2007年03月31日

組織の勝負は個の能力ではなくバトン・パスで決まる。

組織において個を尊重し、個の能力を高めることが重要なのはすこしも疑いがないことだと思います。個人がその持てる能力を発揮でき、さらに常に高められる環境をつくることは組織における重要な課題だと思います。

しかし、それだけではうまくいかない。
ひとりが100メートルを約10秒で走る選手を集めた400メートル・リレーで、40秒を2秒以上切る世界記録が生まれえるのは、個の能力の高さのみではないバント・パスという協調とコミュニケーションの技術が極度に研ぎ澄まされたときのみだからです。

バトン・パスがどれほど重要か

組織における業務の受け渡しにおいて、前工程と後工程のあいだの協調とコミュニケーションが欠けていたばっかりに、仕事がうまくいかなかったということは、誰もが一度は見たり経験したりしたことがあるのではないでしょうか?

IDEOのトム・ケリーは『イノベーションの達人−発想する会社をつくる10の人材』の中で、このような協調とコミュニケーションの重要性を、陸上競技の400メートル・リレーを例に出して説明しています。

リレーの勝負はバトン・パスで決まる。バトンを受け取る走者のスタートが遅すぎれば、勢いが失われる。しかし早すぎてもバトンを受ける前にゾーンを出てしまって失格になる恐れがある。バトン・パスにしくじった例は、誰でも見たことがあるはずだ−トラック上でも、そして仕事上でも。それらの失敗は協調とコミュニケーションの不足が原因である。
トム・ケリー『イノベーションの達人−発想する会社をつくる10の人材』

ひとりひとりがどんなに世界レベルの才能をもっていても、チームがバトン・パスが下手でトップスピードを維持した形でバトン・パスを行うことができなければ優秀な成績を残すことはできないし、ましてやバトンを落としてしまうなど最悪の事態にでもなれば相手チームに大きく差をあけられることになります。

400メートルという短距離のレースでもそうなのです。たった4人のチームワークにおいてもそうなのです。
より長い距離のレース、いや、むしろ終わりのないレースを、4人よりさらに多くの人数で戦おうとしている企業組織において、勝負は個人の能力だけではなくバトン・パスで決まるはずです。

細切れの専門性ではうまくいかない

どんなに第一走者が素晴らしいスタートを切り、他にダントツの差をつけていたとしても、次の走者、また、次の走者にバトンを渡すコミュニケーションがうまくいかず、そこで減速やバトンの受け渡しミスがあれば、すぐに後続のチームが追いつき、追い越していきます。
下手すれば誰よりはやくスタートを切り、勝利は間違いないと思えたチーム=組織でも、バトン・パスを甘くみたために、気が付けば他のチームに先を越され、周回遅れにさえなっているということだって起こりえます。

組織においては個々の能力と同時に、組織の能力が重視されるべきだと思います。
トム・ケリーが『イノベーションの達人−発想する会社をつくる10の人材』や『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』で紹介しているIDEOの創造力も、個の能力であると同時に組織の能力です。
組織に優れた専門性をもった個人が数多く所属しているだけでは、組織の力とはなりえません。組織においては様々なビジネスプロセスが動いているのですから、そのリレーにおいて協調とコミュニケーションの不足があれば、個々の専門家が自らのトップスピードを維持することはできません。細切れの専門性ではうまくいかないのです。

プロセスをあまく見てはいけない

最近、このブログでもそうですけど、様々なところでプロセスの話をさせていただくことが多いのも、組織の能力値を高める上でそれが個々人の能力以上に重要だと考えるからです。

こういう話をすると、一部ではプロセスの話はいいから、もっと具体的な話をしてほしいという感想をもらされる方もいます。しかし、そういう方はプロセスそのものが具体的なもので、かつ、非常に現実において重要なものであることを認識されていないのではないかと感じます。目に見える結果のみを具体的と考えているなら、その方には残念ながらその具体的な結果を自分の手で作り出すことはできないでしょう。

1つのプロジェクトを進行する上でも、企業組織がイノベーションを重ねて競合他社に先んじて競争優位性を保ち、市場環境に適応していく上でも、プロセスにおける協調とコミュニケーションの能力を磨き、個々人がトップスピードを維持できるかどうかが、プロジェクト進捗のスピード、組織の成長スピードとなって表れてきます。

スタートで1位になるのではなく、ゴールラインを1位通過するためのプロセス

どんなに早い時期にある新しい技術や方法論に目をつけ、その技術、方法論に長けた専門家を育てられたとしても、その専門家がプロセス全体において上手なバトン・リレーができるようチーム=組織自体を成長できるようマネジメントできなければ、それは単にスタートダッシュがいいだけで、ゴールを1位で通過できる結果にはつながらないはずです。

同じように100メートルを約10秒で走る選手を4人集めても、40秒を2秒以上切る世界記録が生まれることもあれば、反対に途中でバトンを落としてゴールにたどり着けないことだってあるんです。
ゴールテープを最初に切ることを目指すのであれば、個々の能力を高めるのと同時に、プロセス全体を協調とコミュニケーションを中心にデザインする思考が重要なのではないかと思います。

具体的には、組織においてワークアウトやブレインストーミングを行う文化があるかということになるでしょうか?
イノベーション・プロセスを身につけている組織とそうではない組織ではそこに差があるのではないかと思います。

 

関連エントリー
ラベル:組織 創造性 IDEO
posted by HIROKI tanahashi at 14:50| Comment(0) | TrackBack(0) | デザイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック