ただ、上流工程といっても、これまでのような「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」といった区分でいうところのホワイトカラーばかりを指すわけでもない。いわゆるブルーカラーと呼ばれる肉体労働系であっても、職人さんといわれている人たちの多くが創意工夫を凝らした仕事をしている点において、ただ毎日コツコツと同じ事務作業を繰り返しているホワイトカラーの人々より「上流」工程同様の価値を提供していることへの注目がなされるようになっている。
森さんは「「上流」とか「下流」といった事業の工程による2分類がはっきりし始めてきた印象が強い」と書いた上で、これまでの「上流」「下流」といった区分があいまい化されている状況が生まれてきている点を指摘しています。
この傾向は「上流」「下流」の区分の再定義あるいは多様化がはじまっているとみることも可能でしょう。
クリエイティブとデザイン
その際のキーワードは森さんも指摘しているように「デザイン」だったり「クリエイティブ」だったりするのだと思います。これまでイノベーションといえば、最新の技術によって生み出されるものという認識があったと思います。しかし、最近では世界的に、デザイン主導のイノベーション、デザイン思考による創造性をいかに組織において高めていけるかということ企業の競争優位性においても、個人のキャリアにおいても重視されつつあります。
社会や人々の暮らしに新しい価値をもたらすイノベーションの技法には「観察」「プロトタイプ」「コラボレーション」が重視される点は先にも書きました。
このうち、クリエイティビティ(創造性)を発揮する上での欠かせない必要条件は、観察によってデザイナー自らが驚きを感じることだと僕は思います。
同じことを奥出さんの前著から引用すれば「この作業で大切なのはデータではなく、観察者自身が変わることなのだ」となります。
かつて、そして、今でもそうだと思いますが、クリエイティビティといえば一部の人の特権のように考えられがちです。
しかし、いま一部の人、企業が気付き始めたのは、クリエイティビティは特定の個人の特権ではなく、クリエイティビティを生み出すためのプロセスや手法を知っているかどうかの違いだということなのだと思います。
クリエイティビティを生み出すためのプロセスや手法
クリエイティビティを生み出すためには、それなりに適切なプロセスや手法がある。そのプロセスや手法を学び取り、個人や組織にそれを定着・浸透できるかが、クリエイティビティの高い個人や組織になれるかそうでないかの境目になるということです。この点に関しては、ここ最近、このブログで紹介してきたような以下のような本で指摘されていることとも通じます。
このあたり、真剣に考え、組織の創造性、デザイン思考を強化していく取り組みを今すぐにでもはじめていかなくてはいけないのでしょうね。
その際、勘違いしてはいけないと思うのは、それが「組織の」創造性やデザイン思考の問題であり、「個人の」それらではないという点でしょうか。
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