デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方/奥出直人

すでに『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』については、「デザイン戦略とはデザインプロセスを経営戦略として立案すること」や「デザインのプロはいてもWebデザインのプロというのは・・・(続・僕たちはいま何をデザインしているのか?)」で紹介しました。

この本ではデザイン思考がビジネスにおけるイノベーションを表すものとして扱われている点はすでに書いています。ですので、このエントリーでは、前の2つのエントリーでは扱わなかった「デザイン思考」を実践するためのプロセスとプラクティスを中心に紹介したいと思います。

「デザイン思考」のためのプロセス

奥出さんは、「デザイン思考」のための「創造のプロセス」として、こんなプロセスを紹介しています。



奥出さん自身が書いているように、この創造のプロセス自体はさほど目新しいものではありません。シックスシグマのDMAIC、ISO13407:人間中心設計プロセスなどにも応用される、いわゆるPDCAのサイクルが元になっています。

とはいえ、このプロセスが本当に価値の創造を行うデザインプロセスとして優れているなと思えるのが、プロセスの上流と下流で、きちんとモノを生み出すイノベーションのプロセスと、それをビジネス化するイノベーションのプロセスが1つの流れになっているという点です。

このプロセスは社会的背景や哲学的背景を踏まえた上でのモノづくりへの考え方、つくり手の問題意識を表す哲学を考えるところから始めて、具体的に何をつくりたいかビジョンを決め、それをもってフィールドワークに行き、どのようなものをつくるかコンセプトモデルをつくり、機能やインタラクションを検討しながら実際の設計デザインをおこない、実証する。次にビジネスモデルを構築して、実際の運営方法を決定する。
奥出直人『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』

この上流工程などは、まさにISO13407の「人間中心設計の必要性の特定」~「利用の状況の把握と明示」~「ユーザーと組織の要求事項の明示」~「設計による解決案の作成」にしっかり対応すると同時に、より新たな価値創造=イノベーションに向けたデザインプロセスとしてしっくりきますし、具体的な形に落とし込まれていると感じました。

「デザイン思考」のためのプラクティス

とはいえ、プロセスだけでは創造性が発揮されることはありません。プロセスを実行するためには「ある種の身体能力=プラクティス」が必要であると奥出さんはいいます。

そのプラクティスとして奥出さんは次の3つを挙げます。

  • 手法1 経験の拡大:エスノメソドロジー(現象学的社会学)によるフィールドワーク
  • 手法2 プロトタイプ思考:つくることで考える
  • 手法3 コラボレーション:チームで考えながら戦略を練る

僕がこの中で最も興味をひかれたのが「経験の拡大」と呼ばれる手法でした。

この「経験の拡大」の手法はさらに3つの手法に分かれます。

  • コンテクスチュアル・インクワイアリー(いわゆる師匠/弟子モデルを使ったフィールドワークの実行)
  • コンテキストデザインのための5つのワークモデル(フィールドワークの結果のモデリング手法)
  • 魔法のシナリオ(ペルソナ+シナリオ法。コンセプト/モデルへ移行するための最も初期段階の設計)

このあたりはユーザビリティ・エンジニアリングの手法を学んだことのある方ならお馴染みのデザイン手法でもありますが、それを視点をすこし変えるだけで「創造のプロセス」にも使えるわけです。

フィールドワークに関しては、僕も「ユーザーの生活や思考を知ることからデザインをはじめる」で「オフィスの外に出ろ!馬鹿になって顧客の懐に飛び込め!」と書きましたが、奥出さんも「この作業で大切なのはデータではなく、観察者自身が変わることなのだ」と書いています。外の世界でデザイナーが直接利用者の現実に触れることで感じた驚きこそがイノベーションの源泉になるのです。

あと、「プロトタイプ思考」における「つくることで考える=build to think」というやり方も「メモをとる癖」のある僕にはすごく実感できるデザイン手法ですね。

とにかく、いま求められるのは、まず創造をしようという意志と、それを実現するためのプロセスとプラクティスを個人はもちろん組織的に実現することではないでしょうか。

それ以外に日本の企業の競争力を高める手段はないのではないかと、この本を読んで感じました。



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