デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン/Jenifer Tidwell

そろそろ、この本の書評を書いておかなくては。

ここ数年間のテクノロジ上の変化の数々を理解しようとする一介のインターフェースデザイナとして、私はインタフェースデザインの技法に対する2つの大きな影響に気づいた。1つめは「インターフェースのイディオム」、つまり頻繁に使われるインターフェースの種類または株式の増加である。(中略)2つめの影響は、これらのイディオムの中から複数の要素を組み合わせて使うことについてのルールがゆるくなってきたことだ。
Jenifer Tidwell『デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン』

このような変化を感じたことをきっかけに著者は、様々な角度からインターフェースのパターンを紹介する本を生み出しました。様々な角度とは、

  • 情報アーキテクチャーやアプリケーションの構造
  • ナビゲーションや経路探索のための要素
  • ページの構成、レイアウト
  • アクションやコマンド
  • ツリー、テーブルやその他のインフォメーションのためのグラフィックス
  • フォームとコントロール
  • 制作ツール、編集ツール
  • 視覚的スタイル、そして、美学

と、デザインの要素だけでなく、デザインするためのツールや美学まで含んだ多岐にわたるものです。

著者が、序章で記しているように、こうしたデザインにおけるパターンを研究したものは、本書が最初のものではありません。

わりと有名なところでは、建築物のパターンを扱った、クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ-環境設計の手引』があります。また、ソフトウェア開発においては、エリック・ガンマらの『オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン』もあります。

そうした先例における発想を、デスクトップやWebベースのアプリケーションやモバイル機器や携帯電話などのデジタル機器、そして、一般的なWebサイトにも使えるパターン集としてまとめたのが本書です。

出発点は人々を理解すること

しかし、そんな本書でさえも、第1章はこのような言葉ではじまります。

出発点となるのは、人々を理解することなのだ。彼らはどんな人物なのか。なぜ特定のソフトウェアを使うのか、それをどう操作するのか、彼らを深く知るほど、そして彼らに共感を抱くほど、より効果的にデザインすることができる。
Jenifer Tidwell『デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン』

実はこの本の書評をこれまで書かなかったのも、本書の最初にこの言葉が置かれているのと同じ理由です。パターン集を渡されれば、それを組み合わせる作業はいますぐにでも始められます。しかし、それでは正しい答えは出せません。

ここ最近、紹介してきた本、『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』では、どれもデザインプロセスにおいて人々を理解することの重要さやそれを実践するための手法を説いたものでした。

本書では、その手法を詳しく説かれていませんが、それでもはじめの章にユーザー行動を知ることの大切さを描き、本書で詳しく描けなかったその詳しい方法やデザインプロセスについては他の本を読んでほしいと書かれています。
そんなこともあって、僕はこの本を紹介する前に、ユーザー理解やデザインプロセスについて書かれた本を先に紹介しておきたいと思ったわけです。

優れたバランス感覚

この本がいいなと思ったのは、先に挙げたようなリストにあるようなパターンを紹介する角度のバランスがよいなと思った点です。

僕は常々、ユーザビリティを考える人のバランス感覚のなさに失望しています。それはなぜかというと、彼らの多くが機能主義的な視点を重視しがちで、人々がモノを使う際の重要な要素をないがしろにしているからです。

その要素とは「愛着」です。
使い勝手がよいことやユーザーが自分の目的を達成するためのタスクをこなせることだけでは、ユーザビリティという度合いを高めることはできないと思っています。マーケティングにおいても「機能的ベネフィット」と同時に「感情的ベネフィット」が重視されますが、それと同じで、ユーザビリティも機能的要素からのみ成るものではないと思っています。

ユーザビリティを考える人は、それはまた別の要素だというかもしれません。しかし、デザインされるものは1つです。システムとUIなどでなら分割も可能ですが、ユーザビリティというユーザーが感じる効果、効率、満足度の度合いを1つのデザインから分割することはむずかしいはずです。

その点、こんな記述からはじまる本書の最終章は好感がもてました。

2002年、ある研究グループが興味深い事実を発見した。スタンフォード大学のウェブ信頼性研究プロジェクトが、人々にウェブサイトへの信頼感または不信感を抱かせる研究に着手した。(中略)しかしもっとも重要な要因、つまり彼らのリストの1番目に挙がっていたのは、ウェブサイトの見た目であった。ユーザは、素人が作ったように見えるサイトを信頼しなかったのだ。
Jenifer Tidwell『デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン』

見た目やコンテンツの内容など、クリエイティブな要素は、人々の愛着に影響を与える重要な要素です。ユーザビリティを考える人がこれらの要素を忘れがちなのに対して、マーケティングをやってる人はこれらの要素にばかりとらわれがちです。ともにバランス感覚を欠いていて、どちらの場合もユーザーの心をとらえるデザインを生み出すのはむずかしいのではないかと思います。

本書で紹介されたパターンを組み合わせてデザインを行う際にも、そうしたバランス感覚が大事だと感じます。そして、そのバランス感覚はやはりユーザーを理解するということを出発点としたUCDのデザイン・プロセスの上に成り立つバランス感覚なのではないでしょうか?



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