潜在的なニーズを発見する方法論はテクノロジー・ドリブンな方法論だけではない

これはUCD(User Centered Design)の話にもすこし関連すると思いますが、マーケティングでいうところのニーズという言葉とウォンツという言葉は使い分けたほうがいいと思います。

ニーズには顕在的なものと潜在的なものがある

「必要性」と「欲求」という意味で使い分けることももちろん大事なのですが、もう1つの理由としては、ウォンツが「欲しい」という欲求であると定義されるかぎりにおいて必ず顕在的であるのに対して、ニーズには顕在的な必要性だけでなく、その人自身も気づかない潜在的なニーズもあるという意味において、両者を使い分けておくことが必要だろうと思っています。

この違いはマーケターなり商品やサービスの開発者なりが、顧客理解を行う際に重要な違いとして現れてきます。
つまり、顕在的なニーズやウォンツであれば、ターゲットとなる顧客やユーザーに直接聞くことが可能です。それに対して、潜在的なニーズはそもそも当のターゲット顧客やユーザーに聞いてもわからないという点で、マーケターや開発者のアプローチに変更を促します。

ニーズ・ドリブンとシーズ・ドリブン

例えば、ニーズ・ドリブンとシーズ・ドリブンという話があります。
古いエントリーで恐縮ですが「分裂勘違い君劇場」さんから引用させていただきます。

商品やサービスが成功するパターンって、ニーズドリブンなパターンと、シーズドリブンなパターンがある。人々のニーズを調査・分析し、的確にとらえてヒット商品を生み出すのが、ニーズドリブン。ところが、いくら人々のニーズを調べたって、生み出せない商品というのがある。たとえば、テレビ。テレビが登場する前は、何万人にアンケート調査しようと、「テレビが欲しい」という人なんて、いない。見たこともないものを欲しがることなんてできない。つまり、テレビというシーズが、マーケット自体を創造したんです。

この「人々のニーズを調べる」方法が、人々に聞くという方法論であれば、ここで言われるテレビのようなイノベーション的商品を生み出すことはできません。

「分裂勘違い君劇場」さんは「シーズというのは、すべからく、人々の「潜在ニーズ」を掘り起こしている。ある技術を知覚したとき、その技術が掘り起こす潜在ニーズの大きさを感じ取るだけのマーケティングセンスがなければ、その技術がシーズになりうるかどうかは判別できない」とも書いています。

潜在的なニーズを発見する方法論はテクノロジー・ドリブンな方法論だけではない

上記で引用したのエントリーは、シーズ・ドリブンがテクノロジー・ドリブンに限定されているようにも読めます。

技術のわからないマーケターは、そもそも、技術がわからないから、そこに、シーズとなる技術が落ちていても、シーズ以前に、その技術がそもそもどのようなものなのか、認識することができない。

潜在的なニーズを発掘する方法がテクノロジー・ドリブンな方法論だけであるなら、まさにこの引用のとおりです。しかし、実際には、潜在的なニーズを探る方法は、テクノロジー・ドリブンな方法論だけではありません。

最近、このブログで何度も紹介している「デザイン思考」の方法論やIDEOの方法論を参考にすると、シーズ・ドリブンは必ずしもテクノロジーによって潜在的ニーズを掘り起こすことを意味せず、エスノメソドロジー的視点による観察~プロトタイピング~ユーザーテストの一連のデザイン思考のアプローチでも可能だということがわかります。

もう1つのアプローチは技術ではなく人を見ること

違う言い方をすれば、人々に喜ばれるモノづくりは、決して科学技術的なアプローチによってのみ可能になるわけではなく、既存の商品やサービスのデザインが人々の生活にもたらしてしまっているバグの除去をデザインそのものの変更によるアプローチで行うことからも可能だということです。

なので、マーケターがわからなくて問題なのは、技術そのもの以上に、自分たちが提供している商品やサービスがどんなに人々の生活に不具合を生じさせているかを観察から発見する方法論だと思います。
新たなイノベーションを生み出すために乗り越えるべき山を乗り越える方法は、何も新しい技術の発見だけではなく、商品とそれを使うユーザーのあいだにどんな不具合が生じていて、それがどんなデザイン上の問題によるものかを発見する方法もあるということです

どうもこのあたりがきちんと認識されていなくて、やたらと技術志向一辺倒になり、技術ばかりを見て、実際にそれを使ってもらいたい人や社会のことを見ようとしないというおかしなマーケティングがはびこってしまう。マーケティングはむしろ人を相手にするものであって、もちろん、技術や数字のことも大事ですが、肝心の人を忘れては成り立たないものだと僕は思います。

マーケターに求められるアプローチ

その意味で、マーケターという職能である人に求められるのは、決して得意であるとは限らない技術的アプローチをどうにかするよりも、むしろ、自分たちが本来身につけておくべき「顧客理解」の方法論をより研ぎ澄ませておくことでしょう。

そうしたアプローチで潜在的なニーズを発見できずに、顕在化したウォンツやニーズばかりを顧客から聞かされて、その声に右往左往してしまってるから、革新をもたらす確固としたアプローチを身につけた開発者に先を越されてしまうのです。
顧客のことを考えずに、上司の目ばかり気にしてるから、そうなるんじゃないでしょうか?

そんなマーケターなら確かにいらないですよね。
そうならないよう、自分も精進します。



  

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