経験価値の人間中心設計

前にサービスのユーザビリティについて書こうと思ったことがあり、また、自分たちのサービスをつくる際にもプロトタイピングって大事だなって思っていた矢先、ふと訪れたU-siteの「黒須教授のUser Engineering Lecture」の過去記事にこんな記事を見つけました。

人間中心設計の対象はモノだけではない。サービスもその対象になる。いや、なるはずだと思うし、そうすべきだと思う。

僕自身もずっとそう思っていたので、ユーザビリティの専門家の方も同意見であることがわかり、ちょっと安心。そうであるはずだと思いつつ、そこまで広げてしまうのは暴走気味なのかな?と考えることもあったので。

まぁ、正確にはこの記事では「サービスのユーザビリティ」という表現はどこにもなく、「サービスの人間中心設計」について書かれているだけですが、それはそれで僕にとっては好都合。
昨日も書きましたが僕自身は特にマーケティングとユーザビリティに厳密な違いが見出せなくなっているので、両者に共通に利用可能な人間中心設計がサービスにも応用可能だというほかの方の意見も聞ければ十分です。

経験価値の人間中心設計

不安が解消されたついでに暴走モードに入るとすると、僕らは人々が経験する価値自体を人間中心設計プロセスで、デザインしたほうがよいのかもしれません。
マーケティング的に考えると、人があるモノを利用しようとする際に、実際に利用するものは決して商品単体であることはありません。

たとえば、B・J・パインIIとJ・H・ギルモアによる『経験経済』からこんな図を参照すると、



ネジのような「コモディティ」はクルマという「商品」に内包されることで価値を高め、また、そのクルマに車両保険や車検などの「サービス」が付随すると、さらに価値は高まります。
そして、通常の遊園地のような「サービス」にディズニーランドのような「経験価値」が付与されれば、さらに価値は高まります。

個々の商品のユーザビリティはもちろん大切ですけど、そこだけ考慮しても、マーケティング的には成果がでない場合は当然あります。サービスやマーケティング・コミュニケーションなども含めたトータルな人間中心設計で、顧客/ユーザーの経験価値を高めることで、競争優位性を築くことが今後ますます大事になってくるはずです。

エスノグラフィ

それには、黒須さんも書いてらっしゃるように、いささか高度ながら、エスノグラフィの視点をもつことが大事になってくると思っています。

やはり十分なラポールをつけて、毎日毎日インフォーマントのところに話をしに行き、いろいろな出来事についての話を聞きながら、それに対する感情評価的発言に注目する、という活動をしなければならないだろう。こうなると正にエスノグラフィーの調査そのものといえる。

最近、会社のほうのブログにエスノグラフィについて書きましたが、本当に人々のことを知りたければ(つまり、人間中心設計をする気があるなら)、人々の輪の中に飛び込んでいき、人々の生活を観察しなければならないと思います。

そうした話の中で感情的評価が込められた発言にであったら、それを見逃さず、遠回しでもいいからじっくりとその状況、それに対する当時の気持ち、そして現在の考えなどを聞き出すようにする。

感情的発言。
人間中心設計がそれを視野にいれるものだと知って、またまた安心。
感情とかを視野に入れるのはどうなんだろうか? 僕は入れるべきだと思うけど、そこまで広げると、また拡大解釈といわれるのだろうかという疑問はなくはなかったので、それでもいいんだねと思いました。

発見のための航海の本質は、新しい景色を探すのではなく、新しい目を持つことである。

あと、これなんか、いいよね。

次に、そうした状況に関連した組織や個人を訪問し、その状況に対する現在の対応のあり方について話を聞き、さらに技術的、社会的、制度的、経済的、さまざまな困難さについても話を聞いてゆく。安心感の場合、訪問先としては、病院や施設、警察や消防、ボランティア組織、ケースワーカーなど、さまざまなところが考えられるだろう。

いわゆる他家受粉を意図的に発生させるわけですよ。やっぱり、そういうことだよね。
いかに幅広い視点を持てるか、ということ。自分自身の先入観を捨てて、外部を観察することで自分自身の新しい目を発見すること。

そういえば、さっき、うちの会社のサイトのコラムを何気なく見てたら、やっぱりユーザビリティのイベントで、こんなプルーストの言葉が引用されてたということでした。

「発見のための航海の本質は、新しい景色を探すのではなく、新しい目を持つことである。」―マルセル・プルースト

この言葉は、トム・ケリーの『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』でも同じく引用されていました。

これがわかってないと人間中心設計における最初のユーザー調査ってできないと思う。
自分の目にフィルターがかかっていることを意識できない人には、エスノグラフィ的な調査はむずかしい。
そして、新たな発見を喜ぶ感性をもちえない人にも。

総合的にデザインする

ところで、最近、仕事でWebサイトのコンサルティング的な話や調査系の話をいただいても、よくよく話を聞いてみると、もうすこし広い意味での顧客/ユーザーへの価値提供をWebを含めて、どうしていけばよいかという話になったりします。

実際、ユーザーと企業との接点は、Webサイトに限られることは一部のネット系企業を除けばほとんどありません。その場合、ユーザーのブランド経験をデザインしようとすると、当然、Webだけのデザインの話ではおさまらなくなります。

最近は、そういう場合でも人間中心設計の話を、いわゆる市場調査的な話と平行してお話しするようにしています。
そうすると、とりあえずどこから手をつければよいかという点で話がとまってしまうことはなく、まずできることから調査をはじめましょうという形でスタートできます。

これはこれでなかなかよいなと思うし、Webをそうしたユーザー経験の1つとして認知されてきたことも同時に感じます。

そういう意味で、なかなか面白くなってきたなと思ってます。
もちろん、その分、大変なんですけどね。

 

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