ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする/ジョン・S・プルーイット

ジョン・S・プルーイットの『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』。
すでに「ペルソナ:誰のために何をデザインするかを明示する手法」でも紹介していますが、全部読み終わったのであらためて紹介しておきましょう。

ペルソナとは何か? 何の役に立つのか?

会社の同僚にこの本の存在を紹介してもらい、すこし興味があったので先週末に買って読み始めたのですが、正直、最初はあまりピンと来ませんでした。

というのは、本書がすこしペルソナに焦点をあてすぎていて、記述の仕方が冗長な面もあるからなのですが、読み進めていくとそういったマイナス面より内容の面白さ、興味深さに惹かれました。あながちすこしペルソナというものに予備知識があったので、誤解していた面もあったので、それが邪魔して先入観をもって読み始めたのがいけなかったのかもしれません。しかし、読み進めていくとそういった先入観も消え、むしろ、ペルソナの威力にどんどん引き込まれました。

最近、僕がつよく興味を持っているUCD(あるいはHCD)のプロセスにおいて、ペルソナは非常に有効なツールだと、この本を読み終えて感じています。

では、そのペルソナとは何か? 著者のジョン・S・プルーイットは以下のように定義しています。

「ペルソナ」は、実在する人々についての明確で具体的なデータをもとに作り上げられた架空の人物であり、ユーザーが本当に使いたいと感じる製品の実現をサポートするためのツールであり、手法である。
ジョン・S・プルーイット『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』

「ユーザーが本当に使いたいと感じる製品の実現」。これはUCDが目指すものです。

UCDのデザインプロセスにおいては、何をつくるのかを決めたら、まず、ユーザーの利用状況を把握しそれを明示し、その上で分析的にユーザーの要求を明示します。その上で設計によりユーザー要求の具体的な解決案を作成し、ユーザーテストなどを通じて設計案を評価します。
この一連の流れを通じて「ユーザーが本当に使いたいと感じる製品の実現」する。それがUCD=ユーザー中心デザインの考え方です。

最もよい方法は、製品に携わるすべての関係者が常に製品を使う人々のことを考えることである。そうすれば、ユーザーに関する実情報がすべての意思決定事項に反映され、製品を使う人が満足するからだ。
ジョン・S・プルーイット『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』

そう。デザインの意思決定事項のすべてにおいて実際にユーザーのニーズ(意見ではなく)が反映され、それが実現できればいうことはありません。

しかし、これは現実的ではない。ユーザー中心デザイン(User Centered Design=UCD)を実現しそのメリットを得るには、製品開発という混沌とした世界にユーザーに関する正確な情報を投入する創造的な手法が必要とされるのだ。
ジョン・S・プルーイット『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』

そう。すべての人が四六時中、ユーザーのことばかり考えているわけにはいきません。たとえ、それが可能だったとしても、製品のデザインに関わる人々がすべて同じようにユーザーを想像するわけでもありません。

こうした課題を乗り越え、UCDを実現するための創造的なツールが、ペルソナです。

ユーザーは複雑な環境に生きていて、その複雑な環境の中で製品を使う

すこし前の「User Centered Designが必要な理由」というエントリーでこんな図を紹介しました。



ユーザーが製品やサービスを利用する際には、決して真っ白な状態でそれを利用するわけではなく、その利用経験による商品やサービスの評価も当然、まっさらな状態でなされるわけではないということをこの図では示しています。
「ユーザーが本当に使いたいと感じる製品の実現」を目指す際には、まずこうした複雑な環境で生きるユーザーのことをよく知らなくては、ユーザーが使って本当に満足する製品を実現することはできないはずです。
当然、ペルソナで描かれるストーリーには、こうした要素が盛り込まれることになります。

子供のためのWebサイト

例えば、子供のためのWebサイトをつくるとしましょう。さて、僕らはそれをすぐに作れるでしょうか?

大人向けなら、それほどユーザーのことを理解しなくても、まぁ、そこそこといったレベルのものであれば、なんとか作れるでしょう(でも、そのレベルでできたものは、「ユーザーが本当に使いたいと感じる」ものではないはずですが)。

しかし、子供向けとなるとお手上げです。年齢が下がれば下がるほど、何をどうデザインすればよいかわからなくなる。一番見せたいものを目立たせようにも、子供がどういうものに関心をもつかがわからなければ、一番見せたいものを目立たせるということすらできません。
いくら子供の気持ちになってみるといっても、ある程度、大人になってしまった僕たちには本当の子供の視点を手に入れることはできません。

