今ある世界と別の世界を想像してみるスキル

マーケティングを行う上で重要なスキルだと僕が考えるものの1つに「今ある世界とちょっとだけ違う別の世界を想像してみる」スキルがあります。

ちょっとしたボタンの掛け違え

売れないものの中には、何か1つボタンを掛け違えてしまっているために、人々がもっているニーズとつながらず、欲求を喚起できずにいるものが意外と多いのだと思います。

人々があらかじめ持っているスキーマ(知識の束)と商品の置かれた文脈(コンテクスト)にちょっとしたズレがあるために、「欲しい」あるいは「必要」という気持ちを起こさせない。つまり、それは何かしらの話を聞いたり、読んだりしたときの「わからなさ」に近いものがあります。
(「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因/西林克彦」参照)

商品が描く世界と人々が住む世界が異なっていて、残念ながら人々の暮らす世界では商品の魅力が伝わらないことがある。そうした状況においては、マーケターは商品のもつ世界とは別の人々が暮らす世界を想像してみるスキルが必要になります。

自分が住む世界とは別の世界を想像するスキル

その場合、マーケターは自分以外の人が住む世界を想像してみる必要もあるでしょう。自分が見ている風景、自分がものを選ぶ理由、自分が暮らしのなかで行う行動。そうしたものを捨て去って、他の人の世界を想像することで、売れない商品を売れるようにするヒントが見つけられるかもしれない。

そのヒントは、商品そのもののデザインの変更を示唆するかもしれませんし、あるいは、マーケティング・コミュニケーションの仕方や内容の変更を示唆するかもしれません。

歴史的な文脈、文化による文脈、性差による文脈、年代による文脈、地域による文脈。

自分とは異なる文脈をもつ人々の暮らしにおける文脈を理解するには、そうした世界に住む人々を観察したり、また、直接話しかけたりして、自分とは異なる文脈に触れてみることが必要でしょう。そして、その際には観察したり話を聞いたりする際にバイアスがかからないよう、自分が普段暮らす世界の文脈を客観的に排除しなくてはいけないでしょう。

自分の価値観を相対化する

自分の価値観を捨てずに、自分とは異なる世界に暮らす人の価値観を理解することはむずかしいはずです。自分とは違う歴史や文化をもつ人々を理解するためには、いったん、自分の歴史や文化を相対化しなくてはいけません。

それこそが自分が住む世界とは別の世界を想像するスキルだといえるでしょう。

また、それは何もマーケティングだけでなく、Webサイトのユーザビリティなどを考える際でも同様に必要とされるスキルです。自分の価値観を相対化して(もちろん、完全に相対化することなどできませんが)、他人の価値観を想像するスキルがなければ、マーケティングであろうと、ユーザビリティを考慮したWebデザインだろうと、まともに行えるはずがないと僕は思います。
カンタンな言葉に言い換えれば、自分の思い込みを排除するということなのでしょう。

コンテクスト・ブランディング

阿久津聡さんと石田茂さんの共著による『ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング』では、こうした自分が住む世界とは別の世界を想像するスキルを実際に駆動させる1つの方法を提示しています。
その1つの方法として、人々の住む世界と売ろうとする商品を結びつける文脈を整理し、具体的なストーリーを組み立てるためのモデルを以下のような図で表現したります。
(中身はさらっと適当に描いてみました)



こうして商品と人々のニーズをつなぐ文脈を整理し、人々が商品を理解するために必要な要素を抽出するわけです。
もちろん、抽出された要素によって商品そのもののデザイン変更が必要な場合もありますし、価格設定や販売方法、メッセージの内容やコミュニケーションの手段の変更が必要な場合があります。

施策のデザインにおける状況の把握、ニーズの把握

当然、この図を描くには、何より人々のニーズや現在の暮らしの状況を把握することが必要です。これまた最近よく引き合いに出しているISO13407の人間中心デザインプロセスと同じなわけです。

また、この図を描くのは、あくまで具体的なマーケティング施策をどのように行うのかを考えるためですので、各要素は可能な限り具体的でヴィヴィッドな絵が想い描けるものであったほうがいい。要素があいまいで想い描く絵のイメージがあやふやなものになってしまえば、そこから導き出される施策もブレたものになる可能性があるわけで、結局、商品と人々の暮らしを結ぶストーリーにはなり得なかったりします。いくらか大胆すぎると思えるくらいに各要素を具体化してしまったほうがよいのです。

で、この要素の具体化というところが、実は自分の思い込みを相対化した上での「今ある世界と別の世界を想像してみるスキル」が試されるところなんですよね。

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この記事へのコメント

  • auzy

    「ちょっとしたボタンのかけ違え」
    このラスト1マイルの解決は、近くて遠い。
    言葉での、知識、勉強ではだめですね。
    たぶん、近いこと私も書いてます。↓
    http://yaplog.jp/trendcyclone/archive/51
    コメントなどいただくと幸いです。
    2007年02月04日 13:35

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