いのです。しかしわれわれは、「われわれの仕事は、パンの歴史を見ることから始まるんです」と返事をする。デヴィッド・ケリー「第8章 デザイナーのスタンス」
テリー・ウィノグラード『ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ』
そう。クライアントに言われたままをつくるのは制作ではあってもデザインではありません。
デヴィッド・ケリーは「広く検討をして、その後にせばめたのなら、正しいことをやっているという安心感が得られる」と言います。
そんなデヴィッドが創設したIDEOでは次のような5つの独立したステップによって、デザインが進められるといいます。
- 理解:デザインするもののコンテクストを理解すること。先の例であればトースターに関連する技術や、競合環境、歴史や市場セグメントを理解する。
- 観察:理解によって大まかなデザインの方向性が決まれば、街に出て潜在的なユーザーや顧客を観察するフィールドワークを行う。人々が何に慣れ親しんでいるのか、何が大切なのかなどの広い視野を得る。IDEOでは主要なユーザーの性格を要約したキャラクター・マップを書いたりするそうだが、ここではペルソナなんかも使えるはず。
- 視覚化と予想:ここでようやくデザイナーはデザインするものについてスケッチしたり、プロトタイプをつくったりする。ペルソナをつかったシナリオやストーリボードをを描いたりするのもこの段階。
- 評価と改良:デザインの基本的な構造ができたら、いろんなレベルのユーザーテストを行いながら、ディテールをブラッシュアップしていく。デザイン・チームは分析、観察、スケッチ、プロトタイプというサイクルを繰り返すのだそうだ。
- 実現:ここに来てようやくどう実現するかを考える。デザイナーは、コスト、製造可能性、耐久性、クオリティ・コントロール、メンテナンスなどに焦点を移す。
こうした5つのステップは、要素としてはあるものの、IDEOでは必ずこのステップを踏むわけではなく、先にも述べたとおり、「それぞれの要素を再編成したり違った方法で結び付けたりしている」そうです。
「ある問題を理解したとしても、同じ方法で次の問題も解決できるわけでは」ないのですから当然でしょう。
さて、それはそうと僕らのデザインはといえば・・・。
理解や観察などのステップは常にすっ飛ばしていたり、常に型にはまったプロセスを繰り返していたり、目的や何をつくりたいのかが明確にクライアントから提示されなければ右往左往してしまったりしていないでしょうか?
それって果たしてデザインをしているといえるのか?
かなりビミョーでしょうね。
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