イノベーションと創造性
僕自身、そう勘違いしていましたが、クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』の影響もあってか、どうもイノベーションというと技術主導で行われるものという印象があります。もちろん、技術が新しい可能性を開くきっかけとなることはありますが、新しい可能性を開くのに何も技術は必須ではありません。
ここで新しい可能性といっているのは、社会のシステム、人々の暮らしや行動に変化をもたらす可能性です。
従来、思いもよらなかった経験、喜び、便利さを提供してくれるイノベーションは、何も新しい技術からだけ生まれるのではなく、人々の暮らしや社会の観察から得られる驚き、発見をもとにした創造性から生まれることがあるのを、奥出直人さんの『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』やトム・ケリーの『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』などの本は教えてくれています。
クリエイティビティ(創造性)の必要条件
社会や人々の暮らしに新しい価値をもたらすイノベーションの技法には「観察」「プロトタイプ」「コラボレーション」が重視される点は先にも書きました。このうち、クリエイティビティ(創造性)を発揮する上での欠かせない必要条件は、観察によってデザイナー自らが驚きを感じることだと僕は思います。
同じことを奥出さんの前著から引用すれば「この作業で大切なのはデータではなく、観察者自身が変わることなのだ」となります。
僕が以前に「オフィスの外に出ろ!馬鹿になって顧客の懐に飛び込め!」と書いたのも同じ意味です。
自分が驚くような新しい発見や観察者自身が変わることがなければ創造性など生まれません。
人々の生活を普段とは違う視点で観察することで、なんでこんなことしてるんだ? どうしてこんな単純なことをするのにこんなに面倒な手間を踏んでいるんだ?という驚きに出会うでしょう。
観察者自身のなかで当たり前だったことが突如として当たり前ではなくなる瞬間。それが創造性の原点なのだと思います。
その意味でオフィスのなかに閉じこもって、普段と変わらぬ世界を見ていても、驚きには出会えません。当たり前のことを当たり前にしかできない日常の世界に創造性の種となる驚きはありません。
もちろん、驚きは新しい技術に出会ったときにも生まれます。
しかし、そんな新しい技術を待たずとも、一歩外の世界に飛び込み、ごくごく当たり前の日常を、明確な哲学とビジョンをもって見つめれば、見慣れた世界が突如として非日常的な驚きに満ちた世界に見えてくるでしょう。
そこにこそ、創造性のきっかけ、イノベーションの原点があるはずです。
企業の中にプロフィットセンターはない
どうしたら儲かるのだろう? どうしたら売上を増やす画期的な商品がつくれるのだろう? そんな発想の仕方では、決して期待する成果を生み出すことはできないでしょう。オフィスにぬくぬくと時間を過ごしながら、日々の業務をこなしているだけでは、人々の生活や社会に新しい価値を生み出すような商品やサービスが生まれてくるはずもないでしょう。
その意味で「企業の中にプロフィットセンターはない」のです。
じゃあ、だからといって、顧客に「新しい価値の創造」につながるヒントを求めて、アンケートやグループインタビューなどをしても無駄です。
それは所詮、現在の商品やサービスの世界にとどまったままで、企業の中から一歩も外に出たことになりません。
そうではなく、自らが自分の固定観念から抜け出すために、本当に外に出て観察することで驚きを見つけなくてはいけないのだと思います。
売れるのか、儲かるのかは、「創造のプロセス」の下流に位置するもので、そこからはじめてもイノベーションにはつながりません。
そして、社会を変える、人々の生活を変えるインパクトをもつイノベーションを創造する以外に、大きく売れる、大きく儲かる事業を生み出せないというのも確かなことのように思えます。
いかにして組織で創造性を育むことができるかは、今後の企業経営において非常に大きな課題なのだろうと実感しています。
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