ペルソナ:誰のために何をデザインするかを明示する手法

いま、ジョン・S・プルーイットの『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』を読んでいます。

もちろん、今までもペルソナという言葉は知っていましたし、たまにそれっぽいものを使ったりもしましたが、どうやら根本的に間違えて使っていたようです(いや、間違え自体はこの本を読む前にわかっていたので、最近は使わなくなってましたが)。
きっと他にもペルソナというものを間違って使ってる人は多いのではないでしょうか?

これはペルソナではない

では、具体的にどういうものがペルソナとは呼べないのでしょう。

僕が本を読んで理解したことをいくつかピックアップしてみます。

  • 事実データに基づかず架空のユーザーを仕立て上げたものはペルソナではない。
    ⇒ペルソナはあくまで事実に基づく仮想ユーザーです。
  • 調査データを基にしていてもたった一人の作業者のみによって仮想されたユーザーはペルソナとは言いがたい。
    ⇒いくら調査データを基にしていても、ペルソナをつくる過程がたった一人で行われたら、そこには個人の仮説が入り込みやすくなります。
  • 設計、開発における要件の洗い出しに役立たないペルソナは、ペルソナとは言いがたい。
    ⇒ペルソナは、実際に設計し開発する製品なり、サービスのターゲットユーザーを設計および開発チームで共有できるようにし、設計&開発過程での要件の定義をサポートするものです。その機能を果たさないならそれはペルソナとは言えない。

まだ、他にもあるかもしれませんが、主要なところはこの3つではないかと現時点では考えています。

UCD(User Centered Design)を行っていく上で、ペルソナはきちんと理解して使えば、非常に強力なツールになりそうだと感じます。

なぜペルソナをつくるのか

では、ペルソナをつくるメリットはなんでしょう?

上にも書きましたが、最大のメリットは、ペルソナを作成することで、設計&開発過程において設計チームおよび開発チームが、自分たちが設計、開発しようとするものを実際に使うユーザーがどういうゴール、役割をもち、どんな環境でどんな行動をするのか、あるいは、その人は典型的にどんな活動をしているのかを具体的にイメージできるようにすることで、設計や開発における要件の定義をサポートできるようにする点です。

ペルソナの概念はアラン・クーパーによって生み出されたもので、1999年に発行された『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』によって広められた。ペルソナは、ユーザーの特徴を表すイメージであり、記憶に残りやすく、しかもすぐに使え、設計/開発のターゲットとして役に立つものだ。(中略)ペルソナは、プロダクト・チームそして組織全体を顧客志向にする。
ジョン・S・プルーイット『ペルソナ戦略』

顧客理解やユーザー理解が重要なことは、誰もが程度の差はあれ、知っていることだと思います。

しかし、僕自身もそうですが、「ユーザー」とか「顧客」という言い方をしているあいだは、ほとんど実際のユーザーや顧客のイメージができていないといってよいと思います。

デザイン・プロセス、あるいは、マーケティングのプロセスにおいて、ペルソナを作成するプロセスを組み込むことは、その過程そのものが顧客やユーザーについて具体的に考える機会を与えてくれる意味でもメリットがあると思います。

顧客やユーザーの姿を深くイメージする

今朝紹介したうちの会社の矢野さんがMarkeZineの記事(「MarkeZineを検証! ユーザビリティ改善大作戦」)を読んでいただいてもわかるとおり、UCDのプロセスにおいては、ユーザーの利用状況を把握し、ユーザーの要求事項を明示することが必要とされます。

しかし、ペルソナを用いないユーザーの利用状況の明示の仕方は、すこしあいまいで、具体的なユーザー像がイメージしにくく、かつ設計、開発に関わるチームメンバー全員で共有するのは、むずかしいものだったりします。

実際にはユーザーインタビューを実施して利用状況を把握しますが、ここでは、『MarkeZine』の利用状況に関して下記のような仮説を立ててみます。

フィールドワークでの観察やユーザーインタビューをはじめ、直接ユーザー自身から情報を得た一次データや、営業マンやコールセンターのスタッフから得られた顧客に関する情報などの二次データなどを統合、分析、カテゴライズなどの作業を経て、ユーザーの利用状況を明示するわけですが、その際の表現手段が、Excelにまとめられたユースケースシナリオのようなものであるか、写真や履歴書風にまとめられたプロフィール、そして、行動をイメージしやすいストーリーを交えて表現されたペルソナでは、ターゲットユーザーを具体的にイメージできるレベルが違ってきます。

それは、すでにできたペルソナを見る側の人だけでなく、ペルソナづくりにたずさわるメンバー自身にとってもそうです。

単純にデータを親和図法などを用いて分析、カテゴライズした上で、それを箇条書きのようなものにまとめるだけでは、ターゲットユーザー像が生き生きと立ち上がってくることはありません。

しかし、ペルソナのレベルまでユーザー像を生き生きと描こうとすれば、それこそ細部にわたってまでユーザーのイメージを膨らませる必要がでてきます。それにはデータを見ながら頭のなかでユーザー像をイメージすることも必要ですし、手元のデータでは細部が描けなければもっと調査してデータを集めようという意欲につながります。

ペルソナをつくることで戦略策定の作業の半分は達成される

自分たちがつくろうとしているもの、自分たちが社会に対して価値提供しようとしているものの戦略を決める上では、ペルソナをつくるプロセスはその戦略策定の作業の半分が達成されたと考えてよいと思います。ペルソナは顧客を理解しようという意欲そのものを駆り立ててくれるものでもあるのです。

例えば、以前に紹介したJesse James Garrettの5 Planes Modelでは、最初のSTRATEGY Planeがユーザーニーズと(組織側の)目的の2つに分かれています。
ペルソナを作成するということは、このユーザーニーズの側を把握し、明示することになります。

もちろん、たくさんの調査データから得られたユーザーカテゴリーからどれを選んでペルソナをつくるのか、複数作成したペルソナのうち、どのペルソナを主要ペルソナとし、他を副ペルソナとするのかを選択する際には、組織側の目的、目標と照らし合わせた判断が必要となります。

この両軸を整合性をとって結びつけ、ユーザーと組織の要求事項の明示をSCOPE Planeで行えるよう準備するのがSTRATEGY Planeのミッションになるわけですので、ペルソナを作成するというタスクは戦略策定のプロセスの根幹をなすといってもよいでしょう。

僕自身、いままであまりペルソナを理解していなかったせいで、この重要なツールを使わずにいましたが、これからはこのペルソナというツールを大いに利用していくようにしたいと思います。

   

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