デザインは"デザイン"の下流工程ではない

普段は"デザイン"という言葉を"計画"や"設計"を示す広義な意味で使っている当ブログですが、今回は、一般に"デザイン"という際に連想されるビジュアルデザインや形態のデザインという意味で書いてみたいと思います。

区別をするために、今回は広義の意味で使う場合は"デザイン"、狭義の意味で用いる場合、デザインと表記することにします。

書こうと思うのは、デザインの持つ力とそれを発揮するための方法についてのアイデアです。

デザインは"デザイン"の下流工程ではない

一般的にデザインというものは、どうも付加価値的要素と考えられている傾向があると思います。

例えば、ファッション・デザインもそうでしょうし、携帯電話のデザインなんかもauがデザイン・プロジェクトみたいなことをはじめるまではひどかった。

デザイン性そのものが購買のポイントになるファッションや化粧品などのメーカーを除けば、商品開発においてデザインそのものはどちらかというと、開発工程の下流のほうに位置づけられていることも多いかと思います。

もちろん、例外もあります。
いま読んでいる『ホンダのデザイン戦略経営』によれば、

ホンダにとって「1つの商品」は「1つの事業」に当たるほど重要なものである。「1つの事業」が一貫性を保つには、全体の調和を図っていく経営手法が必要となる。それは例えば、ラグビーアプローチ(マーケティング、デザイン、エンジニアリング、セールスの4要素が最初からスクラムを組んで製品開発を手がける方式)によるデザインマネジメントである。
岩倉信弥ほか『ホンダのデザイン戦略経営』

という風に、ホンダのクルマづくりにおいて、デザインは開発の下流工程という意識はないようです。

これはIDEOにも見られる、できるだけ早い段階でプロトタイプをつくるという発想にも近い。
デザインを行う人が商品の企画段階から入ってくれて、企画をその場で形にしてくれれば、その企画がよいか悪いかの判断もしやすくなるはずですし、実際のものを見ることでアイデアもブラッシュアップされます。

そうすることでデザインの付加価値性がより威力を増すようになるはずだと思います。
ここで間違えてはいけないのは、付加価値というのが単なるおまけではないということ。付加価値というのは、もはや人々に求められる商品にとっては必要不可欠の付加価値であるということだと思います。

脱「5 Planes Model」

同じようなことはWebサイトの開発の場合でもいえると思います。

以前に紹介したJesse James Garrettの5 Planes Modelをベースにした開発プロセスにおいては、ビジュアルデザインは開発工程のうしろのほうにまわされがちです。



しかし、企画やマーケティングをやっている立場からすると、それを疑問に思うことも多いんです。

例えば、Webを使ったブランディングなどを考える際に、要件や構造、骨格が決まるまで、ビジュアルデザインがはじまらないとなると、ブランド構築には不可欠なエモーショナルな部分を刺激するクリエイティブな部分がまったく見えてこないまま、企画を進めなくてはいけなくなります。
コンセプトを固めるなかで、フリーの写真素材などを使って、ビジュアルデザインの方向性、コンセプトを固めたりはしますが、それはあくまで方向性決めであってデザインではありません。それだとやっぱりコンセプトが明確になりきらない面がどうしても残ってしまいます。

そういった点を考えると、ビジュアルデザインを企画段階においてはじめる、ホンダのラグビーアプローチに近いモデルが必要だと思います。
脱「5 Planes Model」的なアプローチが。

未来の情景を描き、それを現物にする

ホンダのラグビーアプローチでは「まずマーケティングが動き始め、顧客満足度の向上のために、商品の使い手側の発想に基づいて、その商品コンセプトを定める」のだそうです。

その際、

「現実」の顧客の生活様式(顧客がその商品をどのように使うのか)について徹底して調べるのである。
岩倉信弥ほか『ホンダのデザイン戦略経営』

またしても、これはISO13407の人間中心設計のプロセスにきちんと基づいてますよね。
人間中心設計の必要性の特定」として商品コンセプトを定め、現実の顧客がその商品をどう使っているかという「利用の状況の把握と明示」を行う。

