ユーザーの生活や思考を知ることからデザインをはじめる

最近、Webデザインを考える際にも、マーケティングを考える際にも、ユーザーや顧客の視点というものをあらためて強く意識しなくては、と思っています。

ユーザー中心設計、顧客志向とはいうけれど

ユーザビリティにおいてはユーザー中心デザインということが言われ、マーケティングにおいてはもっと古くから顧客志向、マーケットインなどが重要だと言われ続けていますが、実際にそれを実践できている企業やデザイナーはごく少数に限られるのではないでしょうか?

ありがちな間違いは、ユーザー中心設計、顧客志向といいつつ、既にあるWebサイトや商品ラインナップからユーザーあるいは顧客を見てしまうことです。

ユーザーはこのWebサイトをどう使うのか?
なんて説明すれば顧客はこの商品がほしくなるのか?

一見、ユーザーや顧客のことを考えていそうに思えるこの発想は、実はすでにサイトオーナーや設計者、あるいは、企業のマーケター側からの勝手な発想でしかありません。
そうした発想はあらかじめ暗黙のうちにユーザーがWebサイトを使ってくれること、顧客が商品を買ってくれることを前提にしています。その上で、単にその効率、確率を高めようとしているだけの話です。

Webサイトのアクセスログ解析やユーザーテストを行ってわかるのは、既存のWebをユーザーが使う際の問題点であって、本当の意味でユーザーが何を求め、どういうものを使いたいと思っているかはわかりません。

もちろん、そのことが無意味だというわけではありませんが、ただ、それはユーザー中心設計でも、顧客志向でもないということです。

Webで考えるな、Webのことは一旦忘れろ

では、なぜ、すでに既にあるWebサイトや商品ラインナップから発想してはいけないのか?

そこからはじめると、ユーザーや顧客の実際の生活や思考などを見落としてしまうからです。
このサイトをどう使うか? どうしたら商品を買ってくれるかという発想には、サイトを使わないユーザーの実際の生活やその商品を買わない顧客の生活が完全に抜け落ちてしまいます。



どうしたらこのニュースサイトの記事をもっと見てくれるようになるか?と問う前に、ユーザーは普段、どんな時にニュースを必要としているのか、どんな風にニュースに触れ、それによってユーザーは自分の生活にどのような変化が起こることを期待しているのか?と問う必要があります。

最近よく同僚にWebで考えるな、Webのことは一旦忘れろと言ったりします。
本当にそうしなければ、ユーザーがいま実際に行っている生活やそこに含まれるニーズや行動を捉えることはできないからです。
Webのことがすこしでも頭にあると、どうしてもWebの側からの発想になってしまいます。それが制約条件となって、ユーザーの生活や思考の側から発想するということができなくなってしまうのです。

同じことがマーケティングにも言え、特定の商品や商品カテゴリー、広告やPRなどの手法のほうから発想してしまうと、本当の顧客像が見えなくなります。顧客が何を欲しているかを理解しないまま、的外れな商品開発やマーケティング・コミュニケーションに無駄な投資を行うだけになってしまうでしょう。

オフィスの外に出ろ!馬鹿になって顧客の懐に飛び込め!

とにかく、Webデザインを行うにしても、マーケティング戦略のトータル・デザインを行うにしても、まずはユーザーや顧客の生活や思考そのものを把握することに注力することです。



むしろ、その時点では最終的なアウトプットとしてのWebサイトや商品、マーケティング・コミュニケーションのことなどは一切頭の中から排除するという強い意思をもったほうがいい
意識的にそうでもしないかぎり、Webデザインのプロやマーケターはついつい実際のWebデザインやマーケティング施策に落とし込むような発想をしてしまいがちです。それは単に自分がラクなほうに思考の方向を向けてしまっているだけで、それこそ、ユーザー中心でも顧客志向でもありません。

それほど、ユーザー中心や顧客志向の発想というのは、本来的にはデザインする側にとっては不自然で、かつ、実践することがむずかしい発想方法なのです。

実践のためには、普段の仕事であるアウトプットのデザインを頭から追い払うだけでなく、普段の仕事の場から離れて実際のユーザーや顧客のいる外の世界に足を踏み出してみることも必要でしょう。自分自身を普段の仕事の場から追い払うのです。

臆病な自分を律せられないデザイナーやマーケターに明日はない

自分のオフィスでぬくぬくしながら「ユーザーは何が欲しいんだろ?」なんて考えてるだけでは、必要なインプットの精度なんて上がるわけがないんです。自分の味方ばかりがいる環境に守られて、過保護にデザインのことを考えていたって、あなたが思いもしなかった要求をつきつめてくるユーザーや顧客のリアルな声には絶対に届きはしないんです