そうなると、まず具体的なデザインをはじめる前に、子供の視点を手に入れることからはじめなくてはなりません。ターゲットとなる子供の具体的なペルソナが必要となるでしょう。

ペルソナ・ライフサイクル

この本では、ペルソナが作られ、それがデザインチームのなかで利用されるプロセスを、人間の成長モデルにたとえてペルソナ・ライフサイクルとして提示しています。

ペルソナ・ライフサイクルは次の5つのフェーズからなります。

  • フェーズ1:「準備と計画」期
  • フェーズ2:「受胎と妊娠」期
  • フェーズ3:「誕生と成長」期
  • フェーズ4:「成人」期
  • フェーズ5:「功績、再使用、引退」期

最初の「準備と計画」期では、ペルソナ・プロジェクトの体制を整え、計画を立てるとともに、ペルソナ作成を進める上で必要なユーザーデータの収集を行います。データの収集は、直接ターゲットユーザーをフィールドワークで観察したり、ユーザーインタビューやアンケートを行ったりする方法のほか、社内外の既存のユーザーデータを使用します。

フェーズ2の「受胎と妊娠」期が、集めた膨大なデータを分析し、実際のペルソナを作成するフェーズです。ペルソナは最初の定義にもあったとおり、「実在する人々についての明確で具体的なデータをもとに作り上げられた架空の人物」です。ペルソナをつくる過程では、明確な人物像をつくりあげるにはデータが足りないと感じられる点もでてくると著者はいいます。このとき、適当にでっちあげるのではなく、再度、足りないデータを調査によって補うことができる点にペルソナをつくる利点の1つはあります。なぜなら「足りない」ということは、ターゲットとするユーザーのことがわかっていないということにほかなりませんから。

フェーズ3の「誕生と成長」期からフェーズ4:「成人」期は、ペルソナがペルソナ・プロジェクトのコアチームの手を離れ、設計チームや開発チームの中で仕事をしはじめる段階です。この段階において、ペルソナは設計チームのデザインの方向性に関する疑問や開発チームの仕様決定の疑問に答えていくことになります。この仕様は君に必要だろうか? こっちのデザイン案とあっちのデザイン案ではどちらが気味好みか? と。
もちろん、ペルソナは、ユーザーテストの際の被験者選びや、製品のマーケティング・コミュニケーション・シナリオを作成する際にも役立ちます。
UCDプロセスにおいて、困ったらペルソナに聞くということが可能になるのは、ペルソナ戦略の差最大のメリットだと言えるでしょう。

こうした働きをするペルソナが実際にどれだけ成果を生み出したのかを評価するのが最後のフェーズ5「功績、再使用、引退」期になります。

UCDの文化を広める

子供のためのWebサイトをつくる際に、こうした手順でUCDプロセスを進めるのと、そうでないのとでは出来上がったものに大きな差が出てくるような気がします。

もちろん、ペルソナが有効なのは、子供のWebサイトをつくる場合だけではありません。
「ユーザーが本当に使いたいと感じる」製品やサービス、Webサイト、そして、ブランドを実現しようと思えば、このペルソナを含めたUCDのプロセスは非常に効果があると思えます。

しかし、残念ながら、こうしたUCDのプロセスはまだまだ一般的に受け入れられていない状況です。特に日本ではそうなのだと思います。
この本にも、日本でのペルソナを使った事例が2件紹介されています。ただ、残念なのはそれが製品開発の事例ではなく、すでにある製品やサービスのマーケティング・コミュニケーションを考えるための事例だという点です。
昔から「ものづくり大国」と呼ばれる国であるにも関わらず、そのデザイン過程でのペルソナ利用事例が紹介されないのは、悲しい感じがします。

普段、仕事をしていても、その点を本当に切なく感じることがよくあります。
どうしてもっとユーザーを理解し、そこから自分たちがつくろうとしているものの設計や評価をしようという発想にならないのでしょうと感じます。
その時間を割かずに、上司のご機嫌取りにばっかり時間を費やしていたり、自分のエゴだけでデザインの評価を行ったり。それで売れる商品ができるわけないし、愛されるブランドなんてできるわけありません。
そんな簡単なことにさえ気づかない人が結構多い。それでいてそういう人に限ってマーケティングだとか、ブランディングだとか言う。やれやれです。社内のあれこれだけを気にしていてはどちらも達成できません。マーケティングでもブランディングでもその成果を左右するのはあくまで社外にいる顧客であり、ユーザーなのですから

そんな状況でもなんとかUCDの文化を広めていければとこの本を読んであらためて感じました。



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