その際には、つくり手が実際に市場に身を置き、「現実」に触れていく。彼らが「現実」に入り込んで、使い手側の視点から確認して気付いた点に基づいて、コンセプトが導き出される。そうしたコンセプトには、「現実」の未来をこうしたいというつくり手側の意思が込められる。
岩倉信弥ほか『ホンダのデザイン戦略経営』

著者らは、そこに「未来の情景が描かれている」といいます。最近、このブログでもよく紹介しているペルソナを使ったシナリオ法やIDEOがデザインを行う際に使うビデオを使ったプロトタイプなどもまさにこうした「未来の情景を描く方法」だといえます。

とにかく、よいデザインをしたければ、まず未来を描かないといけないのだと僕は思う。
それは自分自身が新しい目をもつことに違いない。

そして、未来の情景が描かれたら、

情景に登場する商品を「現物」にするために、顧客の価値観を見事に表現すること(デザイン)や、その時点での最良の技術による高性能性の達成(エンジニアリング)など、「ものづくりの現場」での緻密な作業が始動する。
岩倉信弥ほか『ホンダのデザイン戦略経営』


人間のように気配を感じるモノをデザインする

『ホンダのデザイン戦略経営』を読んでいると、いろいろと印象的な場面に出会います。
その1つに、共著者のひとりである岩倉さんが初代アコードの新しい形づくりに苦戦していた際に、本田宗一郎さんに言われたという「人間のように気配を感じるクルマを考えろよ」といわれたという話も、とても印象的なものでした。

印象的だと感じた理由は、この本田宗一郎さんの言葉が、すこし前に読んだ茂木健一郎さんの『天才論―ダ・ヴィンチに学ぶ「総合力」の秘訣』で描かれていた、人物を機械のように描くと同時に、人物以外の背景やまわりの無機物までも生きた人間のように描いたレオナルド・ダ・ヴィンチ像を思い出したからです。

岩倉さんは、本田宗一郎さんにそう言われて、2つの解釈をしたそうです。

  • 1つはクルマが人間のようにまわりの気配を感じ取って対処する機能を持つこと
  • もう1つが、クルマという機械がレオナルドの絵のように人と同じく気配を感じさせること
だったそうです。

そして、クルマ自体に気配を発すようにするにはどうしたらいいかと考えていた岩倉さんを救ったのが、「ロサンゼルス郊外の高級住宅地、パロスベルデスの丘の上から紅い屋根と白い壁のスペイン風の家並み越しに太平洋を撮影した写真」だったそうです。

デザインチームはその写真を2×5メートルに引き伸ばしてベニア板でつくったついたてにはり、それを背景として1分の1のクレイモデルをつくったそうです。

そうして、できた、

「アコード」は、前後ともピラーが極端に細く、ベルトラインやボンネットの高さが低い、ガラス面積が驚くほど大きなデザインになった。それは陽光と開放感にあふれたカリフォルニアの「気配」を感じさせた。一枚の写真が「気配」をつくり出すことに、大きく貢献したのである。
岩倉信弥ほか『ホンダのデザイン戦略経営』

この話もIDEOのビデオとプロトタイプをつかって利用シーンを客観的にイメージできるようにする手法と非常に似ています。

デザインのちから

こうしたデザインが発するイメージやエモーションを刺激するクリエイティビティは、ユーザビリティとは違ったところで、商品を利用する楽しみ、喜びを教えてくれるものだと思います。

Webサイトでも、ちょっとした違いでナビゲーションを使ったページ遷移自体がすごく気持ちよく感じられるサイトがあったりします。それは心地よい音楽を聴いたときのような心地よさで、それは決してユーザビリティ的発想からは生まれ得ないものだと感じています。

デザインにはそんな風に、人の気持ちをゆさぶる力がある。
人を楽しませ、喜ばせる力があると僕は思う。

でも、その力を発揮するには、デザインを開発の下流工程ではじめるやり方では、うまくいかないと思う。
デザインの力を引き出したければ、デザインを企画の段階からはじめ、かつ、デザイン主導で開発を進めるぐらいでないと、その力が十分に発揮されることはないのではないかと思います。



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