それには、自ら自分の普段の仕事とは異なるオルタナティブな外部の世界に飛び込む勇気、そして、普段の自分の知識やプライドをかなぐり捨てる覚悟が必要です。積極的にオフィスの外に出て、頭をからっぽにして馬鹿になり顧客の懐に飛び込んでいくスキルが必要なのです。臆病な自分を律せられないデザイナーやマーケターに明日はありません。

ユーザー理解、顧客理解に王道はない

じゃあ、どうすれば、ユーザーや顧客の理解を深められるの?という当然の疑問がわくと思いますが、ユーザー理解や顧客理解に王道はありません。

もちろん、ユーザー中心デザインのアプローチにおいては「師匠と弟子」のような手法を使ったユーザーインタビューを実施したりしますし、マーケティングにおいても本当に様々でそれぞれ長所・短所をもった顧客調査の手法が確立しています。

しかし、そうした用意されたメニューを無難にこなしてさえいれば、ユーザーが理解できた、顧客が理解できたという風になるかというとそんなことは金輪際ありません。

自分がユーザーや顧客である場合を考えてみてください。そんなたかだか数時間くらいの時間で行われる調査で、相手が自分を理解するなんてことが考えられますか?
極論すれば、どんなにがんばったって完璧な理解など不可能なんです。

Webユーザビリティやマーケティングに必要にされる理解とは?

そういう意味で、ユーザー理解や顧客理解に王道はない。
だからといって、ユーザー理解や顧客理解は行えない、そんなことはやろうとするのが間違っているのかといえば、そうではありません。

昨日の「言葉の意味とは?:オルタナティブを考える力」というエントリーで書いたこととも絡む話ですが、理解とはそういうものではないし、逆にユーザーの側、顧客の側に理解してもらうというのもそういう話ではありません。

実際に自分が信頼のおける友人などとどう互いを理解しあっているのかを考えてみてください。
それは厳密な理解とはまったく異なるにしても、かといって理解していないかというとそうではないことに気づくでしょう。そこには信頼や親しみにつながるような理解があるのではないでしょうか。

Webユーザビリティやマーケティングに必要にされる理解もそうした理解であるはずです。
それは科学的で厳密な理解とは異なります。どれだけ相手に関連する要素を把握しているのかといった理解ではなく、信頼や親しみなどを感じさせるクオリアを生み出すような理解がそこにあるのかということではないかと思います。

自分の殻から抜け出そうとする努力

そうした理解がどうすれば生み出せるのかといえば、それこそ、友人などと相互の理解を生み出すのと同じことが必要なのではないでしょうか。
自分の側の一方的な思い込みや欲望を捨てて、相手と積極的に関わっていく以外に方法はないのではないかと思うのです。

だからこそ、積極的にオフィスの外に出て、頭をからっぽにして馬鹿になり顧客の懐に飛び込んでいくスキルが必要なのだし、Webや商品のことなど忘れてユーザーや顧客を理解しようとする努力と行動が必要なんだと思います。

人なんて、普通にボーっとしていれば、つい自分の殻に落ち着いてしまいがちな生き物なんですから、そこを意識して抜け出そうとする努力がなければ、相手との相互理解というデザインを行うことはむずかしいんじゃないかと思います

そうやって得た理解というインプットなくして、デザインをよくしようなんて考えても大したことはできません。
せいぜい「文字が小さくて読みにくいから大きくした」なんていうレベルのまったく根本的ではない改善しかできないのではないでしょうか? まぁ、そうした配慮ももちろん必要であるんですけど、そもそも、その小さな文字で書かれた文章は誰かに読まれていたんでしたっけ?という話です。

関連エントリー

  
Webデザインに関する本はこちら
顧客志向に関する本はこちら

この記事へのコメント

  • WEBデザインとSEO

    こんにちは!
    ブログ検索からやってきました。
    自分のオフィスでぬくぬくしながら「ユーザーは何が欲しいんだろ?」なんて考えてるだけでは

    という下り、かなり耳が痛いです。こちらの都合ばかり押し付けて、ユーザーが本当に欲しい情報を提供できているか、というと少し不安があります。結局閲覧者ありきのWEBサイトなわけですから、そこから考慮していかないとダメなんですね・・。

    突然失礼しました、またお邪魔させて下さい。
    2007年02月11日 19:28
  • tanahashi

    コメントありがとうございます。
    また、いつでもお越しを。
    2007年02月14日 02:40

この記事へのトラックバック