イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材

IDEOのイノベーションの技法を紹介した『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』の続編。今回はイノベーションを実現する方法を、人という側面から紹介してくれています。
これがまたおもしろく、とても参考になりました。

すでに「ブレインストーミングの7つの秘訣」「サッカーチームに学ぶ5つのチームワークの鍵」「未来を切り開くスキルとしての他家受粉」「組織の勝負は個の能力ではなくバトン・パスで決まる。」などのエントリーでところどころ紹介していますが、読了したので、あらためてご紹介。

イノベーションは究極のチーム・スポーツである。すべての役割に、それぞれの分野で最高の仕事をさせれば、イノベーションを推進する前向きの力が生まれる。
トム・ケリー『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』

この本には、イノベーションを実現させるために必要な創造性をになう10の個性的なキャラクターが登場します。

情報収集をするキャラクター

組織に常に新しい情報をもたらし、組織が内部の知識にうぬぼ

れすぎていないかを思い起こさせてくれるのが、3つの情報収集をするキャラクターに共通する点。

3者はそれぞれ異なる仕方で情報を収集する役割を担っていますが、3者とも自分の現在の世界観に

疑問をもてる謙虚さがあり、新しい発見を柔軟な姿勢で受け止めることができる。

1.人類学者
人々の行動を観察して、提供される商品やサービスと人々がどのようにインタラクションしているかを理解するキャラクター。

2.実験者
常に新しいアイデアのプロトタイプをつくりながら試行錯誤を繰り返すことで情報を得るキャラクター。

3.花粉の運び手
異なる業界、異なる分野を探り、そこで発見したことを自分達がデザインしようとしているものに見合うように変換するキャラクター。


土台をつくるキャラクター

どんなにいいアイデアでも、環境が整わなければ実を結ばないことがある。資源の取り合い、時間の取り合いなど、勝つためにはアイデアが育つ土台づくりを担うキャラクターが不可欠。3者はそれぞれ不屈の精神で、障害を除去し、境界線を乗り越え、チームを盛り上げながら、チームをゲームの勝利へと導いていく。

4.ハードル選手
イノベーションに至る道程に存在するさまざまな障害物を、不屈の精神で次々と軽快に飛び越えていくのがこのキャラクター。

5.コラボレーター
多彩な集団をまとめあげ、集団の中心に立って新しい組み合わせ、分野横断のソリューションを生み出すキャラクター。

6.監督
才能あるキャスト、クルーを集めてくるだけでなく、彼らのクリエイティブな才能を開花させる手助けをするキャラクター。


イノベーションを実現するキャラクター

情報収集をする役割から得られた発見を用い、土台をつくる役割から委託された権限を利用して、イノベーションを最終的に実現させるのが彼らの役割だ。

7.経験デザイナー
表面には決してあらわれない潜在的な顧客のニーズに深いレベルで結びつく説得力のある経験そのものをデザインするのがこのキャラクター。

8.舞台装置家
<イノベーション・チームが最高の仕事をするための舞台を演出するのが彼らの役目。ただの物理的な環境を行動や姿勢に大きな影響をおよぼす強力なツールに変換するキャラクター。

9.介護人
つねに顧客のニーズを察知して、すぐさま本当に求められているサービスを顧客の前に提示できるのがこのキャラクター。

10.語り部
人のこころの奥深くに働きかける、説得力のある真実を物語り、内部の士気を高め、外部からの評判を高めるのがこのキャラクター。


10のキャラクターは役職ではない

トム・ケリーは創造する組織に必要なこの10のキャラクターについて、ひとつひとつ丁寧にわかりやすく紹介してくれています。

しかし、この役割は必ずしも組織における役職や職務とは異なるといっています。
あるプロジェクトでは人類学者のキャラクターを演じた人が、別のプロジェクトでは経験デザイナーの役割を演じてもかまわない。いや、むしろ、創造する組織にはそうした複数のキャラクターを演じられる人材が必要で、かつ組織もそうした人々の活動を推奨しなくてはいけないと述べています。

そして、大事なことは、ひとりの秀でたキャラクターを求めることではない、と。

イノベーション文化を築いて維持するのに10種類のアプローチがあるとしても、重要なのは総得点なのだ。すべての会社が直面する毎日のさまざまな試練の中で、いつも安定して競争に勝っていく能力こそが求められているのである。
トム・ケリー『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』

そう。創造する組織に必要なのは、ひとりのカリスマ的スターではなく、チームが総得点において他を圧倒するようなチーム全体での総合力なのです。

技術、知識がコモディティ化する現在において、企業の競争優位性を高く保ち、市場において勝利を得続けるためには、固定化した専門性を有した人材が他の部門との壁にはばまれ、十分にその力を発揮できないような組織づくりではダメで、人々が入れ代わり立ち代わり相互にポジション変更をしつつ、ひとつのボールをパスを回ししながら、ひたすらゴールを目指すようなそんなチームが必要なのではないでしょうか。

最近、そのことがとても実感できるのです。



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