その後、全体の3分の2くらいは読み終わりましたが、これからの時代において、デザインとは何なのか? 何が求められるのか?ということを考える上では非常に役に立つ本だということをあらためて感じています。
デザインのプロはいる。でも、Webデザインのプロというのはありなのか?
この本を読んでいて、一番感じるのは、これからのデザインというのは単なるものづくりではないのだということです。プロダクトデザインでもなければ、当然、ここのプロダクトジャンル(例えば、テレビとかPCとか携帯電話とか)のデザインでもない。ようするにテレビのデザインのプロなどというものは存在しなくていいんだと思います。
そうではなく、むしろデザイン全般のプロ、創造性を発揮するプロフェッショナルなスキルが要求されているんだろうなと感じます。
ようするに、これからのデザイナーに求められるのは、利用者の経験をデザインすること、あるいは、ビジネスに成果がでる仕組みや社会の新しいシステムをデザインするスキルや視点なんだろうなと思います。
そういう意味では、Webデザインのプロみたいなものがあたかも存在するかのように一般的には思われてますが、そんな職業は本来存在しないのではないか思います。
テレビのデザイナーなんてものが存在するのがおかしいように
(実際にはいるようですが)、Webをデザインするという発想は、まったくユーザー視点に立っていないのだと思います。
ユーザーはWebを使うわけではなく、何か自分の用事が合って、その一部として情報検索をするのだし、ECで買い物をするわけです。それ自体が目的なのではなくて、それらの作業はあくまでも目的達成のための手段の一部です。
そういう視点で捉えた上で、自分たちが何をデザインするのかを考える必要があるのだと思います。
iPodのデザイナーは何をデザインしたのか?
例えば、GoogleをデザインすることやAmazonをデザインすることは、単にWebをデザインするという発想ではないでしょう。GoogleやAmazonはそれこそWeb2.0と呼ばれる社会自体をデザインしたといってもよいのではないかと思います。
それと同じようなことが、この本では、iPod(+iTunes+ITMS)を例に説明されます。
一見、小さな白い箱をきれいにデザインしただけに見えるiPodだが、そのプロダクトひとつに、壮大なビジョンがこめられているのだ。人々が未だかつて経験したことのない経験を提供する社会的システムを構築したのである。奥出直人『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』
製品をデザインするという発想、Webをデザインするという発想では、人々の経験を変えること、人々の生活を変えること、社会の仕組みや動きを変えることまではできません。そして、それができなければ個々人の生活に変化はない、豊かにはなりません。
これからのデザイナーあるいはデザイン思考を標榜する企業に求められるのは、そういう視点でデザインを捉えることなんだろうなと思いました。
デザインに対する姿勢、取り組み方を変える
「ユーザーの生活や思考を知ることからデザインをはじめる」でも、僕自身「Webで考えるな、Webのことは一旦忘れろ」と書きました。その思いはこの本を読んでさらに強くなりました。Webを作るのではない。Webという技術を使って、ユーザーの経験、企業のサービスを高めることがデザインの目的なんだと思います。
その意味では、この本でもフィールドワークが重視され、エスノメソドロジーや師匠/弟子という手法が紹介されていますが、「オフィスの外に出ろ!馬鹿になって顧客の懐に飛び込め!」という姿勢が、いまのデザイナーには必要になってきているんだと思います。
また、デザイナーという職能そのものももうすこし広い視点で捉えることが必要だと感じます。
その広い意味では僕自身、間違いなくデザイナーです。
上流工程を担当するデザイナーとして、この本で扱われるデザインの上流工程(哲学⇒ビジョン⇒技術の棚卸し⇒フィールドワーク⇒コンセプト⇒モデル⇒デザイン)に深く関わるのが仕事なだと思いました。
いまのビジネスをデザイン思考という視点で捉えなおすと随分、仕事への取り組み方や仕事のプロセスが変える必要があるなと思っています。
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