すでにこの本については「クリエイティビティ(創造性)の必要条件」や「セレンディピティと創造性:正しいやり方など存在しない」、「経営戦略における創造性と生産性」などのエントリーでところどころ引用しながら紹介してきました。
ようやく全部読み終えたところで、先のエントリーでは書き足りなかった本書の魅力を、最後にもう一度、書評としてまとめておきます。
イノベーションの技法
この本は副題にもあるとおり「世界最高のデザイン・ファーム」といわれるIDEOにおけるイノベーションの技法を、同社のゼネラル・マネージャーである著者が具体的な事例を数多く交えながら紹介してくれる一冊です。その技法はというと、著者のこの一言に集約されます。
その場所からでて、市場、顧客、製品を観察しよう。狂ったようにブレインストーミングをして、山のようにプロトタイプをつくろう。トム・ケリー『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』
創造性を具体的なイノベーションにつなげていくには、いかに日々の仕事のなかで偶発的な発見にいたるセレンディピティを多発させることができるかという組織の能力に関わっています。
IDEOで日々行われているという「観察」「ブレインストーミング」「プロトタイプづくり」は組織においてセレンディピティを多発させ、イノベーションを可能にするための核となる3つの手法だといえます。
それに、イノベーションの温室となるおもちゃ箱のような仕事環境、たがいに信頼しあったホットチーム、できるだけルールをつくらないなどといった他の要素が加わることで、創造性に満ちた組織ができあがる。
そんな夢みたいな組織が本当にあるのだということを、著者はこの一冊で垣間見せてくれています。
差別化よりもイノベーション
マーケティングやブランディングにおいては差別化が重要視されます。しかし、この本を読んでいると、そんな差別化なんてものが馬鹿らしく思えてきます。
差別化よりもイノベーションなんじゃないの? って。
製品やサービスを開発しながら広告を書いてみよう。するとどうしてもそのユニークな販売の企画案を探さざるをえなくなる。トム・ケリー『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』
IDEOは時に実際の案件から離れたコンセプト・プロジェクトというものを行うことで、組織の創造性を活気づけているそうです。
そのコンセプト・プロジェクトでは、時には、ソープボックス・ダービーと呼ばれるエンジンなしの手作りレーシングカーのレースに出るクルマをつくったり、未来の製品を考え、その予告編(映画の予告編のようなもの)をつくったりするそうです。
予告編をつくったら、実際につくるものは妥協できなくなる。
実際にデザインしたものが予告編以下のものだったら最初からやり直さなくてはならなくなります。
いまのマーケティングでは、広告は製品開発が終わってからはじめられることが多いのではないでしょうか?
でも、もしその順序が逆で、広告が先につくられ、かつ、それが市場に流されたとしたらどうでしょう?
デザイナーは何がなんでも広告を超える、もしくはすくなくても広告どおりの商品を開発しなくてと躍起になるのではないかと思います。
イノベーションに余裕は必要ない
もちろん、IDEOのそうした活動すべてに「観察」「ブレインストーミング」「プロトタイプづくり」というイノベーションの技法はつかわれます。とにかく人々の生活、行動を観察して、何か新しいイノベーションにつながるヒント(多くの場合、人々が不満を感じたり、行動にぎこちなさを生じさせている要因)はないかを探すことから、イノベーションははじまります。
そして、何度も何度もブレインストーミングをし、いくつもいくつもプロトタイプをつくって、ダメだしをする。
そんなことがIDEOでは日々繰り返されているそうです。
お決まりのデッドラインに縛られたスケジュールのなかで、高速でイノベーションの技法をまわしている。
そこがすごいなと思う。
でも、実はそれって到底真似できないって思えるほど、並外れたすごいことではないんだろうなと感じたりもします。
すごいのはもちろんすごいんだけど、がんばれば僕らでもどうにもなるんじゃないかと思えたりもします。
よく僕もいつブログを書いてるの?とか、いつ本を読んでるの?とか言われますけど、別に余裕があるからそういうことができているわけじゃない。
むしろ、余裕があったらこんな風にブログを書いたり本を読んだりできないと思う。
時間がないからできないんじゃなくて、時間がないからできるんだと思う。
IDEOはそれをとことんまで突き詰めているんだという気がします。
時間に余裕があったり、スペースに余裕があったら、その隙間は埋められない。
狭いスペースでぎゅうぎゅうだから、活気が生まれる。やってやろうっていう気になる。それが組織全体でしくみになってる。
IDEOがすごいとしたら、そこだと思う。個人レベルではなくてそれが組織化してるのがすごい。
そう考えると、IDEOが厳しいデッドラインがあるスケジュールのなかで、最高のイノベーションを次々に生み出せるのも、むしろ、自然な感じがするんですよね。
イノベーションの真のスプリット
ただ、でも、それには「観察」「ブレインストーミング」「プロトタイプづくり」というイノベーションの技法ではまたちょっと足りない。トム・ケリーは、忘れてはならないイノベーションの真のスプリットとして最後にこう記しています。
そう、それは真剣に楽しむことである。トム・ケリー『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』
そう、僕も楽しいからブログを続けらるし、本も読める。
IDEOみたいに仕事を楽しまなくてはって思いました。
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